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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑮

ボンビクスが『繭』を生成する前から、ロノミアは既に、結界術を解除していた。しかし、彼女に絡みつく細糸が、操り人形のように彼女の『時間』を動かしていた。
(ん、繭? モリ子の魔法か。)
「……嬉しいねぇ、自分の弟子が成長してくれるってのは」
ササキアの拳を“血籠”の刃で受け止め、ロノミアは呟いた。
「……この程度の魔法、ニファンダ・フスカにかかれば軽く捻り潰せる」
「どうだか」
迫り合う二人に割って入るように、繭の内壁から白糸の帯が放たれた。
「おっ、面白いことやってくれんじゃん!」
ロノミアが跳躍し、糸の帯を蹴ってササキアの背後に回る。ササキアは即座に反応し、身を翻して手刀を打ち込んだ。ロノミアは沈み込むように回避し、反動で跳躍して膝蹴りを打ち込む。ササキアはそれを片手で受け止め、投げで地面に叩きつけようとした。その直前、新たに現れた白糸の帯が、クッションのように受け止める。
「助かったぁ!」
足をばたつかせることでロノミアはササキアの手を逃れ、態勢を立て直す。
(さぁて……困ったことに、私は手を出し尽くした。どうやって押し切ったものか……っつーか、疲れてきたなぁ……)
ロノミアは既に大量に展開されていた白糸の帯を蹴り、空中に逃げる。新たに展開された帯に掴まり、息をつく。
「やーい、ここまで来てみろ生徒会長」
挑発するロノミアを見上げながらも、ササキアはその場を動かない。
(この『繭』が形成されてから、明らかに動きが重くなっている。『絡みつく魔力』に、補正がかかっているのか?)
「……まあ良い」
ササキアが、双子に目を向ける。その瞬間、ロノミアが糸帯の足場から手を放し、落下の勢いを乗せて斬りつけた。ササキアはそれを、籠手を身に着けた片腕で受け止める。
「可愛い弟子の大仕事、邪魔させるわけ無いだろ!」
「問題無い。貴様を倒してから、あの双子も捕える。それで片付く」
2人は再び、至近距離での激しい白兵戦を開始した。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑭

ササキアと交戦するロノミアの背中を見ながら、ボンビクスは瞑目して意識を集中させる。
(必要なものはくぁちゃんが教えてくれた……うぅん、ずっと昔から、くぁちゃんは私に言ってくれてたのに)
長く息を吐き出し、目を開く。
(私の魔法、不安定過ぎて、テンちゃんの結界が無いとまともに使えない。私はずっと、『使いこなせる』ようになろうと思ってた。それが間違いだった)
右手を前方に向けて掲げると、その手の中に新たな細糸が生成された。それらは、アンテレアの結界の中にあって尚、安定性の不足によってかき消える。
(大丈夫。私に足りない『安定感』は、テンちゃんが補ってくれる。私は何も心配しなくて良い)
再び細糸を生成する。糸が千切れ飛ぶ。
(むしろ、もっと滅茶苦茶に。安定性の全部、私は投げ捨てる。余力の全部、『出力』に回す!)
再び細糸を生成する。千切れた破片を、新たな細糸が絡め取る。
(もっと強く、あいつの『時空支配』よりもっと上から、『あいつの魔法ごと』!)
細糸が次々と生成される。それらは千切れ、崩れながら、新たな糸が残骸を更に巻き込み、少しずつ形を成していく。
「この『世界』の全部……縛める!」
突然、複雑に織り固められた細糸の集合体が、噴き出すように飛び出し、5人の周囲を取り囲むように形成されていく。

(これは……繭?)
周囲を取り囲んでいく白糸の塊を見ながら、ニファンダは冷静に魔法を行使し、繭を破壊しようと試みた。しかし、その感触に違和感を覚える。
「……あれ?」
再び魔法を行使する。
「…………なんで?」
再び魔法を行使する。
「……おかしい。違う。なんで、いや、そんな……っ!」
「ニファンダ、どうした!」
「っ! ……だ、大丈夫、会長はそっちに集中して!」
「……了解」
ササキアは再びロノミアに向けて突撃した。
(おかしい……私の魔法が、『繭の外に追い出されてる』。この繭の中は、完全にあの子の領域……! でも、外からなら攻められる。必ず押し潰して……あの子に勝つ!)

