「”ヴァンピレス”なのだから‼」
彼女がそう叫ぶと、周囲に立つ分身たちは具象体の白い鞭を振るいつつ駆け出した。
わたしは驚いて後ずさるが、ネクロマンサーはその手に具象体の黒い大鎌を出し、わたしの目の前に躍り出る。
そして襲いかかってくるヴァンピレスの分身を、鎌の斬撃で消し飛ばした。
ネクロマンサーはそのまま黒鎌を構えてヴァンピレスに向かって走り出し、ヴァンピレスの目の前まで肉薄する。
しかしヴァンピレスは具象体の白い鞭を剣のようにぴんと張らせて、ネクロマンサーの黒鎌を防いだ。
「まさかアンタ、”寂しさを埋めるため”に他人の記憶を奪ってたとはな」
随分コドモっぽいんじゃねーの⁈とネクロマンサーは尋ねるが、ヴァンピレスはそんなの嘘よ‼と悲鳴にも似た声を上げる。
「わらわは、わらわは他の異能力者や、常人が恵まれているのがうらやましくなんかないわ!」
特に貴女達なんか…‼とヴァンピレスは白い鞭でネクロマンサーの黒い鎌を押し切ろうとした。
ネクロマンサーは負けじと白い鞭を押し返そうとするが、不意にネクロマンサーの背後に分身が出現する。
「わらわは異能力を手に入れて、そして変わったの」
昔のように”寂しい”という感情なんて、もう感じていないわ!とヴァンピレスは誇らしげに笑った。
だがわたしは…本当にそう?と聞く。
ヴァンピレスは少し驚いたように、真顔に戻った。
「あなた、情報屋のミツルが言ってたけど…1人で物憂げな顔をしていた事があるんじゃない?」
寂しくないってさっき言ってたけど、本当は寂しい思いをしているんじゃないの?とわたしは続ける。
「だから他の人の異能力…いいや、”記憶”を奪っているんじゃない?」
自分の中に”思い出”がないから…とわたしは言いかけた。
しかし、いつの間にかうつむいていたヴァンピレスは…そんなの、と呟く。
「そんな訳、ないじゃない‼」
ヴァンピレスはそう叫んで、自身の周りに4体の分身を生み出した。
「わらわが寂しそうな顔をしていたから! ただそれだけでわらわが寂しがっている⁈」
そんな事ないじゃない‼とヴァンピレスは声を上げる。
「わらわは友情も、家族の温もりも、必要ないのよ‼」
だってわらわは!とヴァンピレスは白い鞭をわたしとネクロマンサーの方に向ける。
「わらわが”他人の記憶を奪う”能力を持っているからかしら」
わらわ達異能力者にとって”記憶”は”異能力”そのものであること、貴女は知っておいでよね?とヴァンピレスは続けた。
「それを奪い取る異能力を持つわらわが、他人の異能力を奪う事の何がおかしいの?」
わらわは自らの本能に従っているだけよ、とヴァンピレスは淡々と言う。
ネクロマンサーはそれを聞いて、アンタねぇ…といら立つが、わたしは気にせず本当にそうなの⁇とさらに尋ねた。
「本当にそれだけで、他人の記憶を奪えるの⁇」
わたしがそう聞くと、ヴァンピレスは眉間にしわを寄せつつあら、と答えた。
「わらわの答えに文句?」
そんなに記憶を奪われたいのかしら?とヴァンピレスは挑発するように右手の白い鞭を軽く振るう。
わたしはそれには答えず、あなた、と彼女に呼びかけた。
「お兄さんから聞いたけど、昔は病気がちで、家族からもあんまり相手にされてなかったんでしょ?」
「…そうね、わらわは昔寂しい思いをしていたわ」
でも、それが何?とヴァンピレスは首を傾げる。