私を好きになってほしい反面、嫌いになってほしいと思います。なぜか?あなたを残しあなたを悲しませたくないから
だから嫌いになって(*^^*)
「……んー、ヒオちゃんは今でも、できることを頑張ってるじゃない。街の人たちの避難誘導とかさ」
「そりゃ、私だけ何もしないわけにはいかないでしょ。せっかく4人揃って、あの……何だっけ、『魔法少女』? とやらになれって言われてさ」
「あー、あのヌイグルミね」
「いや多分何かしらの動物だと思うけど……3人は魔法少女としてちゃんと変身してちゃんと戦ってるわけじゃん。それなのに私だけ、その……何もしないってのは…………」
「なに、仲間外れっぽくて寂しい?」
「いやそうじゃなくて……」
徐ろにフウリが立ち上がる。
「お昼にしよっか。お腹がいっぱいになれば考えもまとまるよ。用意してくるから、ここで待ってて。考えの整理でもしててよ」
「……うん」
フウリが退室した後、テーブルの上を片付けていたヒオがふとテーブルの上に目を戻すと、中央辺りに全高30㎝程度のぬいぐるみのような生き物が鎮座していた。ヒオはほぼ反射的にそれの頭部を掴み、床に叩きつける。
『…………アハハ、お転婆だなァ。痛いじゃないか』
「いきなり出てきて何の用? ヌイグルミ」
『おかしいなァ。名前は最初に教えてあげたはずなのに……まあそこはどうでも良くって。どうやら君1人変身できないのを気にしているようだから、何かアド痛い痛いイタイイタイイタイ』
ヌイグルミの頭部を掴むヒオの力が強まり、ヌイグルミは言葉を中断させられた。
『……まァ、どうやらこちらから言う事は何も無いみたいだけど』
「……は? どういう意味?」
『ヘイローが言っていただろう? 君には頼れる仲間がいる。まだ保護者の出る幕じゃァないってことサね』
いつの間にか拘束を抜け出していたヌイグルミは、再びテーブルの中央に戻ってからその姿を薄れさせ始めた。
『じゃァね。次会ったときには、君の悩みが解決していることを期待しているヨ』
ヒオがヌイグルミの頭部に向けて消しゴムを投げるのと、ヌイグルミが完全に消滅するのは、ほぼ同時だった。
変化を受け入れられなくなったら
きっと、その想いは過去形
現在には無縁のもの
でも、その代わり
もう何も変わらないよね。
正確に言えば、「カナ」は写っていない。
が、「同一の個体」は写っている、
と言う状況である。
つまり、戦前に存在していた彼女はもう居ない。
それだけである。
だからどうという事はない。
カナ自身も、なかったことのように扱っている。
ただいっときを除いては。
彼女が一人で退屈でしょうがないときのみ、
思い出にふけることにしている。
エミィはそれを知ってか知らずか、
よくフラフラと出かけて行くことがある。
「おかえりなさい」
エミィの帰りの早さに少し安堵しつつ、
彼女は写真をウェストポーチに突っ込んだ。
乾いた地面に安堵して
うるさい雨音にうんざりして
雨が好きになれないのは
きみがいないから
シオン、固有魔法が発覚してから二週間。
まるで当然のように、いつの間にか保健委員になっていた。
「せっかく昼休みですのに、一緒に遊べないなんてつまりませんわ」
「うーん…私も、勉強とかより外でいっぱい遊びたいタイプなんだけど…しょうがないよね」
エリザベスはシオンと話したいがために保健室に入り浸るようになった。あっという間にもう5月後半で、雨も増えてきた。
「シオンさんは、頭痛とかも治せますの?」
「原因にもよるけど…なんで?」
「私、雨の日は頭が痛くなりますの。今日は特に酷いものだから、できたら治していただければ…なんて」
エリザベスは途中から気まずそうに目を逸らした。小声で図々しいかしら、と呟いたのがシオンには聞こえた。
「気にしないで、治るかはわからないけど…やってみるよ」
…翌日、偏頭痛を治してもらったとエリザベスが話しまくったせいでシオンのあだ名がなぜか『看護師』となってしまった。
君とこの代わり映えのない日々を重ねてゆきたいと思うのです。
分かち合いたいと思うのです。
あい、してる。
口に出せないから空気に溶け込ませてお届けです。
うとうとしていたら
お湯が沸いて
虫がそばをとおって
窓の外で信号がかわった
雑草に目をこらして引き抜けば
奥多摩のトンネルのにおいで締めつけてほしくなった
それと同じように
訪れるのではなく過ぎさる季節を折りたためば
ニセコの雪に寝てしまいたくなった
遠いな
わたしはなぜここにいるのだ
生活を選べないので
自分に布団をかける今日が
すこしだけにくい
「……ようやく手が届いた」
そう呟いて青葉は倒木の下から飛び出し、天狗に斬りかかった。天狗は仰向けに倒れ込むようにしてそれを回避する。
「な、なんで⁉ なんで生きてる⁉ お前はただの人間のガキだろ⁉」
動揺してまくし立てる天狗に構わず、青葉は天狗が立ち上がる前に左肩を片足で踏みつけ、喉元に〈薫風〉の切っ先を突き付ける。
「捕まえた」
「ッ……! ば、馬鹿にするなよ! ボクは『天狗』だぞ!」
天狗がそう叫ぶと、青葉の足元の土が風で舞い上がった。土煙の目潰しに思わず身を捩り、足が天狗から離れてしまう。
(離れた! このまま姿を消して仕切り直す!)