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑬

鋭い一撃はロノミアの首を捉えたはずだった。しかし、そこに彼女の姿は無い。
「何っ……!」
ロノミアはササキアの予測より数㎝ほど右方にずれた位置に着地していた。
「らぁっ!」
回転運動の乗った斬撃を、ササキアは仰け反るように回避した。ロノミアの攻撃は空を切り、重量に引かれてその身体は空中へと引っ張られる。“癖馬”は独特の刀身の形状から、それまでの回転と軸の異なる不規則な軌道で、回転を『上書き』した。ロノミア自身の肉体もまた、それに巻き込まれるようにして、ササキアの周囲を滅茶苦茶に飛び回る。
(こいつ……急に動きが読めなくなった……⁉)
「言わせてもらうぜぃ、生徒会長さんよ。『力』は『あるべき形』でありたがる。それを無理やり押し込めるなんざ、それは『技術』じゃなく『臆病』だ」
“癖馬”に振り回され、不規則に動きながら、ロノミアは続ける。
「『制御できない』んじゃない。『制御なんかしない』んだよ。『あるべき姿』の出力に、身体だけ貸してやるのさ。“強さ”ってのは、そういうものなんだよ!」
背後に回ったタイミングを狙い、ロノミアの一撃が放たれる。
「くぁちゃん!」
命中の直前、ボンビクスが叫んだ。同時に、ロノミアの動きが一瞬停止する。ロノミアの腹部を狙ってササキアが拳を打ち込もうとしたその時、その身体は空中で引かれ、双子の前に引き戻される。ボンビクスの固有魔法によるものだ。
「ごめんねくぁちゃん、ちょっと押し負けた!」
「ったく…………で? 掴めたな?」
「うん。もう大丈夫! くぁちゃん、私のこと、信じてくれる?」
「最初から信じ切ってたよ。……それじゃ、やってやれモリ子」
ロノミアは再び立ち上がり、手放した“癖馬”の代わりに生成した“血籠”を握った。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑫

ロノミアはふらつきながらも“癖馬”を持ち上げた。
「何を下らないことを……」
ササキアはロノミアの提案には載らず、突進を仕掛けた。
「うおっ! 危ねーだろー!」
ロノミアは刀を振った勢いで意図的に姿勢を崩すことで、攻撃を回避した。更に慣性のままに刀を振り回し、ササキアに向けて振るう。緩慢なその動作を、ササキアは容易に回避し、反撃に盾の側面を叩きつけようとした。ロノミアはそこに回転運動で戻ってきた刀身を合わせ、ぶつかり合ったその点を軸に、『自身の肉体』を遠心力によって大きく移動させる。空中に投げ出されたロノミアの身体は、回転運動しながら着地し、回転の『軸』を再び彼女の体幹へと移動させ、更に回転運動を加速させる。
「それで、生徒会長さんよぉ? 『暴走する力』は強さだと思うかい?」
「何?」
遠心力の乗った“癖馬”が、再び盾に衝突する。
(重い……が、この程度なら問題ない)
ロノミアは再び回転軸をずらしながら、空中に跳び上がる。
(よし、まだ『回転』は生きてる! このまま……!)
落下の勢いを乗せて、“癖馬”を叩きつける。それを受け止めたササキアの盾に、亀裂が入る。
(割れた……⁉)
「もう一度問うぜぃ、生徒会長! お前を今追い詰めているこの『制御できない力』は、強さか?」
「……制御し、扱うことのできないそれを、『強さ』とは呼ばない」
飛び退くように回避しながら、ササキアは答えた。
「へぇ……?」
ロノミアは地面を“癖馬”で打った反動で再び跳び上がり、追撃を仕掛ける。ササキアはその様子を注意深く観察し、ロノミアが自身の背後に着地した瞬間を狙って後ろ回し蹴りを放った。

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ここから,また伝説が始まる

10月のある日の午後9時,1人の青年は俗に言う肉体労働のアルバイト勤務を終えて疲れた身体に鞭打ち,都会のドーム球場を目指しておよそ7キロの道を地下鉄と己の脚力に頼って駆け抜けた。
なぜなら,彼が幼少期から応援し続けているプロ野球チームが4年ぶり39度めのリーグ優勝を果たし、上位三チームがぶつかり合うポストシーズンの勝ち抜き戦の最終試合がそのチームの本拠地であるドーム球場で行われていたからだ。
この試合で勝ったチームだけがその後,その年1年間で最も強かった野球チーム一つにしか贈られない名誉ある座に相応しいチームを決める決勝の舞台への参加資格を得られるからだ。
しかし,その優勝チームは残念ながらリーグ3位から勝ち上がったチームに接戦で勝ち切ることができずに逆転を許し,シーズンに別れを告げて長くてつらい冬のオフシーズンへと入った。
その青年もまた,胸に悲しみと負けた悔しさを秘め,数々の場所を巡って新たな人生の1ページを求めて悶々とした日々を過ごした。
しかし,花曇りの空の下で満開の桜が舞う3月下旬,彼や彼と同じチームを愛し,応援するファン仲間やチャンピオンの座を目指して全力を尽くして敗れ去っていった他チームのファンにとっても長くてつらい5ヶ月とは別れを告げ,この国のプロ野球最古の伝統球団として,40回めの優勝と13年越しの日本一という悲願成就に向けた創設91周年という節目のシーズンが今,始まろうとしている。

