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ダイエット 前編

 空気は乾燥してるし毎日嫌なことばっかだし周りは嫌な奴ばっかだし田舎だし学校遠くて通うのめんどくさいしでも行かないとお母さんうるさいからしぶしぶ荒れた唇を噛んで前歯で皮をむきながら、ぷぷぷってむいた皮を吐き出しながら雪道歩いてたら電車来てたから胸揺らしながらホームに向かって階段ダッシュしたんだけどそしたらわたしの胸はお母さんゆずりの巨乳でずっとコンプレックスでいつか絶対小さくする手術するんだって一年前から定期的に浮かんでくる強迫観念に支配されちゃってわーってなっちゃってホームにうずくまってたら大丈夫ですかって声かけられて顔上げたらトレンチコートに肩かけ鞄、ハット姿の老紳士。うつむいて大丈夫ですってこたえたら、「そんなに世のなか素晴らしい人いますか? あなたは周りにばかり求めているようですがあなたは素晴らしい人に見合うだけの人なのでしょうか……まあそんなことはいい。あなたを不愉快にさせるような人はあなたより劣った人なのです。そんな人に出会ったとき、わたしだったらほっとします。自分の劣等感を刺激されずにすみますからね」なんてぬかしやがる。
 何言ってんだこのじじいって心のなかでつぶやいてから今日はもう駄目だ。もう帰ろって思ってとりあえずベンチに座って呼吸整えてたらじじい、肩かけ鞄から稲荷寿司出してきて、「朝ごはん、食べてますか? 朝食べないから貧血起こすんですよ」って。わたしはずっとうつむいてたけどじじいがにやにやしてやがるのはわかった。
 むかついたわたしは稲荷寿司引ったくってむさぼり食って顔を上げたら地元の観光協会の作った稲荷大明神のオブジェ。
 田舎は変化しない。老化するだけだって最近きいた。あと、同じことの繰り返しがいちばん脳に悪い。単調な生活は精神病、認知症のもとだって。絶対東京行こ。

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裸の王女

 むかし、ある王国に、とってもおしゃれな王女様がいた。
 トレンドはすべてキャッチし、また自らもトレンドを作り出すファッションアイコンになっているにもかかわらず、まだまだもの足りないなあ、なんて思っていたところに、世界各国を放浪して服飾ビジネスの勉強をしてきたという仕立て屋が現れた。
 仕立て屋が王女様にすすめたのは賢い者にしか見えない生地で作ったドレス。王女様はドレスが仕上がるとさっそくおひろめパレードを行った。
「王女様、裸だったね」
 パレードを見送ってから、息子がわたしにぼそりと言った。わたしは、「そうだな」と言って息子の手を引き帰路についた。
 十年後、息子は宮廷画家になった。息子は単に絵が上手いだけでなく、営業的な才能もあった。息子の名前は近隣諸国にたちまち知れ渡った。
 先日、久しぶりに息子が会いに来た。息子はわたしに、「何か描いて置いてくかい? 俺の絵なら、らくがきみたいなのでも売れるんだ」と冗談めかして言った。わたしはもちろん断った。台所で妻が舌打ちするのを息子もきいていたようだが、「気が向いたら、声をかけてよ」と言い残して帰った。
 たとえ気まぐれにでも、これから息子に絵を描いてもらうなんてことはないだろう。なぜならわたしは、息子の最高傑作をすでに所持しているからだ。
 裸の王女、というのがその絵のタイトルだ。
 下絵はわたしが描いたんだけどね。

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いい女ばっか来るラーメン店

「外国にも狐の面ってあるのかな」
 なかなかのイケメンが連れの女にきいた。
「検索すれば」
 素っ気なくこたえた女は、目のぱっちりとした、鼻筋の通った、色白の、立派なバストの、つまりいい女だった。
「それが面倒だからきいたんだよ」
 二人とも、シメのラーメンを食べ終え、いい時間を過ごしている。
 わたしは熱々のもつ煮込みを口に運び、はふはふしながらテレビに視線を移した。
「アジアはわかんないけど、ヨーロッパでは狐はずるい動物ってイメージなんでしょ。日本では稲の害獣である鼠を食べてくれる益獣として認められてるから神にもなってるわけじゃない」
「稲荷大明神は狐じゃないぜ。狐は稲荷大明神の使いだ」
「原始信仰では狐が神なんだって」
 へーえ。テレビより面白いのでついきき耳を立ててしまう。
「狐の面は稲荷信仰から来てるわけだな……お会計」
 ほろ酔い加減で店を出ると、さっきのカップルが正面に立っていた。狐の面をかぶって。わたしは言った。
「美男美女だと思ったら狐が化けてたんだね」
「当たり前でしょ。こんなさびれたラーメン屋にわたしみたいないい女が来るわけないじゃない」
 そう言って女が笑い声をあげた。なぜか、不快な感じはしなかった。
「おにいさん、よかったら、俺たちの店に来なよ。俺たちこの先でスナックやってるんだ」
 一瞬好奇心に駆られたが、明日のことを考えた。
「遠慮しとくよ、狐が経営者じゃ何を飲まされるかわかったもんじゃない」
 すると二人は(二匹か?)顔を見合わせユニゾンで、「そう、残念だ」と言って去った。
 わたしは帰路についた、はずだった。
 暗闇が広がっていた。
 振り返ってみたが、ラーメン店はどこにもなかった。

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或る男達の行程

五人の男が歩いていた。
以下は彼らの末路である。
一人は上を向いて歩いていた。その結果、ほんの少し頭を出していた石ころに気付かず躓いて転んでしまった。
一人は下ばかり向いて歩いていた。その結果、頭の高さにせり出した木の枝に気付かず、頭から突っ込んで驚きのあまり倒れ込んでしまった。
一人は横を向いて他の奴の様子ばかり見ていた。その結果、前の二人が次々と脱落していくのを見てまごついているうちに、はぐれてしまった。
一人は、ただまっすぐ前だけを見て歩いていた。その結果、迷わず歩き続けることができたが、星の美しさも雲の美しさも草花の美しさも知ることは無かった。
一人は、キョロキョロとしてばかりいて、落ち着きが無かった。その結果、様々な美しいものを見ることができた。
以下は彼らを見た人間の言葉である。
一人目は駄目だ。上しか見ていないのでは足を掬われる。
二人目は駄目だ。陰気に下ばかり見ていて、真実は何一つ見えていない。
三人目は駄目だ。一人で歩けないような奴が、どうして歩こうなどと思ったのか。
四人目は素晴らしい。何にも揺らがず真っ直ぐ行くべき道を進む。あれこそ人間のあるべきあり方だ。
五人目は駄目だ。あんな落ち着きの無い奴、社会に適合できるわけが無い。そもそもあんな奴と居るなんて、周りに何か言われたら恥ずかしくってしょうがない。