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大道芸

学校からの帰り、道端に道化師が立っていた。正確には、道化師の格好をした大道芸人、だろうか。
4つか5つのボールでジャグリングをしているが、道行く人は誰一人として興味を持っていない。
ジャグリングを止めた大道芸人だったが、一瞬私と目が合った。大道芸人は目の前の地面に置いていた帽子にボールを仕舞い、代わりに風船と空気入れを取り出した。風船を素早く膨らませ、犬のバルーンアートをあっという間に完成させてしまう。彼が放り投げた風船の犬は、ふわふわと風に乗って私の手元に飛んできた。
風船の犬から大道芸人に目を離すと、大道芸人は帽子の中を探っていた。次は何が飛び出すのだろう。そう思っていると、今度は白い鳩が飛び出した。彼はその鳩を腕に留まらせ、軽く撫でてから空に放ってしまった。
鳩を跳ね上げるように振り上げた腕を下ろすと、その手の中には、いつの間にか一輪のバラが。数度揺らすと、バラの花はさまざまな種類の花を寄せ集めた、少し不格好な花束に変わってしまった。
それからも彼は、数多の手品や芸を披露し続けた。たった一人、私という観客のためだけに。もうすぐ日も沈もうかという頃、彼は全ての手札を見せ切ったらしく、演技臭い深々とした礼を私に向けてくれた。
私は拍手も歓声もあげられなかったけど、それでも何かを返したくて、ポケットに入っていた百円玉を、指で弾いて帽子の中に放り込んだ。

チャリン、と舗装された地面に小銭のぶつかる音。彼は満足したのだろう。
百円玉を拾い直し、またポケットに突っ込んだ。
(おひねりくらい、素直に受け取ってくれても良かったのに)
私のためだけの風船の犬。素敵な記念品を貰ってしまった。さあ、もう遅いことだし、早く帰ろう。夜は『彼ら』の時間なんだから。

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死神の仕事

普段から通学に使っている駅のホーム。昼過ぎの人の少ない時間帯。10分ぶりに停まった電車が発車していくのをぼんやりと見送る。それは僕にとって必要な電車では無いから。
『間もなく、電車が通過します』
携帯電話を操作するでもなく手の中で転がしているうちに、待ち望んでいたアナウンスが流れた。携帯電話をポケットにしまい、鞄を肩にかけ直し、一歩踏み出す。その足が、点字ブロックを踏み越える。
これから僕が行うのは、逃避でも、抗議でも無い。示唆でも、復讐でも無い。崇高な意思も、固い使命感も無い。ただ純粋な、『僕』の終わりへの一手だ。
更にもう一歩進む。あともう一歩進めば、1m分かそこらの浮遊感の後、全身を激痛が襲い、それもすぐに終わる。
どうせこの路線はしょっちゅう「人身事故」で止まるんだ。僕一人のかける迷惑など、大したものじゃ無いだろう。
最後の一歩が、ホームを飛び出す。あと少し重心を前に傾けるだけで、全ては恙なく終わる。そのはずだったのに。
「やめとけ。無駄だぜ」
背後からかけられたその声に、無意識に身体が硬直した。上げた脚を下ろした直後、目の前を数秒かけて通り過ぎていく質量と風圧。それが終わって漸く、身体の力が抜けてその場にへたり込んだ。
「ほら見ろ。お前には死ぬなんてできねえンだ」
「……誰だよ。なんで邪魔した」
立ちながら振り返り、声の主を探す。それはホームに設置された椅子に足を組んで腰かけていた。性格の悪そうなにやけ顔をした、制服姿の、多分僕と同年代の少年……青年? まあ、そいつが声の主だった。
「俺かい? 俺ァあれだ、所謂死神ってやつだ」
「それなら僕を殺してくれよ」
「馬鹿言え。死神を何だと思ってやがる。死神は死期を告げ、魂を迎える。それだけだ……いや、違うな。ルール違反をしようとするテメエみたようなせっかち野郎を嗜めるのも重要な仕事だな。地獄ってのは、ンな気軽に行って良い場所じゃねえんだ。あと40年待ちやがれ馬鹿野郎」
自称死神は、そのままどこかへ立ち去ってしまった。