「放せ!」
ナツィは拘束してくる相手に対し声を上げるが、相手は黙ったまま拘束する。
少しの間その状態が続く中、不意に前方から…コイツかと声が聞こえてきた。
思わずナツィが前を向くと、マゼンタ色の短髪に尖った耳でストリートファッションを纏ったコドモがスカーフを頭に被った緑色の肌のコドモを連れてこちらに近付いてきていた。
2人と共にレモン色の髪のコドモも舞い降りてくる。
「コイツが昼間遭遇した人工精霊よ」
“黒い蝶”とかいう奴、とレモン色の髪のコドモはマゼンタ色の髪のコドモに言う。
マゼンタ色の髪のコドモはナツィの顔をふーんと覗き込む。
「ねぇどうすんの、フューシャ」
コイツあたしたちの所までわざわざ来たんだよ、とレモン色の髪のコドモはマゼンタ色の髪のコドモことフューシャの顔を見る。
「このまま放したら多分あたしたちのアジトが“学会”にバレちゃうだろうし」
レモン色の髪のコドモはそう言ってフューシャの答えを待つ。
フューシャは暫く考え込んだが、やがてこう言った。
「…そりゃあ、ボコすしかないでしょ」
「だよね〜」
レモン色の髪のコドモは明るく答える。
青葉が疑問に思いながら戦闘の様子を見ていると、少し離れた場所から金属が擦れるような音が聞こえてきた。
そちらに目をやると、具足を身に纏った武者のような悪霊が、刀を引きずりながら霊能者たちの背後に忍び寄っている。霊能者たちは腕の悪霊に集中していて気付いていない。
「っ、危ない!」
叫びながら、青葉は屋根から飛び降り、武者の幽霊に持っていた杖で殴りつけた。
(……あっ、流石に出てきたらマズかったかな……さっさとここから離れよう)
武者の霊の構えた刀に杖を合わせ、押し返しながらその場を離れ、素早く横道に入り込んだ。
「あの落ち武者は……あれ?」
追ってくるであろう武者の霊を警戒して振り向いた青葉だったが、武者は道の前で立ち止まり、先ほどの霊能者たちがいた方をじっと見ていた。
「……来ない?」
霊能者らに向かっていく武者の霊を呆然として見送り、青葉はその場を離れた。
(ワタシの可愛い青葉。あの人たち、助けに行かないの?)
(うーん……私と違って本職の人たちだし、もう不意打ちにもならないだろうし……。それよりもちょっと気になることがあってさ)
(ほう? 気になること?)
再び屋根の上に登り、青葉は夜の街を駆け始めた。
「正座」
奴に言う。
「はい」
ちょうどブロック・ミールを食い終わった奴は素直に従い、床に座った。
「なんでここにいる?」
「ついて来ました」
「なんで?」
「お兄さんの住んでるところが気になって……」
「何故入ってきた?」
「開いてたので」
うっかり手が出た。奴の脳天に振り下ろした拳を振って痛みが引くのを待つ。奴に目を向けると、殴られた頭を押さえながらもにたにたと気味の悪い笑みを浮かべていた。
「ぅえへへ……お兄さんにいただいたこの痛み、一生大事にします」
「うっわ鳥肌立ったわ」
「良かったじゃないですか。今年の夏は暑いですもんね」
「気色悪いっつってんだよ馬鹿ブッ殺すぞ」
「どうぞ」
「は?」
奴は両手を広げてこちらを真っ直ぐ見つめ返している。
「首を斬るなり心臓を抉るなり、どうかあなたの望むように。さぁ、どうぞ?」
眼に一切の躊躇が無い、っつーか狂気が見える。
「ごめんなさい言い過ぎました」
殆ど反射的に土下座していた。
「……あれ?」
決めた。2度とこいつに殺すだとかそういう暴言は吐かないようにしよう。
・ヒュドラ
大きさ:全長40m
