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黑翆造物邂逅 Act 3

「…」
カシミールはその人物を見て目をぱちくりさせる。
その人物はカシミールより少し背が低いくらいだが、外は暖かい上、今は屋内にいるのに黒い外套を着て付属の頭巾で顔を隠しているのだ。
さらにカシミールが今までに感じたことのないような“妙な気配“もする。
なんなんだろう、この人、とカシミールはつい不思議に思うが、そう考えていると外套の人物はちらとカシミールの方を見やった。
外套の頭巾の下からちらりと見える冷たい目に、カシミールはびくりとする。
「あ、ご、ごゆっくり〜…」
カシミールはぎこちない笑顔を浮かべると、慌ててそのテーブル席から離れ、カウンターへと戻っていった。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 16

アカがモザとロディにアリエヌスの群れを倒す方策を伝えてから10分ほど。
アカはアリエヌスの群れから少し離れた場所を飛行しつつ、群れの様子を伺っていた。
『なぁアカ、ホントにこれで大丈夫なのか?』
アカの脳内に、レヴェリテルムの効果によってモザの念話が飛んでくる。
『アカが囮になってアリエヌスを引きつけてるうちに、おいらとロディたちが親玉をやっつけるって作戦だけど……アカの負担が大きすぎねぇか?』
『そうだよアカ、いくらロディたちのことを信じたって、難しいものは難しいだろうし……』
モザとともに天蓋の上からロディも念話を飛ばす。しかしアカは『大丈夫』と短く返した。
『自分は、死んだりしないから』
アカはそう自身に言い聞かせるように言うと、不意に空中で静止する。そして銃器型に変形させていたレヴェリテルム“Aurantico Equus”を上空に向け、1発だけ高出力のエネルギー弾を撃ち出した。
エネルギー弾は上空へ向けて打ち上がると、高度数百メートルほどのところで花火のように炸裂する。戦場で戦うアヴェス、そして侵攻するアリエヌスたちはそちらに気を取られた。
「……え」
天蓋上からアカの様子を見ていたロディは思わず呟く。そして、アリエヌスの群れから悲鳴が上がった。
「あ、見ろロディ!」
モザの言葉で我に返ったロディはモザが目を向ける方を見やる。モザが目を向けるアリエヌスの群れから、衛兵のように親玉を守っていたアリエヌスたちがアカの方に向かっていた。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ -Japanese Robin- 15

「おいらたちアヴェスにも体力の限界ってものがあるし、ひたすら雑魚どもを倒し続けてればって訳にもいかないし……」
「どうしたもんか」とモザは腰に手を当てる。ロディも「そうだねぇ」とこぼすが、アカは上空を見上げながら「……じゃあ」と呟いた。
「あの群れから親玉を引き離す」
「えっ」
アカの思わぬ言葉にモザとロディは驚く。
「ちょ、ちょっと待て」
「お前だけであんなの相手にするとか無理だろ」とモザは慌てる。ロディも「そ、そうだよ!」と同意した。
「さっきアカ1人で群れに突っ込んでったときだって……」
「いや、自分1人でとは言ってない」
ロディの言葉を遮るように、アカはきっぱりと言う。モザとロディは目をぱちくりさせた。
「サンダーバードのみんなで連携すれば、きっとなんとかなる」
そう言い切るアカを前に、モザとロディは顔を見合わせ、そしてアカの方を見やる。
「…でも、どうやって?」
ロディが尋ねると、アカは「考えがある」と頷き、話し出した。

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黑翆造物邂逅 Act 2

「…“カシミール”、2人を席に」
「あっはい」
来客と店主の話を聞いていたコドモは、ハッとしてイスから立ち上がる。
そしてカウンターの端から店内の座席が並んでいる方へ出ると、店の窓際の2人掛けテーブル席に2人を案内した。
「どうぞ」
木製のイスを引いて2人に座るようカシミールが促すと、老人はありがとうと言ってイスに座る。
しかし黒い外套のコドモの方は座ろうとしない。
「…あ、座っていいんですよ」
カシミールはそう笑いかけるが、相手は黙ったまま立っている。
なぜか座らない客に、カシミールは少し困惑した。
「あの…」
「あぁ、大丈夫だよ」
この子はただの人見知りだから、と老人は微笑む。
カシミールはついポカンとするが、老人が黒い外套の人物に座ってご覧と微笑むと、その人物は恐る恐るイスに座った。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 その⑨

「ビク太郎、ズー坊。お前らの出る幕は無ぇ。大人しく下がってろ」
カズアリウスの指揮で、他の2人は後退した。
「おや、君のような雑魚一人で相手するつもりかい? 思い上がるのはやめた方が良いと思うがねぇ」
研究者の男が揶揄うように言う。
「うるっせ。馬鹿にすんなよ? これでも“以津真天”のアタマ張ってんだ。1つ、俺の本気ってやつを見せてやるよ。アリエヌス壊されて泣くなよ?」
「確約はできないね。本当にそうなったなら、嬉し泣きするかもしれない」
「ほざけ」
そう吐き捨て、カズアリウスは彼のレヴェリテルム“Calcitrare ungula”を変形させた。変形機構が起動し、踵部分に長さ20㎝程度の折り畳み刃が展開する。
「……随分と短い刃だ。大型を相手するには力不足だろう?」
「そうかもな。まァ食らって判断しやがれ」
足裏のブースターを起動し、カズアリウスはアリエヌスの頭頂より高く飛び上がると、右脚を伸ばしたまま足裏が直上を向くほどに振り上げた。
「蹴り殺せ――」
ブースターを再点火し、振り下ろす動きを超加速して、アリエヌスの脳天目掛けて踵落としを叩き込む。
「Calcitrare ungula”ァッ!」
ブースターからは凝縮された高火力エネルギー砲が放たれ、それを推進力としてアリエヌスが盾のように構えた腕に踵のブレードが突き刺さる。勢いは衰える事無く蹴撃が完全に振り抜かれ、腕の一部を大きく抉り抜いた。
「……なるほど、なかなか悪くない威力だ。ブースターの出力断面積を敢えて絞ることで、威力密度を上げているわけか。……だが、大型の敵を相手にするにはあまりに小規模過ぎるな」
研究者の言葉に、カズアリウスはニタリと笑う。
「別に良いんだよ。端ッからそいつ殺すことなんざ狙ってねェからな。“以津真天”が何を目的にした部隊だと思っていやがる」
カズアリウスは空間天井を指差す。ブースター役のエネルギー砲は天井を貫き、地上にまで貫通していたのだ。
「『大型相手の時間稼ぎ』だぜ。俺の仕事はもう終わったんだよ」
地上から爆発的破壊音と振動が伝わり、天井を揺らし小さな瓦礫片を落とす。
「選手交代だ。“うち”の最高火力を見やがれこの野郎」
カズアリウスが言ったその瞬間、天井が粉砕され、一つの影が飛び込んできた。