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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑧

「ぐっ……時間が足りない……!」
ササキアが呟きながら、身体を起こす。
「あー? 今のを耐えるのかよ?」
「私は、皆に信頼されている……。それに応えるため、折れるわけにはいかないんだ!」
毅然と言い返し、ササキアは再び盾を構える。受けた刀傷は、既に治癒されていた。
「わーお、治癒能力まで搭載済みかよ……とんだ意地っ張りだ。こりゃ骨が折れるぞ?」
ササキアが盾を前に突き出し、突進を仕掛ける。
「ところで知ってるかい? 生徒会長さんよ」
ロノミアが、左手の刀を掲げる。それ――“緋薙躯”の刀身は根元から失われているように見える。否、正確には『視認困難なほどに細長く伸長している』。
「一度伸ばしたものは、必ず縮めなきゃならないんだよ」
“緋薙躯”の刀身伸長が解除され、超高速で元の長さに縮んでいく。ロノミアは先端付近を変形させ、スパイクを形成することで、縮小の過程でササキアの首を捉えられるようにしていた。スパイクがササキアの首の後ろに迫る。
(獲れる……!)
直撃の瞬間、スパイクは虚空で不自然に砕かれ、ササキアを傷つける事無く“ヒナギク”は元の形状に収まった。
「あ……?」
「……どうやら、間に合ったようだな。この『絡みつく魔力』が時間をも拘束していたのだろうが……残念だったな。『時空に干渉する』魔法の持ち主程度、この学園にも揃っている」
校舎の2階の窓が開き、1人の魔法少女がふわりと飛び降り着地した。
「会長、ごめんなさい! いきなりのことで対応に時間がかかりました!」
「助かった。奴が下手人だ」
蝶の羽根を思わせるシルエットの和装に身を包んだその魔法少女――ニファンダ・フスカが、ササキアの隣に並ぶ。
「あれが悪い人なんだ? 流石に私が出し惜しみしてる場合じゃないし、本気で行くよ!」

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑦

ロノミアは踏み込み過ぎず、離れすぎず、『約1m』の距離を保ちながら、連続攻撃を放つ。ササキアは2枚の盾でそれを捌きながら、反撃の機会を窺う。
(まだ……)
斬撃が止まった一瞬を逃さず、ササキアが盾の側面で殴りつける。ロノミアは二刀を交差させて押し返すように受け止めた。
(まだまだ……)
刀と盾の押し合いは、盾側の優勢となった。ササキアが少しずつ、ロノミアを押し返していく。
(まだまだまだ……!)
突き飛ばされ転がされないように、ロノミアはじりじりと後退していく。それに気付き、ササキアは踏み込みながら盾で弾き飛ばした。ロノミアは後ろ足を大きく引くようにして耐えるが、上半身が大きく仰け反る。
((今!))
攻めに転じたササキアに、ロノミアは“緋薙躯”の切先を向け、伸長効果を発動する。ササキアは首を傾けて回避し、そのまま盾で殴りつける。その瞬間、ロノミアは自身の周囲に展開していた結界を縮小し、自身に薄く纏うように変形させた。
周囲の空間には、ボンビクス・モリの拘束糸が漂っている。ロノミアの結界術があることで、『安定化』の恩恵を失った糸からロノミアは身を守っていたのだ。そして、その影響は近距離で戦闘を繰り広げていたササキアにも及ぶ。
ササキアは彼女の固有魔法によって身体能力を強化していたことで、拘束糸を強引に振り切りながら行動することができていた。そして、彼女の魔法が『無効化』ではなく『強化』であるからこそ、新たに絡みつく不可視の拘束を再び振り切るためには、僅かな『タイムラグ』が生じる。
(この感覚……! 時間が止まったときと同じ、『魔力が絡みつく感覚』! マズい、振り切ることは不可能ではない。しかし、この状況は……)
「おっらああァッ!」
一瞬の隙を逃さず“チゴモリ”が振り下ろされ、ササキアは壁に叩きつけられた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑥

