表示件数
0

金ではない斧 銀より良い素材でできた斧

ある日、樵が森で木を切っていると、うっかり手が滑って斧を近くの沼に落としてしまいました。樵が、まずいなー、木って鉈だけで切れるのかなー、なんて考えていると、沼の中から老婆が斧っぽい物を三本持って現れました。
「何だこの婆ぁ?」
「あたしゃこの沼の女神だよ」
「嘘つけ。女神がこんな不細工なわけあるかよ」
「あァん?舐めとんかクソガキが。呪うぞ?」
「分かった分かった信じるから。で、何の用?」
「アンタの落とした斧があたしの住居破壊しに来たから文句言いに来たんだよ」
「ああ、そう。まあ良いや。斧返して」
「人の話を聞け」
「人じゃないじゃん」
「口の減らない奴だな。で、アンタの斧はこれらのうちどれだい?一つ目はこの古い石斧。二つ目はこの鉄斧。最後がこの良ーっく鍛錬された玉鋼の斧」
「ああー………。二つ目だな」
「そうかい。ならこれは返してやらないよ。使い慣れない他の斧使って、手にマメ作って苦労するが良いさ。イーッヒッヒッヒ」
沼の女神は、残り二つの斧を置いて消えてしまった。
どうやら石斧は歴史的価値のある物だったらしく博物館に売ったら良い金になった。玉鋼の斧はありがたく使わせてもらっている。前の斧より楽に切れる。
最近あの女神は良い奴だったんじゃないかと思うようになってきた。

0

追いかける人

「金属バットって、ふつう地面に刺さりますっけ?」
「普通じゃないから刺さったんだろうね」
「普通じゃないって……?」
「君ならもうその答えを知っているはずだ」
ええ、まあ、はい。恐らくその答えであろうものと似ているであろうものが僕の中にもありますからね。
「これ、どこから飛んできたんでしょうか」
「んー、ここから約40m先、あの男が投げたやつだね」
そう言って青年が指差した先には、件の不良の一人がすごい剣幕で居りました。
「あれ、知り合いかい?『あの野郎カツアゲ成功率100%の俺の顔によくも泥塗りやがったな。ブッ殺してやる!』みたいな顔してるぜ。奴との距離残り約20m。逃げるなら早くしな」
青年がそう言うので、僕は『およげ!たいやきくん』を発動し、全力で逃走を開始した。
それから五分後、件の不良は意外と足が速かったのか、まだ追いかけてきていた。
(おいおい、嘘だろ……。僕、結構なスピードで逃げてるんだぜ。何で追いつけるんだ?まさか僕の力みたいに、『追跡が上手くなる能力』でもあるってのか?けどそれだとバットの謎が解けないしな)
「やあ少年。苦労してるね?」
あの怪しげな青年がまた現れた。自転車に乗ってやがる。
「ええ…。どうしましょうこれ」
「君さ、『空気』って見えるか?」
「はあ?」
「だからー、空気だよ。約八割は窒素でできてて約二割が酸素、残った1%にも満たない中に色々入ってるあれさ」
「見えるわけ無いでしょう」
「そうだろう?……だから良いんじゃあないか」
「…へ?」

2

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 3.セイレーン ①

寿々谷市で一番栄えている所は?と聞くと、多くの人が「寿々谷駅前」と答えるぐらい、寿々谷駅前は栄えている。
市内に1つしかない鉄道路線が通り、駅前には大きなバスロータリーがある。
近くには市内で一番大きいらしいアーケード商店街があり、学生たちのたまり場、ショッピングモールもある。
他にも病院、市役所など、様々なものがあり―市の中心部、という言葉が相応しい場所だ。
わたしは、駅自体を使うことは少ないけれど、ショッピングモールや塾へ行くために、よく近くまで行く。
だが今週は、ショッピングモールに行こうとは思えなかった。―なぜなら、”彼ら”に出会ってしまうかもしれないと思うからだ。
一緒にいて、とにかく楽しかった”彼ら”。友達がほとんどいないような状態だから、友達になれると思ったのに、―なのに。
―”異能力”にまつわる物事に、常人は下手に関わっちゃいけない―
手を伸ばせば届きそうなのに、”彼ら”は自ら離れて行ってしまった。
もしかするとわたしは”誰かと一緒”は無理なのかもしれない、そう思った。
でもさすがに独りは嫌だった―が、かと言ってまた”彼ら”に会いに行くと、嫌がられそうな気がする。
学生が多く集まるショッピングモールに行って鉢合わせたら、ものすごく気まずくなりそうな気がして、今週は行こうとは思わなかった。

2

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 2.コマイヌ ㉒

「あぁ…まぁそうだよ。そうじゃなかったら追っ払ってる」
「俺もそんなだな。最初は耀平のノリに乗ってただけだけど」
「ボクは興味なかったよ? ただこれ以上関わり過ぎたら嫌な予感しかしないから、とにかく嫌だったけど」
今日一日、ネロの表情が終始不機嫌そうだった理由が分かってしまったような気がした。
少しの間、彼らはわたしを見つめていたが、耀平が「行こう」と言ったことで、また歩き始めた。
このままじゃ、彼らがわたしから離れていく―そう感じて、わたしは思わず叫んだ。
「わたしは、わたしは、ただみんなと仲良くしたいんです! だから興味だけで付き合ってるとしても―」
「―馬鹿なの?」
不意に、彼らは立ち止まった。
「…え?」
「…異能力者っていうのは、本来常人は絶対知らないものだ。その存在が知られないからこそ、今の”平穏”は保たれてんだ…」
耀平が、静かに振り向いた。その目は黄金色に光っている。
「…お前、異能力のことをすごいとか言ってたけど、アレはおれ達の”平穏”を崩すかもしれねぇんだ…―”異能力”にまつわる物事に、常人は下手に関わっちゃいけない…絶対にな」
いつの間にか、他の3人もこちらを向いていた。―彼らの目もまた、光っている。
イエローゴールド、ブルーグレー、ダークグリーン、そしてレッドパープルの光が、無言で強く訴えてくる。
―常人は、異能力に関わってはいけないと。
わたしは、金縛りにあったように動けなかった。
夕暮れの、薄暗い路地裏には、ただただ近くの大通りを走る車の音だけが、響いていた。

〈2.コマイヌ おわり〉

0