「…それにしても、皆が身内の事を考えてる事の何が嫌なんだ?」
ふとここで、耀平が頬杖をつくのをやめながら尋ねる。
ネロも確かにとうなずき、黎も静かに首を縦に振った。
「やっぱり、恥ずかしいのか?」
「えっ、あっ、いや…」
耀平の質問に琳くんは慌てる。
それを見た師郎はまぁまぁ…となだめた。
「誰だって身内の事で思い悩む事はあるからな」
俺だってそうだったし、と師郎は笑う。
それを見て、そうだったんですか…?と琳くんが驚く。
「まぁな」
これでも我が家は家族が多いから、自分の思い通りにならん事ばっかでな…と師郎は目を細める。
琳くんは目をぱちくりさせ、師郎はそんな彼の様子に気付いてあぁすまんな、こっちの話してと謝る。
しかし琳くんは神妙な面持ちになって前を向いた。
「…ぼくもそうですよ」
急な発言にわたし達は琳くんに視線を向ける。
琳くんはそのまま続けた。
「姉、ちゃん…?」
ネロが不思議そうにこぼすと、師郎はもしかしてと頬杖をつく。
「お前の姉ちゃん、ZIRCONの鹿苑 蘭(しかぞの らん)か…?」
「あ、あ、うん」
師郎の質問に、琳くんはうなずく。
話を聞いているわたし達は顔を合わせたり目をぱちくりさせたりした。
「…なるほど、そういうことか」
師郎はそう言って上着のポケットから何かを取り出す。
それは琳くんが師郎にぶつかった際落としていった、”ZIRCON”のロゴが入った濃いピンク色のキーホルダーだった。
「これ、明らかに鹿苑 蘭の担当カラーだなと思ってたけど、まさか身内だったから持ってたのか」
なるほどなーと師郎は言うが、琳くんはえっいつの間に…⁈と驚いた顔をする。
それに気付いた師郎は、あぁすまんなと返す。
「さっきぶつかった時に落としていったからな」
そのままにしておくワケにいかなかったし、と師郎はキーホルダーを琳くんに渡す。
琳くんはあ、ありがとう…とそれを受け取った。
「どういうことって…多分、異能力が発現しそうなんだろ」
だからああいう事を言ってるんだろうな、と耀平は小声で答えた。
琳くんはその様子を不思議そうに見ていたが、ここで師郎が彼の気を引くように話しかけた。
「…お前さん、”色んな感情がなだれ込んでくる”から逃げるように走ってたのか?」
急な質問に、琳くんはふぇっと少し驚く。
「あー、あー…まぁ、そうなの、かな?」
曖昧な返事に師郎は怪訝そうな顔をした。
「本当にそれだけか?」
「えっ」
琳くんはつい顔を上げる。
「何かそれだけじゃないような気がするな~」
師郎がそう琳くんの目を見ると、彼はうぅぅぅ…とおびえたような顔をした。
「ま、話してご覧よ琳」
変な話でも俺達は受け入れるからさ、師郎は腕を組んで笑いかけた。
琳くんは暫くうつむいていたが、やがて、…みんなと彼は呟いた。
「イベントスペースにいる人達みんな、姉ちゃんの事ばかり考えているんだ」
その様子を見るわたし達5人は思わずポカンとする。
そういう訳で、わたし達は穂積や雪葉と別れてショッピングモールに戻ってきた。
あまり人気のない休憩スペースに向かい、テーブルの上に先程師郎が買ってきた駄菓子を広げて、わたし達はあの琳という少年に色々と聞き始めた。
「…なぁお前さん、何でショッピングモールの中を走ってたんだ?」
誰かに追われている感じでもなかったみたいだが…と師郎はスナック菓子に手を伸ばしつつ尋ねる。
琳くんはえっと…とオドオドしながら目を逸らす。
それを見て師郎はあ、と続ける。
「さっき言ってた、”色んな感情がなだれこんでくる”って言葉と何か関係があるのか?」
「うっ」
師郎の言葉に琳くんはびくついた。
「やっぱりそうか」
師郎はそう言って腕を組む。
「お前さん…何かが自分の中に顕われそうなんだな」
なるほどなるほどと師郎はにやにやする。
琳くんはどういうことか分からず困惑し、わたしもその意味を理解できず隣に座る耀平にどういうこと?と尋ねる。
「琳(りん)、俺はともかくとして耀平はそんなに怖くないんだからビビらなくていいだろ」
なぁ?と師郎は琳と呼んだ少年に笑いかける。
少年は相変わらず顔を背けたままだったが、ここでネロが立ち上がりながら琳?と首を傾げる。
「それがコイツの名前?」
「ま、そうだな」
師郎は自分の陰に隠れる琳という少年に目を向けつつ答える。
「鹿苑(しかぞの) 琳、小学5年生…さっき本人から聞き出した所によるとだな」
師郎がそう言うと、琳くんはパーカーのフードを被って顔を隠した。
「…」
わたし達はその様子を見て思わず何も言えなくなってしまうが、師郎は気にせずまぁまぁお前さん達と言った。
「ちょっと駄菓子でも食べつつ話をしようや」
師郎はそう言って明らかに駄菓子が色々入っているであろうビニール袋を掲げてみせる。
わたし達は思わず顔を見合わせた。