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CHILDish Monstrum:Escapers

 すっかり荒んだビル街を、二人の少年が和気藹々と歩いていく。
 苔むした国道にツタの這い散らかした摩天楼。かつて世界でも指折りの大都市だったらしいこの街は、人より鳥の数のほうが多くなって十数年経つ。そんな街路に二人のはしゃぎ声はあまりにも異質に響いた。
 「……で、その時の遺骸から摘出された第二頸椎が、どうも新しく開発される武装具の核になるらしくてな」
 「へぇー、それ本当に効力あるの?」
 「さてね。大方単なる“アヤカリ”ってやつなんだろ。極西のやつらの考えることはわからんな。」
 「何言ってんの、てっぺいもそういうことするでしょ」
 「てっぺい言うな」
 そう言うと、『てっぺい』と呼ばれた少年は足もとの瓦礫の石ころを軽く蹴飛ばした。暗い赤髪の長い襟足が揺れる。
 「はるばるヴェスプタくんだりまでやってきてなんで東洋風な名前で呼ばれにゃならんのだ」
 「くんだりって、俺たちの前任地よりよっぽど大都会でしょうが」
 「この廃墟ぶりを見ても大都会と言うか、たろうはよっぽど辺境の出らしい」
 「だからたろうやめろって」
 『たろう』はパーカーのひもをプラプラいじりながら答える。淡い青の背中には大きな毛筆の字で「防人」という字が踊り、その左下には小さく「でぃふぇんちゅ」と書いてある。いくら僕が、バカっぽく見えるからもう少しましな服を着たら、と提言しても「かっこいいっしょ?」と全く馬耳東風だ。お好きに。
 「ねぇえぇ、松永が言ってた“絶景スポット”ってまだ着かないの」
 振り返りながら嘆く『たろう』。
 全然先だよ。というか行程の二割も歩いてないんだけど。あっ、露骨に不機嫌そうな顔をするんじゃない。旅行だ遠足だってはしゃいでいたのは君じゃないか。
 「そうはいうけどさぁ、もうそろそろビル見飽きたもーん」
 「昼でも薄暗いのには確かに参るな。このビル街はどこまで続くんだ」
 もうじき開けた道に出るよ。そう言って僕は左腕のデバイスで昨日の晩インストールしておいたマップデータを確認する。三つの緑のバイタルシグナルが点滅しながらゆっくりと太い白線をなぞっている。
 「ほんと!じゃあそこまで行こう!早く早く!」
 「おい待てッ、いきなり走り出すんじゃない!」
 騒ぎながら駆け出していく少年二人を、僕は見送りながら後を歩く。まるで中学男子だ。

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風落果

君が彼女を傷つけた?
しかたないよ、も頑張れ、も
大きな鏡の破片
喉笛を切り裂くような声で
人の真意を知る術は
どこにもないってことなんて
当然分かっていたんだ
腫れた心さえも貫いて

あー、忘れらんないよな

鳴らない声が叫ぼうとしたこと
もうどこにも行けないんだね
伝えるために生まれた想いのはずなのに
誰も知らないで
また、溶けていく

ずっと治せないでいる癖が
いつか僕の首を絞めること
ざらつく縄の結び目
気道を締め上げるような声で
僕が彼女を傷つけた?
「そんなはず、」とは言えないエゴ
知らなかった、は言い訳
その実知ろうともしなかったくせに

あー、忘れらんないよな
まるで別人みたいな顔
赤黒くくすんだ口もとと
嘘みたいに白い襟

知らないふりで目を背けた過去
もうどこにも行かないんだね
今を生きるだけで精一杯なはずなのに
胸に張りついて
また、溶けていく

雪が降るように 思い出はその景色を変えて
溶けても 証は水溜まりみたいに残ってて
乾いて再び降り積もる雪は
またきっと別の誰か
焦る僕の足はとられ
躓いて白に赤が滲んで
誰が彼女を傷つけた?
1番の加害者はお前だろって
言ってしまった 言ってしまったんだ

もういないあの子が残していったもの
全く迷惑なやつだね
その実名前しか知らないはずなのに
涙を流す義理もないのに
窓の縁に重なる雪

また、溶けていく

こんな僥倖はない
何故か近くにいた彼女、で
こんな感傷を手に入れて
あの子が死んでよかったかもね