ロノミアは左手に握った直刀“ヒナギク”を振り上げ、照準を定めた。その様子に、ササキアは警戒を強める。
(奴の構え……足を止めている? まさか、遠距離からでも当てられる刀なのか?)
ササキアの装備していた大盾が、2枚のやや小さくなった盾に変化し、両手に収まる。
(奴の攻撃力は把握できた。これで十分対応できる)
「駆けろ……“緋薙躯”!」
振り下ろした“ヒナギク”の刀身が伸長し、ササキアに迫った。ササキアは2枚の盾を構え、防御の姿勢を取る。
刀身は盾に衝突する直前、直角に軌道を変え、防御を掻い潜り切先を首に向けた。ササキアは身体を傾けるようにしてその刺突を回避する。
(刀身の『伸長』と『変形』!)
後退し、ササキアは双盾を構え直した。その隙に距離を詰めていたロノミアが、右手に握った太刀“チゴモリ”で斬りつける。ササキアは双盾で挟み込むように受け止め、そのまま刀身をへし折った。
「あ、テメ! よくもやってくれたな……!」
ロノミアがササキアを睨みながら距離を取り、“チゴモリ”の柄を強く握ると、鎺の隙間から赤い流体が溢れ出し、折れた刀身を埋めるように再形成した。
(あの刀も修復効果があるのか……)
「くそぅ……こいつを直すの、しんどいんだぞ? だから……」
ロノミアが両手の刀を真上に放り上げる。二振りは回転しながら上空で交差し、再び諸手に収まった。“ヒナギク”は刀身の変形効果によって“チゴモリ”と区別のつかない形状に変化している。
「これで、どっちがどっちか分かんないだろ」
「どちらが何であれ、防ぎ、砕く。それだけだ」
「良い答えじゃん」
ロノミアが二振りの刀を提げたまま、再び突撃する。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑤

ロノミアが斬馬刀を振り上げたその時。
「お前ッ! 何をしている!」
背後からかけられた怒声が、彼女の攻撃を引き留めた。
「…………へェ? この領域内で、自由に動けるヤツがいるとは思わなかった」
ロノミアが振り返ると、数m先に軍服風の衣装に身を包んだ魔法少女が立っていた。
「お前がここで一番強いヤツか? それなら朗報だ。『私を倒せば、この学園の異常は解決する』」
ロノミアの言葉に、魔法少女は眉を顰めた。
「……私より強い魔法少女なら、この学園に山ほどいる。私はこの甜花学園の生徒会長、ササキア・カロンダ。皆の信頼に報いるため、お前は必ず倒す!」
「やってみろよ」
ロノミアは“破城”を消し、代わりに一振りの日本刀を生成した。
「“幽鱗”、やるぞ」
身体強化による高速移動で距離を詰め、斬りつける。ササキアは大盾を生成し、それを受け止めた。金属製の硬質な防御に超高速で打ち付けられたことで、刀身に亀裂が走る。
「ははっ! 上手く防ぐじゃんか!」
「この程度の速度で、私を破ろうとしていたのか?」
「いやァ? ……けど、困ったなァ……刀にヒビが入っちまった」
ロノミアが“幽鱗”を掲げると、刀身の罅が全体に広がり、パリンと音を立てて割れてしまった。そして、その下から無傷の刀身が新たに現れる。
(……刀身の損傷を修復した? そういう魔法か)
ササキアが盾を構えると、ロノミアは“幽鱗”を消滅させた。
(何故消した? 損傷は修復できるはず……)
一瞬の思考の後、ササキアは口を開く。
「……今の刀、『修復』の回数は有限なんだな?」
「だったら何だ? どうせ『刀』は他にもある。“チゴモリ”、“ヒナギク”」
ロノミアが新たに、刀身の赤い二振りの日本刀を生成する。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その④

