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理外の理に触れる者:海殺し その⑤

「そうそう、せっかくだからこれも言っておこうか。お前が探すべきは『雪』と『竜巻』だ」
別れる直前、あの女王さまは俺に向けてそう言ってきたんだ。
『竜巻』というのはまだ分かる。砂嵐みたいなやつが発生してるってんなら極めて自然だ。しかし、『雪』ってのはどういうことだ? こんな暑さの中じゃ、降って来る間に溶けて、せいぜいが雨になっちまうだけだろうに。
考えながら歩いていると、不意に鼻先に何かが落ちてきた。指でそれを触ってみると、小さな結晶のようだ。
(……まさか、このクソ暑い砂漠の中で、本当に雪が降るとは……)
一度変化を解き、人間の身体で雪の冷たさを楽しむ。石竜の皮膚で防いでいたとはいえこれまでひたすらに暑いだけだったから助かる。

しばらく身体を冷やして、再び怪獣化する。今度の変化はさっきより獣寄りに、やや小柄な2m半程度の背丈に薄灰色の毛皮と狼のような頭部、体長とほぼ同じ程度に長い尾を具えた、自分の中で『人狼』と呼んでいる姿だ。
その姿で雪の降る中をしばらく歩いていると、すぐに『竜巻』の方も見つかった。空高くまで伸びる、轟音を立てる砂の柱。これは紛うこと無き砂の竜巻だ。
「わん」
不意に足下に犬の鳴き声が聞こえた。そっちを見てみると、なかなかワイルドな雰囲気の大型犬がこっちを見上げていた。
「……いや待て犬は普通あんな露骨に『わん』とは言わねえな? お前異能者だろ」
犬を指差して言ってやる。犬は頷いて応えた。
「あと、おおかみ」
犬もとい狼が普通に話しかけてきた。
「そうかい」
「あれ、どうにかして」
「あの砂嵐をか」
「そう。あの中に砂漠の異能者がいる」
「そうかい。まあこっちも一応頼まれてここまで来てるからな」
「ん。それじゃ」
それだけ言うと、狼はどこかへ走り去ってしまった。

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理外の理に触れる者:海殺し その④

水のコンパスを眼球の無い顔で見ながら、ひたすら砂の上を歩き続ける。あいつが話さなくなったせいで、実に退屈な作業と化している。鬱陶しいだけだと思っていたあいつも、結構大きな働きをしていたわけだ。
「おい怪獣」
不意に声をかけられた。声のした方に目をやるが、砂しか見えない。
「こっちだって」
そっちを見てるんだが。
「…………ああ、そういえばそうか」
目の前の砂の塊が突然崩れ、その下に偉そうに膝を組んで座る少女が現れた。
「やあ、良い天気だな?」
少女が話しかけてきた。とりあえず何も言わず睨み返しておく。
「……何だよぅ、返事くらいしてくれても良いんじゃあないの? 私、女王さまぞ?」
「ハァ?」
「お、喋った。ただの怪獣じゃないみたいだな?」
「誰だお前。女王だァ?」
「うん。異能は『無生物の支配者』、人呼んで“無命女王”。それが私だよ」
「へえ、知らない名前だ」
「怪獣よー……もっと周りの異能者に興味持て? 私、ここら一帯のボスみたいなものぞ?」
「へえ、そいつは知らなかった」
「……まあ良いや。私は用事があって忙しいんだ。その代わりに、ほれ」
周囲の砂が浮き上がり、矢印の形をとる。コンパスが指すのとはちょうど90度ほど進路がズレていやがる。
「この砂漠は、異能者が創り出したものだ」
「ンなこたァ分かってんだ」
「お前、行って止めてこい。日差しと乾燥は身体に悪いからな」
「悪いが、こちらも用事があってな」
「そっかー……」
無命女王とやらがこっちに指を差してくる。直後、手の中の水のコンパスが弾け飛んだ。
「あッ! おま、何しやがった!」
「水源なら連れて来てやる。そいつ置いてさっさと行かんか」
奴が地面を指差すと、砂の地面に小さな穴が開き、結構な勢いで水が噴き出した。地下水だったとしても透明すぎる気がしないでも無いが、まあ異能の影響だろう。
「これでそいつも平気だろう。早く行って来い」