『アダウチシャッフル』に登場したビースト。9つの長い首を備えた四足歩行のドラゴン。胴体と脚部はでっぷりと太く、力強い印象を与えるが、尾と首は反対にすらりと細長くスマートな雰囲気も併せ持つ。
頭部のうちソレから見て左から4番目の首は口から毒霧を吐く。
・リヴァイアサン
大きさ:最低でも全長500m以上
『釣り人の日常』に登場したビースト。巨大なウミヘビ。デカくて重くて微妙に速くて異様にタフい。あまりに大きすぎて生命力あふれるせいで、何度も殺そうとして未だに致命傷を与えられた試しが無く、撃退して再び深海に帰っていただくしか現状の対抗手段がない。
実は口に含んだ海水を高圧で吐き出すドロポンめいた必殺技がある。ちなみに吐き出した水からは塩分や不純物が漉し取られてほぼ純水になっている。取り除かれた塩分などは一度喉奥の器官に蓄積されてある程度の塊に圧縮されてから胃袋へ送られ、胃石のような働きをする。
わざと、目を合わせる。その呟きに梓は渋い顔をしつつもまあチトニアができるならいいけど、と答えた。梓は目をわざと合わせるのは良策ではないと考えている。しかしチトニアははっきり言って脳筋であった。策もトリックも苦手な彼女はゴリ押すしかないのである。
「梓を投げるのもありかなって」
「私のことが大事なんじゃなかったのか」
「大事だけどぉ」
軽口を叩いていて、梓はとあることに気づいた。
「この部屋粘液でえぐいことになってきてないか」
ビーストの出す粘液が部屋中に散乱していたのである。そこで梓はふと思った。このビーストは視界に常に腕があるからよく見えない。耳はあるようだがあまり良くはない。鼻に関しては不明だが、嗅覚で自分たちを追っているわけではなさそう…。
「この粘液って私たちの位置を温度で把握するためにまいてたり…」
その呟きに、チトニアは顔を輝かせた。
「もしそうなら素早くても捕まえられちゃう!?」
「やってみるか」
・アーテラリィ
大きさ:体長12m(完全体)
『魂震わす作り物の音』に登場したビースト。凡そ人型の外見をしているが、腕部が異常発達しており、逆に脚部は著しく退化している。移動時は両手を用いて這うように動く。
顎を巨大化させ、材質に関係なく摂食し養分に変える咬合力と消化能力に加え、腕部の体組織をミサイルのように発射する特殊能力がある。発射されたミサイルは、対象物に対してある程度の追尾性能を有する。
また、生命力に優れ、首と心臓が無事であればしばらくの間は生存できる。顎も残っていれば摂食によって急速に回復が可能。
・ニュートロイド
大きさ:身長2.2m、尾長2.5m
『Bamboo Surprise』に登場したビースト。外見は二足歩行する大型有尾両生類のようだが、両足は2本指で、頭部はどちらかといえばワニのような大型爬虫類のものに近い。眼球は無く、代わりに皮膚全体が受けた光を視覚情報として取り入れている。知能が高く、人語を理解し、高速並列思考が可能。本気で脳を回転させていると、周囲の動きがゆっくりに見える。今回は腕を捥がれて動揺していたため、それが起きなかった。
戦闘時には手足や尾を用いた格闘を行う。
体表からは粘液を分泌しており、これにはニホンアマガエルの粘液と同等程度の毒性がある。
・キマイラ
大きさ:体長8m、肩高3.5m
『猛獣狩りに行こう』に登場したビースト。外見は体毛の黒い巨大な獅子の肩から、ヤギの頭と竜の頭が生えたもの。
獅子頭は口から炎を吐き、竜頭には鋭い角と牙があり、山羊頭は声が怖い。冗談抜きに吠え声を聞くとまともな生物なら萎縮して動けなくなるか恐怖で失神するレベルで声が恐ろしい。