表示件数
0

とりとめもなく、蝉について。

 会社帰り、ふと足元を見ると、仰向けになった油蟬に、無数の蟻がたかっている。行政が動くまでもなく、現代でもこうして、自然の分解者の活躍により、死体が処理される。
 けっこうよくあるのだが、まだ息のある状態なのに蟻がたかっていることがあってつい自分と置き換え、こんな死にかたは嫌だなあなんて思っちゃう。
 自然の分解者というと、まず蠅とバクテリアが頭に浮かぶが、蟻の貢献度は蠅に匹敵するか場合によっては凌駕すると思われる。
 アスファルトで死んでいる蝉はふつう雄である。雌は土の上で死ぬ。なぜなら雌は卵を産まなきゃならないからである。アスファルトに卵は産めない。雄の発声器官に当たる部位が雌の産卵器官になる。ネットで調べてみよう。カンのいい人なら即座に見分けられるようになる。太古、蝉は雌も鳴いていたとむかし、何かで読んだ。
 ところで(何がところでだ)蝉は成虫になってから一週間しか生きられないというのは蝉の飼育法が確立されていなかったがゆえの誤解である。種類によって差はあるが、実はけっこう生きる。もっとも天敵にやられることを考慮しなければの話。
 死ぬ前に交尾し、子孫を残せる蝉はごく一握りだ。精いっぱい鳴いても交尾できない雄もいるし、産卵前に食べられる雌もいる。土の外に出るのが遅すぎてパートナーを見つけられなかったなんてケースもある。
 だから何だ? 子孫を残せなくても子ども時代が長かったんだからそれでオッケーって考えかたもある。現代日本人なんてまさにそれじゃないか。
 話がぶれた。運も実力のうちというが運は実力なのだ。いや、すべては運のなせるわざ。努力できるのも努力できる遺伝情報が運良く発現したおかげ。努力とニーズが合致したおかげだ。実力なんてものは存在しないのだ。
 とりとめもなく、蝉について。

2

続・シューアイス

「ドロドロに溶けてしまったね。」僕は目を覚ます。ベニヤと埃の匂いがする。ぼんやりとした視界が段々ハッキリしてきて、目の前には神崎がいる。麗しの神崎照美。1組のマドンナ。僕がシューアイスの次の次くらいに好きだった女性。霧がかかったような思考で僕は何が起こったか必死に思い出そうとしてみる。そうだ、僕はあの下劣極まる加藤をボコボコにぶっ倒したあと、やつが食べていたシューアイスを救おうとしたんだ。「こんな、形の無いクズみたいなもののために人の彼氏殴ってんじゃねえぞ、落とし前つけろよ。」ドスの効いた声が響き、咄嗟に逃げようとするが動けない。ロープで縛られ、地面に転がされている。僕はあの時、今にも崩れてしまいそうなシューアイスを掴もうと手を伸ばした。あと少しでその純白の肌を劣悪な環境から救ってやれる、そう思ったとき、背後から何者かに殴られ昏倒したんだ。「そんなに大切ならくれてやるよ、ほら。」頭に何かトロリとしたものをかけられる。僕は咄嗟に目をつぶるが、甘い香りが鼻につき、神崎が僕の頭にかけたものの正体を知ってしまう。不敬だ。これは、何よりもしてはいけないこと。シューアイスを、僕の体で汚すなんて。何という愚行。何という失態。僕は怒りと恥ずかしさでわなわなと震える。助けてやれなかった、その罪を、僕は今身をもって味わっている。

0

竹取物語

 昔、美少女がいた。名はかぐや姫。月日が経ち、少女時代を終えたかぐや姫は美女になった。もちろんあちこちから縁談が持ち込まれた。生活の変化を嫌うタイプであるかぐや姫は、養父母である翁、嫗と離れたくなかったのですべて断ろうとしたのだが、翁が、とりあえず毎日通ってくるセレブの五人に会うだけ会ってみろ。みたいな目つきでかぐや姫を見ているような気がしたのと、嫗も、そうしてみたらかぐやちゃん。なんて感じで微笑んでいるように思えると思えば思えたので会うことにした。
 五人は、さすがセレブだけあってオーラがあった。孤児で貧乏育ちのかぐや姫はそんな五人が妬ましかった。そこで五人に条件を出した。ガンダーラ仏の仏頭くれたら結婚してあげる。ダイオウイカ釣ってきてくれたら結婚してあげる。アノマロカリスの化石が欲しいなどなど。
 さて、五人。それぞれかぐや姫の望むものを探しに出発するかと思いきや、そこはセレブ。庶民と違い、横のつながりが強い。抜け駆けはフェアじゃない。それにみんなの造船技術、航海術を結集したほうが確実だってんで緻密な計画を立て、親御さんは反対したけど海に出た。
 その後、五人が、かぐや姫の前に現れることはなかった。遭難したわけではない。世界各国の美女たち、ブルーの瞳の知的なクール美女。褐色の肌のナイスバディ美女などを目の当たりにすると、かぐや姫などかすんでしまうではないか。なんであんな田舎くさいおかめのために俺たち頑張ってんの? いい女ぶって調子に乗りゃあがってちんちくりんが。あーもうやめやめっつって帰国してからセレブたち、海外に会社つくろうってなったんだ。金持ちはこうして自己増強していくんだね。
 で、かぐや姫はどうなったかっつうと、地元の歯医者と結婚して男の子二人もうけてまあそこそこ贅沢な暮らしをしたんだそうだ。