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往年の列車は心の中へ

幼き日の俺を乗せて韓国の大地を走り抜けたセマウル号はあの窓が楕円の客車から最新式の四角窓のITXセマウルになった
日本では俺が乗ることは叶わなかったが、名前が次世代の名前に受け継がれた列車は数多くある
遠い北陸と越後湯沢を結んだ「はくたか」は新幹線に、ブルートレインでお馴染みの「はやぶさ」、「さくら」も新幹線の愛称になった
1番の憧れだった大阪と札幌を結ぶことで有名な
トワイライトエクスプレスはクルージングトレイン
トワイライトエクスプレス瑞風になった
急行銀河もWEST EXPRESS 銀河となった
夢の超特急として知られた0系こだま
300系ひかり、500系のぞみも今はN700系,N700A,N700Sの3つの車両にその名を譲り、今は一線を退いた
それから最近,九州では特急かもめが無くなって新幹線の名前にもなってたな
甲州街道沿いを駆け抜け、後に他の私鉄にも譲られたことでお馴染みの往年の名車両の5000系は新たにデビューした京王ライナー向けの車両の形式番号を新5000系としたこともあったな
思い出の車両や憧れの列車は世代交代が進み、今はもう俺が乗ったことのない列車や乗りたくても料金が高くて乗れない列車ばかりだ
俺の思い出や子供の憧れとして日本全国を突っ走った先輩達のバトンを受け取った後輩列車は走り出す
今では,世間的にはまだまだ若いはずの俺よりも若い車両が増えている。
通勤電車では首都圏のE233系とか、車両の外見とデビュー当日のハプニングから電子レンジという蔑称で呼ばれるようになってしまったE235系もそう
新幹線なら俺のいる東京と想い人のいる街を結び恋愛成就という望みを乗せて走るのぞみ号のN700、はやぶさ1号のE5,H5系、こまちのE6系、北陸・上越新幹線で走る若手エースのE7,W7系もそうだ
往年の気動車、キハ40の後釜と呼ばれたGVE系統も忘れてはいけないな
「負けないでもう少し、最後まで走り抜けて」俺たち鉄道ファンが歌うこのワンフレーズの歌詞に乗せ、都営地下鉄三田線6300形や中央線快速電車の209系はいつ置き換えが終わるか分からない中、今日も走り続ける
俺は鉄道ファンとして、この先輩たち、いやその後輩たちの活躍も胸に刻み、今日も鉄道を乗り回す

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HAPPY END

「ねぇ知ってる?
 この木の下で成立したカップルは、
 将来結婚できるんだってさー」
そう言って彼女はアイスをかじり、「つめたっ」と目を細めた。
『何を馬鹿馬鹿しいことを…』
と言いながら僕もアイスをほおばった。冷たい。
「え、でも悠、好きな子いるんでしょ?」
ふふん、知ってるぞ、とでも言わんばかりに片手で髪をかき上げる。さらりとした黒髪から甘い香りがして、つい目を逸らしてしまった。
『いや、興味ないって』
声が震えた。気付かれないといいな、と願うばかりだった。そして幸運なことに、彼女は僕の震えた声に気付いていないようで、「いやあ今日は暑いねー」と呑気に呟いている。
『梨花は信じてるわけ?
 てかその話、なんで僕に』
「まぁまぁいいじゃんかー」
アイス食べ終わっちゃった…と悲しそうに棒を眺める。『僕のあげようか』と言う言葉が喉まで出かかって、理性で抑え、なんとか平静を装う。
「応援してるんよ?これでも」
『何を?』
「いやだから、悠の恋だよー
 ずっと無愛想でそーゆーの興味ないとか
 言ってたのにさー」
『あぁ…』
「応援してるから、教えたの」
『そうか…ありがとう』
「言うこと聞いたげるから何でも言いなよー
 もちろん今だけだけどね笑」
彼女が帰り支度を始める。肌がジリジリと焼けてくる。心の中で葛藤する。どうしよう、と思う。
『さっき言ってた結婚できるってやつ、本当なん』
「えーどしたの?そー言われてるってだけやけど
 みんながそうなったら素敵だよね」
彼女はうっとりした目で遠くを見つめる。
「少なくとも私は、それを実現したいんだ
 これ内緒にしといてね」
そういってふふふ、と笑った。
『どういうこと…?』
「私昨日ね、好きな人にここで告白されたの」
頭を鈍器で殴られたかのような、ずしんとした痛みに襲われた。もちろん心理的な痛みなのだが。
「だから結婚できたらいいなぁ、なんてね」
高校生が何言ってんのって話だけどさー、と彼女ははにかむが、僕には表情筋を動かす余裕さえなかった。



幸せが、終わった。