私はこの世界で暮らしている者でして。
何かあれば聞いてください。
できる範囲でお答えしますよ。
「できる範囲」、でね。
ん?
私が何者かって?
.......
ちょいと旦那(お姐様方かも知れませんね、失敬)
そいつを聞くのは野暮ってもんでしょう。
ンなこたぁどうでもいいじゃあありませんか。
ま、敢えて言うなら、
どこにでも居そうな一般市民、って事で。
あんまり言いふらかさないでくださいよ、あくまでただの人間のつもりですから。
ただの人間の「つもり」ですからね。
「テメェら…」
ナツィは何か言いたげな顔をしたが、飛びかかってくる怪物に気付いて即座に飛び上がる。
怪物はそのままキヲンたちに突っ込もうとしたが、そこへ今度は青い髪に白ワンピースのコドモが駆け込み短剣を怪物に向けた。
青髪のコドモが持つ短剣は、切っ先から光線がいくつも伸びて魔力障壁を展開した。
「>;*{+]“|>}‘;$[!」
怪物は障壁に弾き飛ばされる。
キヲンたちはその様子を呆然と見ていたが、赤い髪にキャップ帽を被ったコドモとジャンパースカート姿のコドモが駆け寄ってくるとキヲンはあっと声を上げた。
「露夏ちゃん! かすみ!」
助けに来てくれたの⁈とキヲンは立ち上がり2人に近付く。
「もーお前ら何やってんだよ」
赤髪のコドモこと露夏は腰に右手を当てて呆れたような顔をする。
「“学会“本部の地下にいる警備用人工精霊にちょっかいかけるとか正気か〜?」
露夏はそう言ってキヲンの顔を覗き込む。
キヲンはだって〜と口を尖らせた。
「きみは」
不意に誰かの呟きが聞こえたので、露夏が声の主の方を見るとヒレ耳のコドモ…クロミスがふらふらと立ち上がっていた。
あと短い命
私は頑張って生きます。
辛いときは貴方の笑顔を思い出してみます
そしたらホラ、この短い命がこんなにも長く感じられる。
2人が歩き始めて間もなく、2人の背後で木の枝の踏み折られるような音が聞こえた。咄嗟に振り返ると、先ほどまで2人が休んでいた木の陰から、一人の子どもが二人の方を見ている。
「あ、休憩はもう終わったんだ?」
子どもはそう言って、ふらりと揺れて姿を消した。
「ッ!」
「っ⁉」
種枚と青葉はすぐ進行方向に振り返り、種枚はその勢いのまま右腕を振り抜いた。彼女の放った殺意の斬撃が飛んだ先、2人の前方数mには、先ほどの子どもが腕を身体の前に構え防御していた。
「ひどい……いきなり攻撃するなんて」
嘆く子どもの口調は極めて軽い。
「畜生……居るんじゃねェか」
「あれが天狗、ですか」
「だろうな。もっと赤いツラしてると思ってたよ」
「いやだなあ、そんなカッコ悪い天狗像、今どき古いよ? 今は天狗だってオシャレでいたい時代さ」
2人の会話に子ども、否、天狗が割って入る。
「勝手に話に入ってくンじゃねェ、クソ妖怪が!」
再び種枚が殺意の斬撃を飛ばすが、天狗はまたも姿を消して回避する。
学校からの帰り道。目の前にぬいぐるみが座っていた。
何かの動物をモチーフにしているんであろう、実在の生き物では確実に無い何か。
それに気を引かれながらも真横を通り過ぎようとすると、すれ違う瞬間、それの首がぐりん、とこちらに向いた。
「わぁ生きてた!」
「やぁ、ミチカちゃん」
ぬいぐるみが私に話しかけてくる。何故これは私の名前を知っているんだろう。
「……取り敢えず何? ぬいさん」
しゃがみ込んで目線を合わせ……いや高さ15㎝かそこらのぬいぐるみと完全に目線を合わせることは不可能なんだけど……とにかく用件を聞くことにする。
「ねぇミチカちゃん、『魔法少女』になってみたくないかい?」
「何それ」
「煌びやかな衣装を身に纏い、華やかな魔法を自在に操り、化け物達と戦って世界を守る、素晴らしい人種さ」
「へぇー……お断りしまーす」
立ち上がって帰ろうとする私を、ぬいぐるみが引き留めた。
「ま、待ちたまえよ! 君だって一度や二度はあるだろう。『魔法』や『ファンタジー』に憧れたことくらい! ぼくの誘いを受ければ、『魔法少女』としてどんなことだってできるようになるんだ!」
「へぇ興味無いなぁ」
「そ、そんな……」