落下しながらビルの外壁を蹴り、ロノミアは一気にアンテレアの結界領域内に飛び込む。同時に、メディウムに封じられた結界術の効果で自身を取り囲む半径1m程度の小さな結界を展開するのと同時に、敷地内の地面に着地した。
「さて……もう始まってっかな? あいつらの魔法が発動しちまうと、どうしようも無いからな……」

ロノミアが飛び降りた直後、ボンビクスは固有魔法を発動していた。
ボンビクスの魔法は、『糸による拘束』。肉眼で捉えられないほど細い、透明な糸を展開し、対象を拘束するものである。
本来、ボンビクスの生成する細糸はその直径故に極めて耐久性に乏しく、出力も不安定なため、実用に足るものではない。
しかし、メディウムに設定した魔法によって固有魔法を強化することで、糸自体の強度を飛躍的に増強すると同時に、その糸が『捕える』対象を概念的なものにまで拡大する。
彼女の放つ『糸』は、その特性を最大限に強化したことで、不安定さも数倍に上昇したのと引き換えに、時空すら絡め取り縛めることが可能となったのだ。
しかし、魔法効果の不安定性自体は据え置きどころか更に悪化しており、ボンビクス一人では自身の強さを発揮できないという、致命的な欠点がある。
それを補うのが、双子の妹であるアンテレア・ヤママイの固有魔法である。彼女の魔法で円形に展開される結界は、領域内において作用している魔法を強化し、更に安定させる。範囲内にさえいれば例外なく効果が適用されるため、味方以外を強化してしまうリスクもある。
しかし、ボンビクスの糸は『時空すら縛める』。領域内にボンビクスの魔法効果が存在する場合、全ての存在及び概念は、安定化しリスクの消滅した拘束糸によって自由を喪失するのだ。

ロノミアが展開した結界内は『双子の領域』から独立した空間となるため、拘束糸は安定性を失う。唯一領域内で安全に活動できるロノミアは、悠然と無警戒に校舎に近付き、魔法を発動し、手の中に全長3m超の斬馬刀を出現させた。
「キッヒッヒ……やるぞォ“破城”。犯行予告のお陰で『守り』は固めてるだろうからな。お前が役に立つはずだ」

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その③

翌日、陽が西に傾きつつある中、3人は甜花学園を見下ろす位置にあるビルの屋上から、校舎の様子を眺めていた。
「くぁちゃん、どんな作戦で行くの?」
ボンビクスが尋ねる。
「そんなん決まってんだろー? お前ら双子の魔法で『学園全体』を対象に捕える。あとは私が好き勝手暴れて制圧。完璧だ」
「おー……」
「それよりも、だ。お前ら、本当に良いんだな? 友達もいるんだろ?」
「友達、もう帰ってる時間だと思うよ?」
「あーそっかー……なら問題無いな。残ってるのは中等以上だけだし、多少は手応えもあんだろ。そういやさ、果たし状も送ったんだぜぃ? ちょうど今日の朝に着くよう計算して郵送したから、多分今頃厳戒態勢だろうなァ……」
ニタリと笑い、ロノミアは双子に振り向いた。
「覚悟の用意は?」
双子はサムズアップを返した。
「それじゃ、始めようか。散り行く私の、少し気の早い弔い合戦」
「「了解!」」
双子は同時に首飾りのメディウムを握り、強く念じる。
「「変身!」」
ボンビクスは白色、アンテレアは薄緑色のケープコート姿に変身する。
「いくよ、テンちゃん! サポートよろしく!」
「任せてお姉ちゃん!」
アンテレアが手を前に翳すと、薄緑色に輝く光の輪が生成され、学園敷地に向けて射出された。光の輪は敷地全体を取り囲むように広く地面に拡大する。
「お姉ちゃん、準備オッケー! くぁちゃんも行って大丈夫だよ!」
「よくやったぞヤマ子ぉ。モリ子、私のことは気にするな、全力でブチかませ!」
メディウムを握りしめ、ロノミアは屋上から飛び降りた。

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