旋律#6
アイカちゃんはよほどショックだったのだろう。
「蓮に嫌われた、律ちゃんのせいで」と周りに言いふらした。あまりにも抽象的な言葉だったけれど、顔を真っ赤にして涙を浮かべる彼女が言うと、周りは変に悪い方向へ想像力を働かせてしまうのだった。
「だから、みんなちょっとよそよそしいんだと思う。みんな、律ちゃんが何かしたと思ってるんだよ」
どうして美亜がそんなことを知っていたのか、今でも時々疑問に思うけれど、いつも真相はわからないまま忘れてしまう。
おそらく、美亜が聞いた母親たちの噂話と当時の私の想像とが入り混じって記憶されているのだろう。
結局今でも、あの日アイカちゃんが休んだ理由も、なぜみんなが私がアイカちゃんに悪いことをしたと思ったのかも、分からないままだ。
次の日、アイカちゃんをあの時と同じ園舎の裏に呼び出した。唯一ちがうのは私と彼女の立場がすっかり逆転していることだった。
「ねえ、アイカちゃん。私がアイカちゃんに何かしたってみんなに言ってるでしょ。私なにかした?」
彼女はうっすらと涙を浮かべてこちらをにらんだ。
「アイカ、蓮に無視されたの。律ちゃんがジャングルジムから落ちたから。蓮はアイカより律ちゃんを好きになっちゃったじゃん。律ちゃんのせいだよ」
私はどうしてこんなにも罵られなければならないのかと、珍しく怒りを覚えた。
「私、何もしてない。アイカちゃんが私を押したんでしょ」
そう言って、彼女の左肩をとん、と押した。軽く後ろによろけたアイカちゃんは、驚いたように私を見た。私が手を出すとは思わなかったのだろう。
「私は、何もしてないんだから。蓮くんがあなたを好きじゃないのは、私のせいじゃないんだから」
その先は迷ったけれど、口から滑り落ちて止まらなかった。
「蓮くんがアイカちゃんを好きじゃないのは、自分のせいでしょ」
呆然とするアイカちゃんを残し、私は教室へ向かった。