「いーい天気だなぁ....」
ーここは大陸の西端に位置する国、
ハルク帝国である。
海に面しており、一年中温暖。
その上ここ500年程、大きな争いはない。
そんな国の砂浜に、少女は一人佇んでいた。
少女の名は「」。
彼女は、近くの岩の根本、ーというのか定かではないがーを軽く蹴り上げた。
すると、重厚であろう岩からは想像できない程
容易く、後ろへと倒れた。
岩の下には空洞があり、そこには。
無限にも思える様な、長い螺旋階段が続いていた。
「いやぁ、ね、ウチも噂で君の存在は前々から聞いてたんだけどさ」
わざわざ彼らと一緒にいなくてもよくない?と雪葉は尋ねる。
わたしは思わずうつむく。
確かにわたしはなぜ彼らと一緒に…?
つい考え込むが、不意に屋上に強い風が吹いてわたし達の足元に白いつば広帽が飛んできたことで、その思考は中断された。
「あ、すみませーん」
透き通るような声と共に、背の高い少女がこちらに駆け寄ってくる。
わたしは思わず足元の帽子を拾い、彼女に手渡した。
少女はありがとうございます、とお礼を言って帽子を被ると、そのまま屋上の下の階に続くエレベーターの方に向かっていった。
わたし達は静かにその少女の背中を見ていたが、突然穂積がこうこぼした。
「あの子…もしかして異能力者⁇」
急な言葉にわたしはえ?と聞き返す。
「確かに、あの子からは異能力の気配がした」
でも、と雪葉は続ける。
わたしはでも?と促す。
「変な感じだった」
まるで薄れているような、と雪葉は呟いた。
「よォ、潜龍の。わざわざこの種枚さんを呼び出すたァ珍しいじゃーないの。何用だ?」
“潜龍神社”に訪れた種枚は、鳥居の前で待っていた平坂に軽く手を挙げて挨拶した。
「ようやく来たか、鬼子め。今回ばかりは貴様が最も都合が良いと思ってな。ついて来い」
平坂に先導され、種枚は神社本殿に向かった。
平坂が本殿の扉を叩くと、中から巫女姿の少女が現れ、2人に頭を下げてからその場を立ち去った。
「今の娘は?」
「俺の妹だ」
「嘘だァお前にあんな可愛い妹さんがいたのかよォー!」
「別にどうだって良いだろうがそんなことは。本題はこっちだ」
平坂が本殿内部を指す。種枚が中を覗くと、大黒柱の根元に何者かが縛り付けられている。薄暗がりの中目を凝らすと、それは和装姿の中性的な子供だった。
「……何だあのガキ。私の指定席に陣取るたァ良い度胸じゃないの」
「馬鹿言え、この神社で最も確実な収容場所というだけだ。……そしてあの子供、本人が言うところによると」
そこで一度言葉を切ってから、平坂は種枚に向き直って続けた。
「あれはこの神社の祭神らしい」
「……なんで…………どうして、こんなことを?」
彼女が尋ねてきた。
「『こんなこと』って?」
「私達、仲間じゃないですか……なんで、同じ“魔法少女”に」
ありったけの殺意と敵意、呪詛を込めて奴を睨みつける。肩の辺りを重点的に見つめ続け、右の鎖骨を粉砕する。
「っ……⁉」
「ぎっ……ふ、ざ……けるなよ…………!」
『実害』を与える程の呪術となるとこっちの負担も大きい。両の眼球が焼けるように痛むけど、そんなの関係無い。今はこの舐め腐った“魔法少女”をブチ殺すのが先だ。
「うぅ、なんで……」
取り落とした短槍を拾い上げようと膝をついた奴に接近し、その顎を蹴り上げる。
仰向けに倒れ込んだ奴の身体の上に腰を下ろし、喉に手をかける。これで命は握った。
「やっぱりそうだ……」
奴が何か言い始めた。
「あなたは私達を『殺したい』わけじゃない」
再び睨む。奴の左眼が弾け飛んだ。こちらの両目からも生温い液体が溢れ出してきているけど構わない。けどこいつを殺す前に、これだけは言っておかなくちゃならない。
「良いか! 私もお前も、所詮は悪魔に魂売り渡した“魔女”でしかないんだよ! 飽くまで本質は『邪悪』だ!」
「なっ……! 違う! ヌイさんは、魔法少女は……!」
「黙れェッ!」
奴のもう片目も潰す。こっちも左眼が見えなくなったけど問題無い。
「ただの子供に甘言吐いて死地に送り込む人外が、悪魔じゃなくて何だってんだ! ……そのくせお前ら、何を名乗って……『魔法少女』、だと……? 正義の味方にでもなったつもりか⁉」
奴の首を掴む力が自然と強まる。
「私は自分の意思で悪魔と繋がった。その『悪性』を誇りにもしている! 自ら選んだ道への『責任』であり『義務』だからだ! それをお前ら……“魔女”の身で自分の邪悪に目を背けてんじゃあないぞ!」
奴の首を捩じ切る勢いで手に力を込めた。けど、その瞬間、奴は姿を消した。また転移の術だ。