「やあ、岩戸青葉さん」
学校から帰ってきた少女を、彼女の自宅の門の前で種枚が出迎えた。
「あの月夜ぶりだね。君の化け物狩りの姿、正直感動してたんだぜ」
そう言われて、ようやくその少女、青葉も種枚のことを思い出したようだった。
「あ……あの時はありがとうございます、えっと……」
「そういえば、名乗っていなかったか。こっちは人伝に君の名を聞いていたけど……改めて、私は種枚。よろしく」
「よろしくお願いします。私は……って、もう知ってるんでしたっけ」
「ああ。それで、今日私が来た用事については、聞いているかな?」
「…………あ、もしかして、この間姉さまが言ってた人って、あなたでしたか」
「そうそう。それで、来てくれるのかな?」
「えっと、はい。少し待っていてください、鞄片付けて着替えてくるので」
「ああ。……そうだ、ついでに君の愛刀も持ってくると良い。きちんと鞘に仕舞った状態でね」
「? 分かりました。では一度失礼します」
数分後、私服に着替えた青葉が、刀を専用の袋にしまった状態で携えてやって来た。
「ようやく役者が出揃った。じゃ、行こうか。そうだ、『青葉ちゃん』って読んでも良いかね?」
「え、まあはい。どうぞ好きなように」
「その地下には“学会”が収集したり押収したりした魔術道具や人工精霊が保管されてるんだけどね…」
実は、と水色の髪のコドモは笑う。
「そこに“学会”が他の勢力に対抗するための秘密兵器の怖ーい人工精霊がいるんだって!」
それに…と水色の髪のコドモは得意げに言う。
「その人工精霊が保管されている部屋に入ろうとすると、警備用の人工精霊に襲われちゃうんだってよ!」
だから前に何も知らない普通の人が入ろうとしちゃって、怖ーい思いをしたんだとか!と水色の髪のコドモは両手を顔の近くに持ってきて指先を下に向け、よくあるお化けの真似をした。
「ほえーん」
キヲンはポカンとしたような顔をする。
その様子を見て水色の髪のコドモは不思議そうに尋ねた。
「あれ、そんな怖くない?」
「うん」
キヲンはそう頷く。
「だって現実味が全くないし…」
キヲンが言うと緑色の髪のコドモはそうなの?と首を傾げる。
「大丈夫か?」
せんちゃんが走るのをやめて、振り返る。
「いや…うーんと…あれ?『神隠し』は撒けたの?」
ゆずが尋ねると、せんちゃんは眉を寄せた。
「…あれ…私は一体なにから逃げてたんだろう」
「はぁ?」
せんちゃんがおかしい。ゆずの訝しげな視線に、せんちゃんは困った顔をして進行方向に向き直る。暫くその先を見つめ、また振り返った。
「…幻覚を見てたっぽい」
「幻覚?」
「いるんだ、たまに。死んだ自分と同じ目に遭わせてやろうとする幽霊」
「神隠しの幻覚を見たってこと?」
ゆずがせんちゃんの側に寄ろうとすると、せんちゃんがゆずを手で制した。
「そういうこと。この先は崖だ」
「えっ?」
よく目を凝らすと、1メートルくらい先から地面がなかった。
「危な…」
「ギリギリだったな」
せんちゃんが崖を背にしてゆずの手を引き歩きだした。ゆずもそれについていく。
_落ちれば良かったのに。
崖下から聞こえた声は聞こえないふりをした。
たとえ世界の終わりがどんなふうだって
人のいない団地の下のテニスコートで
できないサーブをくりかえそう
相手が壁か 君かのちがいだ
終わりすぎた世界で終わらない拍手
君と僕とで続けるんだ
悲鳴なんてもう聞こえないから
笑い声が果てしないだけの街で
どこまでも空っぽだったよ
いまになってみんな気づいたんだ
だけどそれはとても大切な空虚
爽やかなムードは今もずっと
傷ついた記憶と約束
すべてノストラダムスがさらって
なんてわかりやすくて理解しがたい
週末の景色なんだろう
たとえ世界の終わりがどんなふうだって
それはそれで幸せで
だって君とそれを迎えることが
今の僕にはできるんだし
さあコンビニに行こう
街に出よう 虚しさに笑うのはこりごりだ
すぐそこのスーパーの腐った匂いは
遠い海からのおくりもの
たとえ世界の終わりがどんなふうだって
たとえ世界の終わりがこんなふうだって
たとえ世界の終わりがやってきたって
たとえすべて夢よりも儚いと知ったって