球場で固唾を飲んで見守る人,事情があって出先からラジオ中継やテレビ中継・ネットの速報で試合の様子を知ろうとする人,野球選手に憧れる若い世代の人,愛するパートナーや家族と共に試合を見守ろうとする人,この国で大衆娯楽の一つとして愛される野球を愛する全ての人が待ち望んだこの瞬間,それぞれの球場でそれぞれの試合開始時刻になり審判から試合開始という意味の「プレイボール!」のコールがかかりました!

さあ,野球の時間です!

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑪

ロノミアが追撃を狙い、ササキア達に向かう。その瞬間、ニファンダの魔法が彼女を捉えた。
(っ……時空干渉! マズい、モリ子の『糸』と違って、こんな単純な結界術でどうこうできる代物じゃない……!)
体勢を立て直したササキアが、盾で殴りつけようと踏み込んだその時、ロノミアの身体が自由を取り戻し、逆にササキアの動作が一瞬停止する。
(この『絡みつく魔力』……ニファンダの『時空支配』の中でもここまで妨害してくるのか)
ササキアとロノミアの攻撃が衝突し、再び空間が震える。
「……へぇ? 会長」
ニファンダに呼ばれ、ササキアは後退した。
「この『時空間を縛る糸』、犯人はあの双子ちゃんたちみたいだね。私の支配する領域内で、ここまで張り合ってくるなんてびっくりしちゃった」
「ふむ、そうか。なら、そちらから倒そう」
ササキアが注意を双子に向けると、それを庇うようにロノミアが移動する。
「くぁちゃん……どうしよう。あいつの時空間操作、すっごい強いよ」
ボンビクスが不安げに、ロノミアの背中に呼びかける。
「あん? そうかい。で? 駄目ならそこまでだぞ?」
「うっ……だ、大丈夫! だと、思う……」
「ふーん……モリ子、ヤマ子」
「「?」」
「何にせよ、私はお前ら信じるしか無いんだ。……だから、お前らに良いものを見せてやる」
ロノミアが、手にしていた“チゴモリ”と“ヒナギク”を消滅させた。代わりに、一振りの刀が出現する。
その刀は、『刀』と直接形容するには、些か歪であった。
刃渡り75㎝ほどの異常に幅広の刀身は先端に向かう程太く拡大しており、断面は五芒星を膨らませたような奇妙な形状をしている。外見に違わぬ質量のためか、ロノミアは柄こそ握っているものの、刀身の先端は設置させたままでいる。
「ブチカマすぞ、“癖馬”。……なぁ生徒会長、禅問答しようぜぃ。お題は、『制御できない力は“強さ”たり得るか』で」

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑩

(何だ? この子供たちは……こいつの仲間か? しかし、言い分が奇妙だった。『助けに来た』といった直後に、『守って』だと? 不自然だ……)
ササキアが、ニファンダを庇うように前に出る。それと対になるように、ロノミアも双子を後方へ押しやりながら前進した。
「クキキッ、何となーく察してるとは思うがよぉ……生徒会長さんよ?」
「どんな魔法を使おうが、勝つのは“甜花学園”だ」
「どうだろうなァ? あんたなら知ってると思うが……」
ロノミアとササキアが、同時に攻めに入る。ササキアの盾とロノミアの“チゴモリ”がぶつかり合い、静止した空間に火花が飛び散る。
(この威力……これまでの打ち合いと比べて、明らかに『重い』)
「クカハハッ! びっくりしてんな? 生徒会長さんよぉっ!」
ロノミアが“チゴモリ”を振り抜き、ササキアを押し返す。
「あんたなら知ってるはずだ。『守るものがある奴は強い』ってな。そういう能力」
ロノミアの構えた“チゴモリ”の赤い刀身が、どこか神聖さすら感じさせる清らかな輝きを放つ。
「異称刀、“稚児守”」
ニタリと笑い、ロノミアが更に斬撃を叩き込む。ササキアはそれを大盾で受け止めた。その衝撃の余波で、ボンビクスとニファンダによって縛められているはずの空間がビリビリと震える。
「なっ……これも防ぐのかよ!」
「『この程度』で……私は折れん!」
ササキアの啖呵に、ロノミアは再び口角を吊り上げる。
「へェ? そんなら……こっちはどうだ?」
大盾に向けて、ロノミアは更に“ヒナギク”を叩きつける。
(両手で打たれようが……待て、何故『変形効果』で直接狙わない?)
「敵に届くまで、この『生きた刃』は止まらねぇ」
“ヒナギク”の一閃は大盾に衝突して尚停止する事無く、少しずつ前進していく。少しずつ、その一撃の成立を目指して振り抜かれていく。
「異称刀ぉっ!」
遂に、その斬撃は完了した。防御技術により、直接的な殺傷こそ起きなかったものの、ササキアは弾き飛ばされ、後方に控えていたニファンダに受け止められる。
「“否凪駆”」

