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This is the way.[prologue]4

ーーダルケニア国 ネウヨルクーー


「キャス、帰ったよ!」
「どうしたの、あなた。今日はえらくご機嫌ですこと」
「ほら、見ろよ!アーネストから手紙だ!」
「まあ!あの子、やっと手紙を書いたのね!それで、なんて書いてあったの?」
「まだ開けてないんだ。今読むよ。どれ...」

 ―――父さん、母さん、ウィル、元気ですか。僕がトルフレアに来てからすっかり年月が経ってしまいました。時が過ぎるのは本当に早いものです。暫く手紙を書かなかったことを許してね。忘れてたってのは、まあ、それもあるんだけど(ごめんよ)、何もかもが新しいことばかりで、そりゃもう大変だったんだ。最近になってやっと落ち着いたって感じかな。とにかく、ここには新しいものがいっぱいさ。
 今は僕の下宿の数百メタ先にあるパン屋で仮働きさせてもらってます。仮働きといっても、ダルクよりずっとお給料がもらえるんだ。まあ、そのぶん物価は高いんだけれども。と言うことで少しだけどお金を送ります。こっちに来るときにはいろんなものを用意してもらったからね。僕のできることをしなくっちゃ。これで何か美味しいものでも食べてください。
 じいちゃんとばあちゃんによろしく。あとリタにもよろしく言ってください。風の噂でダルクの人がトルフレアに来る予定があると聞きました。誰が来るんだろう。会えることを楽しみにしています。
              アーネスト


「元気にやってるみたいだ。安心したよ」
「そうみたいね。それにこんなにお金を送ってきて。やっぱり王国は違うのねえ」
「アーネストも頑張ってるんだ。俺もがんばんねえとな」
「そうね......新しい家族もできることだし」
「うん、そうだ.........何だって?!」
「なんかおかしいなと思ってお医者様に見てもらったの。そしたら......」



「...............」

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とある街にて 10

東の空に一番星が輝き始めた頃。
八式が持ってきた噂話の話題はすっかり移り、ただの雑談と化していた。
誰もいない店内に三人の笑い声が響く。
「……。あれ、もうこんな時間だ」
美澄が壁掛け時計に目をやる。
「あ、本当。そろそろ帰らなきゃ。美澄はもう少し店番? 」
「さぼりすぎだよな。うちの親。自分の店なのに、もう少し責任を持ってほしいよ」
「とかいって。誰も来ないのに給料もらえて、おいしいとか思ってるんでしょ」
八式は笑いながら帰り支度を始めた。

……………

「それじゃ帰りますか。いくよ、白鞘」
この店に八式先輩とくるときは、決まって八式先輩と帰ることになっている。帰り道が途中まで同じのためである。
「ではまた、律先輩。さようなら」
「じゃあね。美澄」
「おう。二人とも気を付けてな」律先輩は黒エプロンに手を突っ込んで見送る。
からんころん。入ってきた時と同じ音を聞きながら、僕たちは店を後にした。

店を出たあと、僕と八式先輩は並んで歩いていた。街はすっかり暗くなり、いたる所にある電灯が地面を照らす。
超未来カグラはいくつかに区分けされていて、ここ径街レトロは中心区の朱都シントーキョーに比べ幾分落ち着いた雰囲気の街である。シントーキョーが最先端であるとしたら、レトロはその名の通り一昔前の街並みを保っている。
都会の喧騒とは離れたのんびりとした街が、夜の帳に身を潜めていく。
「それでさ、白鞘」
八式先輩がこちらを見ながら話しかけてきた。前、向いて歩いてね。
「私の話、本当だと思う? 」
「期限切れの牛乳飲んだら腹下したってやつですか? 」
「そっちじゃない」
剣呑な目つきで睨んでくる。
「……魔女の件なら、先輩がそういうなら本当なんじゃないですか」

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とある街にて 9

「それで、その彼女にもう一度会いたいの」
”彼女”とは、無論魔女のことだ。八式と謎の”魔女”の衝撃的すぎる対面の話で引き攣った顔を、白鞘と美澄はケーキの甘味と時間の経過によって収まらせた後の話である。理解しがたい情報で埋もれた脳が、白いクリームとイチゴの酸味で再び回転し始める。
「確かにその”魔女”の存在を信じざるを得なくなりましたが、もう一度会うといっても難しいと思いますし、ていうかなんでもう一度会いたいんですか。普通トラウマで顔も見たく無いみたいになってもおかしくないんじゃ……」
「まあ、少し恐怖心は残ってるけど」
「残ってるんかい」
「でもその人、なんか雰囲気が違ったのよ」
「そりゃ、RPGマジシャン装備で目の前に壁貫通で現れたら、雰囲気くらい不思議に思っても不思議じゃないというか」
「ううん、違うの。なんていうか……外人?みたいな。とにかくここの、カグラの人ではないと思うの」
「カグラだって人口多いんだ。そんな奴が一人や二人くらいはいるんじゃないか」
「うーん……」
釈然としない声を出したまま八式は宙を見上げた。外国が存在しない今、外国人なんているはずがない。しかし八式は確かにあのとき、この都市とは異なるにおいを嗅ぎとっていた。カグラの人ではない、と直感的に悟っていたのだ。
「もしその人が、本当に”外国”から来てるのだとしたら……」
呟くように言葉を発してその口にケーキを静かに突っ込んだ八式に、白鞘が答えた。
「まあもしそれが本当なら、大発見ですよね」

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とある街にて 8

「いや、それがさ。もう信じるしかないというか……? 」
「それはどういう? 」
「さっきの話にその”魔女”が壁に入り込んだって言ったじゃない。そのことで」
そう言って八式は、店の壁際のテーブルを指さした。
「ちょっと前にあそこに座った時があったんだけど」
「え、八式っていつもカウンターに座ってると思ってた」
「その時はカウンターにまあまあ人がいたから。勉強に集中できそうな壁際に席を取ったのよ」
「八式が勉強してる姿なんて見たことない……」
「美澄が店番じゃないときよ。それでその時に」
彼女の顔がふたりに見えなくなるように八式は両手を前にかざした。
「勉強がひと段落して、私が机から顔をふと上げると――」
かざしていた両手を開き、顔を前に突き出す。八式の整った顔があらわになる。
「――いたのよ。その”魔女”が」
その席の目の前には、壁しかない。
え、まさか。
「……それは窓から顔を覗かせていた、とかではなく……? 」
先ほど指を指されていた席の壁には窓なんて見当たらない。なにより、八式のジェスチャーが”魔女”がどうやって彼女の前に現れたのかを雄弁に物語っていた。
「……壁から……生えてきた、みたいな……? 」
美澄の言葉に、思わず苦笑いを漏らす八式。
「三角帽に地味なローブ、白い髪だったから、ほぼ間違いない」
ほぼ、というが、普通人間は壁から生えてこないので、そういうことだろう。

八式はすでに、衝撃的すぎる対面を果たしてしまっていたらしい。