“隠れ蓑”を使い、起き上がろうとする。しかし、それは叶わず再び地面に倒れ込んでしまった。何者かに足首を強く掴まれ、片脚が使えなくなっていたのだ。
「なっ……⁉ お前ら、2人しかいなかっただろ! 一人は離れた場所に誘導しておいた! これ以上どこに人手があるっていうんだ! 誰だよ⁉」
「あぁ……それは私も気になってたんだ。さっきは助けてくれてありがとう。名前くらいは聞いておきたいんだけど?」
喚く天狗に便乗するように、青葉は倒木の方に向けて問いかけた。それに応じるように、倒木が粉砕され、身長に対して異様に細身で華奢な印象の和装の少女が現れた。
「ああ、ワタシの可愛い青葉。勿論その質問には答えさせてもらうよ! ワタシの可愛い青葉にワタシを呼んでもらえるなんて、何て素敵なんだ!」
3度、4度、5度目の撃破。すぐさま再生。粉微塵程度でどうにかできるような代物じゃあないよ。
「…………けど、いい加減見飽きたなぁ」
ゴーレムに斬りかかろうとする魔法少女を『指差す』。
魔女の指差しは呪術的攻撃力を持つ。魔力と呪詛はあの忌々しい“魔法少女”に真っ直ぐ飛んでいき、ヒット。
殴りかかるゴーレムに反撃しようとした瞬間、私の呪いが届いた。あの子の身体から急激に力が抜け、その場に膝をつく。こうなれば、私のゴーレムは確実に当てられる。
巨大で重厚な拳が見事に命中し、あの子は壁を数枚ほど破壊しながら吹っ飛んでいった。
「さあ行けゴーレムあいつを追って。死体の様子を確かめようか」
魔法少女でぶち破った穴から腕を突っ込ませて、民家の中を探らせる。変形させてできるだけ腕を伸ばさせているけど、どこに入り込んでしまったのかなかなか手応えが無い。
「…………いや」
違う。『見つからない』んじゃない。『既に移動している』んだ。
あのダメージで逃げ出したとは思えない。最低でも動けなくなるくらいの衝撃は与えたはずだから。となると…………。
『もう1人仲間がいて、その子に逃がしてもらった』
背後からの声。咄嗟に振り返ると、何かヌイグルミのような生き物が数m離れたところにちょこんと座っていた。
「誰?」
『君が戦っている魔法少女の上司みたいなものだヨ』
「へぇ」
『しかしまァ……驚いたなァ。君、こちらと無関係に魔法を使うなんて……君、その力を世界のために活か』
指差して呪詛でヌイグルミを撃ち抜く。
『……ひどい、なァ。いきなり……』
「失せろ悪魔が。『その枠』はもう埋まってるんだよ」
護衛用に手近に残していた小型のゴーレムを棘状に変化させ、ヌイグルミの頭部を撃ち貫く。確実に殺したと思ったけど、その姿はすぐに薄れて消えてしまった。どうやら仕留め損ねたみたいだ。