…とここでネロが呟く。
「ま、こんな所っでいつまでも悩んでるワケにもいかないし」
とにかく行こう、とネロはイスから立ち上がる。
「やっぱり駄菓子屋?」
「せいかーい」
耀平とネロはそんな会話をし、他の皆もわたしもイスから立ち上がろうとする。
しかし、ここで聞き覚えのある声が飛んできた。
「あら?」
パッとわたし達が声のする方を見ると、つば広帽を被ったワンピース姿の背の高い少女が休憩スペースの入り口に立っていた。
「もしかしてあなた達…」
さっき屋上にいた…と彼女は呟く。
「あ、さっきの!」
わたしがそう言うと、ネロがもしかしてこの人が?とわたしに小声で尋ねる。
「うん」
さっき話してた人だよ、とわたしはうなずく。
ネロはふーんと少女の方を見やった。
少女はわたし達のひそひそ話を見て不思議そうな顔をしていた。
「…それにしても、どうしたんです?」
こんなショッピングモールの隅っこで、と雪葉がわたしやネロから彼女の気を逸らすように聞く。
水が飛び跳ねる。シオンの右手、そして服が濡れた。
「……」
「シオンさん?どうかいたしました?」
「リサちゃん、私突拍子もないこと思いついちゃったよ」
シオンが水道からゆっくり離れる。その右手には多数の切傷、制服のシャツは局地的にぼろぼろになっている。
「そ、そのお怪我は…」
「あのね、多分なんだけど…水が問題なんじゃないかな」
「えっ?」
シオンがいつのまにか傷の癒えた右手でエリザベスの手を掴む。
「さっき言ってた鏡の噂なんだけどさ、よく考えたら怖いものみたさでその踊り場に行きたくても、先生の強力な魔法で規制かかってるから行けないはずなんだよね」
「初耳ですわ…」
「だから、別の鏡にも問題があるんじゃないかなとか思ったんだけど、今分かった」
「なにがお分かりになったの?」
「水が攫ってるんだよ。あの規制されてる踊り場のところね、雨漏りしてたの思い出した」
「先輩助けに来まなぁーんかヒオ先輩も変身してるぅ⁉」
炎を破って現れたのはフレイムコードだった。
「あ、ホタちゃぁん……フウリ先輩負傷中……たすけて…………」
フレイムコードに気付いたフウリが、蚊の鳴くような声で呼びかける。
「りょ、了解です! けど、不謹慎だけど火事が起きてたのは都合が良かった。私の『魔法』でも心配せずに使える。はーちゃん!」
フレイムコードに呼ばれ、炎の隙間をドゥレッツァが駆け込んできた。
「うぅ、足裏熱い……」
「はーちゃん、フウリ先輩をお願い」
「分かりましたっ。それじゃ」
ヘイローを背負い、ドゥレッツァは素早く火の中から離脱した。
「それじゃ、あの化け物片付けますか、ヒオ先輩」
「うん。早速来るよ」
怪物が口から火炎を吐き出した。それに対し、フレイムコードはスタッフを振るって炎の渦を生成し相殺する。
続いて放たれる尾の一撃をアリストテレスの障壁で一瞬防ぎ、破壊されるより早く後退して回避する。
「ぅあ……これ、マズいかもですヒオ先輩…………」
「何が?」
「いやぁ……だって考えてもみてくださいよ。好き好んで周囲火の海にする火炎放射機能搭載モンスターが、私の『火』で倒せると思います?」
「大丈夫、そっちは私の仕事だから。ホタはホタの『魔法』でできることをやって」
「私にできることぉ……?」
「なッ⁉」
慌てて子供を捕まえようと、平坂が前に出るが、子どもはそれを機敏に躱し、屋外へ出て行く。しかし数m走ったところで、上から降ってきた種枚に組み伏せられた。
「ぐああー! 放せ無礼な人の子めがー!」
「お、この子見る目あるねェ。潜龍のなんかよか、よッぽど私のことが良く見えてる」
「うるさい! 我を神格と知っての狼藉かー⁉」
「神だろうが今死んでねェなら殺せば死ぬだろ」
無感情で平坦な種枚の返事に、子どもが息を呑む。瞬間、種枚の身体が弾かれるように子どもの上から転げ落ちた。
「おい、どうした! 無事か!」
駆け寄ってきた平坂に、種枚は片手を挙げて応える。
「ぅぁー……1回食らったことあるから慣れてはいるがよォー……こいつ、シラカミメイよか出力がデケぇや」
「何?」
よろよろと立ち上がりながら、種枚は言葉を続ける。
「このチビ、『雷』を使いやがる」
2人が子どもに目を戻すと、そこには小さな身体に合った大鎧を身に纏い、七支刀を構えた件の子どもの姿があった。
「あらら……可愛い剣士さんもいたもんだ。なァ潜龍の?」
「……何だ」
「あれだけの真似ができるモノが、本気で『神を騙る物怪』だと思うかね?」
「……武具の生成、雷の発生、それにあの構え、ほんの1桁歳の人間に身に付く練度じゃあない。これだけの多才性……」
「……つまりィ?」
平坂はそれには答えず、無警戒に子どもに向けて歩いて行く。
「ぬ?」
そして半ば呆然としている子供の目の前に跪いた。