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑧

「ぐっ……時間が足りない……!」
ササキアが呟きながら、身体を起こす。
「あー? 今のを耐えるのかよ?」
「私は、皆に信頼されている……。それに応えるため、折れるわけにはいかないんだ!」
毅然と言い返し、ササキアは再び盾を構える。受けた刀傷は、既に治癒されていた。
「わーお、治癒能力まで搭載済みかよ……とんだ意地っ張りだ。こりゃ骨が折れるぞ?」
ササキアが盾を前に突き出し、突進を仕掛ける。
「ところで知ってるかい? 生徒会長さんよ」
ロノミアが、左手の刀を掲げる。それ――“緋薙躯”の刀身は根元から失われているように見える。否、正確には『視認困難なほどに細長く伸長している』。
「一度伸ばしたものは、必ず縮めなきゃならないんだよ」
“緋薙躯”の刀身伸長が解除され、超高速で元の長さに縮んでいく。ロノミアは先端付近を変形させ、スパイクを形成することで、縮小の過程でササキアの首を捉えられるようにしていた。スパイクがササキアの首の後ろに迫る。
(獲れる……!)
直撃の瞬間、スパイクは虚空で不自然に砕かれ、ササキアを傷つける事無く“ヒナギク”は元の形状に収まった。
「あ……?」
「……どうやら、間に合ったようだな。この『絡みつく魔力』が時間をも拘束していたのだろうが……残念だったな。『時空に干渉する』魔法の持ち主程度、この学園にも揃っている」
校舎の2階の窓が開き、1人の魔法少女がふわりと飛び降り着地した。
「会長、ごめんなさい! いきなりのことで対応に時間がかかりました!」
「助かった。奴が下手人だ」
蝶の羽根を思わせるシルエットの和装に身を包んだその魔法少女――ニファンダ・フスカが、ササキアの隣に並ぶ。
「あれが悪い人なんだ? 流石に私が出し惜しみしてる場合じゃないし、本気で行くよ!」

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑦

ロノミアは踏み込み過ぎず、離れすぎず、『約1m』の距離を保ちながら、連続攻撃を放つ。ササキアは2枚の盾でそれを捌きながら、反撃の機会を窺う。
(まだ……)
斬撃が止まった一瞬を逃さず、ササキアが盾の側面で殴りつける。ロノミアは二刀を交差させて押し返すように受け止めた。
(まだまだ……)
刀と盾の押し合いは、盾側の優勢となった。ササキアが少しずつ、ロノミアを押し返していく。
(まだまだまだ……!)
突き飛ばされ転がされないように、ロノミアはじりじりと後退していく。それに気付き、ササキアは踏み込みながら盾で弾き飛ばした。ロノミアは後ろ足を大きく引くようにして耐えるが、上半身が大きく仰け反る。
((今!))
攻めに転じたササキアに、ロノミアは“緋薙躯”の切先を向け、伸長効果を発動する。ササキアは首を傾けて回避し、そのまま盾で殴りつける。その瞬間、ロノミアは自身の周囲に展開していた結界を縮小し、自身に薄く纏うように変形させた。
周囲の空間には、ボンビクス・モリの拘束糸が漂っている。ロノミアの結界術があることで、『安定化』の恩恵を失った糸からロノミアは身を守っていたのだ。そして、その影響は近距離で戦闘を繰り広げていたササキアにも及ぶ。
ササキアは彼女の固有魔法によって身体能力を強化していたことで、拘束糸を強引に振り切りながら行動することができていた。そして、彼女の魔法が『無効化』ではなく『強化』であるからこそ、新たに絡みつく不可視の拘束を再び振り切るためには、僅かな『タイムラグ』が生じる。
(この感覚……! 時間が止まったときと同じ、『魔力が絡みつく感覚』! マズい、振り切ることは不可能ではない。しかし、この状況は……)
「おっらああァッ!」
一瞬の隙を逃さず“チゴモリ”が振り下ろされ、ササキアは壁に叩きつけられた。