「あのさ、例えばの話なんだけど…もし誰かに、自分が得をするけど友達が損をするような提案をされたら、その提案って受ける?」
例えばの話として挙げたが、ヴァンピレスからの提案の話をオブラートに包んだだけでのことである。
ヴァンピレスがどこかで見ていたらマズいかもしれないが、それでも”例えば”の話だし、ネロ達には本当の話だって言っていないからきっと大丈夫だ。
まぁ、ネロ達が訝しまないかが心配だが…
「うーん、例え話か」
ネロは腕を組んでそうこぼす。
「それ、提案の内容がどういうのかにもよらない?」
ネロがそう尋ねるので、わたしは、だから例え話だよと付け足した。
「とにかく自分には利益が出るけど、友達にはどう考えても出ない…みたいな」
「ふーん」
耀平はメロンフロートのカップの中身をストローで吸い上げながら呟く。
「その友達が、どういう友達かにもよらない⁇」
耀平がストローから口を離しつつ言ったので、わたしは、ど、どういう事?と聞き返した。
すると耀平は、いや、さーと続ける。
「普段なら、こう…ガンガンおれ達の輪に溶け込もうとするのにさ、今日は全然じゃん⁇」
何か変だなーって、と耀平はネロと一緒に頼んだメロンフロートのアイス部分をスプーンですくった。
わたしはそ、そう…?と首を傾げてみせたが、今度はここで師郎が、まぁそうだよな、と会話に入ってくる。
「さっきゲーセンにいた時から気になってたけど、お前さん、今日は妙に大人しいし」
その上周りも気にしてるし、何かあったのか?と師郎はわたしの目を見た。
ネロも黎もわたしの方を見ているし、何だかその場の雰囲気がわたしに”話したら?”といった感じになっていく。
わたしは、ヴァンピレスとのあの件を話すべきか迷った。
話したらネロ達は助けてくれるかもしれないが、いつもどこからともなく現れるヴァンピレスが、どこからこの様子を監視しているか分からない。
どうしたら…とわたしは思ったが、このまま場を微妙な雰囲気にしておけない。
だからわたしは、あえてこう話すことにした。
「アンタ、何か考え事してる?」
「うっ」
わたしはネロの言葉についびくつく。
それを見てネロは…いや、と呟いた。
「別に何かアンタが考えている事について聞くつもりはないんだけど…」
ちょっと気になって、とネロはわたしから目を逸らす。
「黎も何か気にしてるみたいだし、そもそもアンタ今日はいつもの場所にいなかったしさ…」
何かあったのか?とネロは手元のメロンソーダフロートをストローで吸い上げる。
わたしは、あ、うーん…とつい目を泳がせた。
ここはネロ達に全てを話すべきだろうか?
話したら話したで助けてくれそうな気がするけれど、そんな事をすればわたしの身が危ない。
どうしたものか…とわたしが思案していると、不意に黎の左隣に座る耀平が、お前さと話し出した。
「今日は何か調子悪そうだよな」
「えっ?」
わたしが驚くと、耀平はいやさ~とテーブルから身を乗り出す。
「…」
そう考えていると不意に斜め前から視線を感じて、わたしはついそちらに目を向ける。
すると目の前のテーブルを挟んで斜め前に座る黎が、不思議そうにわたしを見ていた。
わたしは思わず、ど、どうかした?と尋ねる。
この言葉にはネロ、耀平、師郎も反応し、パッとわたし達の方へ目を向けた。
「なんだよアンタ、どうしたんだ?」
わたしの2つ隣の席に座るネロがこちらを覗き見てそう呟く。
わたしはあっ、いや…と答えた。
「黎がこっちをじっと見てるから、何かあったのかなって」
そんなわたしの言葉に、ネロは、どうかしたの黎?と黎に聞く。
黎は少しの沈黙の後、何か、と口を開く。
「コイツが何か難しい顔をしてたから、ちょっと気になって」
黎がわたしに目を向けつつそう言ったので、わたしはえっ、あっ…と慌てた。
どうやらわたしが考え事をしていた事がバレたようだ。
このままでは色々と皆に聞かれるかもしれないと思ったわたしはまごつくが、ふーんとうなずいてこちらを見ているネロは少しの間こちらを見つめる。
そして彼女は…なぁ、と話しかけてきた。
そんなこんなでわたし達はショッピングモールの1階にあるフードコートへやってきた。
フードコートはハンバーガーやドーナツ、たこ焼きなどなどのファストフードのチェーン店が並んでおり、午後3時という事もあって多くの客で賑わっている。
わたし達はあまり空きの見られないフードコート内の座席から空いている所を見つけ出し、荷物で場所取りをしてそれぞれが食べたいものを買いに一旦散らばった。
そして暫くして皆注文したものをトレーに載せて戻ってくる。
「へぇ、ネロと耀平はメロンソーダフロートを頼んだのか」
「うん、あとポテトも」
隣の席で師郎とネロがそういった会話を交わす中、わたしはハンバーガーのお店で頼んだイチゴのシェイクを飲みながら考え事をしていた。
もちろん内容はヴァンピレスの事だ。
彼女がなぜわたしに近付いてきたのか、なぜ協定を提案してきたのか、そもそも今日会いに来ると言っていたがいつ現れるのかなど、意識しなくても悶々と考えてしまう。
特にいつ会いに来るのか分からない事が、余計わたしを不安にさせていた。