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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑥

ソレの目の前の女性、右手の武器から推測するに“ドーリィ”であろう彼女は、ビーストの拳を回避することも無く胸部を貫かれた。
腕は彼女の肉体を貫通し、背後にまで抜ける。しかし、手応えがおかしい。肉や骨を砕き押し退けた感触が無い。彼女の背中から突き出る腕の長さも、本来想定されるより僅かに長く見える。その差、ちょうど彼女の胴体の厚みに等しい程度。
「っはは、どうだ驚いただろ。お前が言葉を理解できるかは知らないが、勝手に自慢させてもらうよ。私の魔法、『肉体を“門”とした空間歪曲』。ざっくりいうと、『私の身体に触れたものが、私の身体の別の場所から出てくる』。要するに……」
フィロの刺突と同時に、ビーストは飛び退いて回避する。
「お前の攻撃は全て、私を『すり抜ける』」
ビーストが尾で薙ぎ払う。フィロはそれを跳躍して回避し、地面に突き立てた短槍を軸に蹴りを仕掛ける。
「ところで化け物。私の魔法、一見防御にしか使えなさそうに見えるだろ? ところがどっこい、面白い特性があってさ。“門”にするのに必要な『身体の一部』って、切り離されていても適用範囲内でさぁ」
フィロが懐から、小さな骨片を取り出す。
「これ何だと思う? 正解は『私の左腕の尺骨の欠片』」
フィロは骨片をビーストに向けて放り投げ、『自分の足』に槍を突き立てた。その刃は空間歪曲によって骨片から現れ、通常ならば在り得ない角度から刺突が放たれる。身体を折り曲げるようにして回避したビーストは、逃げるようにその場を離脱した。
「む……私にダメージを与える手段が無いからって逃げるのかい。まあ……あとはあの2人に任せるとするかね」

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皇帝の目_4

「チトニア、頼らせてもらう」
「うん!指示ぷりーず!」
いつの間にかチトニアは梓の腕にべったりくっついていて、はしゃぎながら斧を渡した。
「じゃあ早速だけど。ゴルフの要領であの看護師を飛ばしてほしい」
短い指示だが、チトニアはその意味を正確に理解した。梓は常に片手を塞がないと目が見えない。更に、貧弱な梓は片手で斧を振るうことはできないため任されたのだ、と。チトニアは斧を振りかぶり、平らな面を看護師の腰に当てた。
「きゃっ!」
うまい角度で飛ばされ、看護師は病室の外へ。すかさずチトニアはベッドをひっくり返して病室の入口を塞いだ。幸いこの病室には梓しかいなかったのでベッドは有り余っていた。
「…強いな」
「パワー型だからね!」
梓が戦うのを宣言してからこの会話まで、およそ30秒。ビーストは蛇口から出切った。それは細長いおびただしい量の人間の腕の塊に、頭や胴体と呼べるものはなく、魚の尾びれのようなものが大きく一つついている姿をしていた。
「ビーストってなんか能力使う?」
「使う子もいるよ?ビーストって皆大型だけどこいつ小型だから、こいつには『大きさを変える』みたいな能力があるかも」
「なるほど…」
ビーストは、悲鳴ともつかない雄叫びをあげた。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑨

「おいビースト来てんぞ。どうする?」
「どうするって言われても、私がこの状態じゃ応戦は無理だし……」
「じゃあ駄目じゃねーか」
「私のプランじゃあんたが増援呼んでくれるはずだったのー」
「それはごめん……」
「あ、そういえば、けーちゃんの家、かなり喰われたよ。守れなくてごめん」
「初撃で既にぶっ壊されてたから問題ない」
「さて……どうしよっかなー」
さっき吹き飛んだ右手を見る。まだ4分の1も再生していない。
「けーちゃん、私重い? 物理的に」
「いや、半分くらいになってるから結構軽い」
「それは良かった。じゃ、私のこと抱えてしばらく逃げ回ってくれる?」
「了解」
彼は私のことを小脇に抱えて駆け出した。直後、さっきまで私たちがいた場所にビーストの踏み付けが突き刺さる。
そんなことより、今は回復に努めよう。あんまり重くなってもケーパの逃げる邪魔になるから、足や頭、お腹の傷は放置して、右手の治癒だけに集中する。今欲しいのはここだけだから。
「……あ、やべっ」
突然ケーパが私を放り投げた。
「むぐっ……どしたの、けーちゃ……」
あいつはすぐに私を抱え直して、逃走を再開する。
「あっぶな……踏み潰されるところだった」
「大変だったじゃん。怪我とかしてない?」
「してない。ギリセーフ」
「それは良かった」
右手の治癒は掌全体の再生にまで至った。これだけあれば、大丈夫かな。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その④

ハルパが走って約1時間。目的の都市は既に戦火に包まれていた。
「………………」
ハルパは転移魔法でその中心地にまで移動し、ビーストを探した。それはすぐに発見される。
体長約20mの巨大な猛獣。その口の端からは炎が漏れ、背中から生えた山羊と竜の頭部は不吉な咆哮をあげている。
ニタリ、と口角を吊り上げ、ハルパがそちらに突撃しようとしたその時、鋭い破裂音と共に銃弾がビーストの胴体に直撃した。
「…………?」
ビースト、ハルパ共に、銃弾の飛んできた方向に目をやる。
『おいビースト、こっちだ! これ以上好き勝手させてなるものか!』
拡声器を通した男声が、辺りに響き渡る。
ビーストがそちらに向かおうとするより速く、ハルパは飛び出していた。身体強化による超加速でその声の主の元まで駆け、勢いのままに飛びつく。
「えっうわあ!」
彼を押し倒し馬乗りになったハルパに、声の主は一瞬動揺を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「なんだ……ハルパじゃないか。久しぶりだね。もう5年……6年くらい会っていなかったかな?」
その男がワイシャツの左袖をまくり上げると、ハルパの左前腕にあるのと同じ位置に、獣の咢を模した紋様が刻まれていた。
「それより、一度退いてもらえるかな。ビーストが来ているから……」
そう言うその男の目には、間近にまで迫っているビーストの姿が映っていた。
「…………」
ハルパは黒槍を取り出し、形状変化によってドーム状の防壁を作り出す。
「いや、僕らだけ守られていても駄目なんだけど…………、1回下りてくれる?」
再び頼まれ、ハルパはしぶしぶ男を解放した。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その④

少女が固く抱きしめるテディベアの右腕が、ビーストを捕捉する。それと同時に、ビーストは少女から距離を取るように跳躍した。高速で伸長したテディベアの腕が、いち早く回避行動を取っていたビーストの脇を通り過ぎ、元の長さに縮んでいく。
そして、テディベアの腕が完全に縮み切ったと同時に、ビーストの背後にもう1人、ビーストの正面でテディベアを抱えているのと『全く同じ外見の』少女が、虚空から出現した。
突然の事態に対応する前に、その少女は身体強化を乗せた拳を直撃させ、ビーストを遥か下方の地面に叩きつけた。
少女は短距離転移によって尖塔の上に移動し、自身と同じ姿の少女に抱き着く。
「ササ、クマ座さん貸してくれてありがとう」
抱き着かれた側が、テディベアを抱き着いた側、“ドーリィ”ササに差し出す。
「ありがと、サヤ。私もこれ、返すね」
ササも腰にリボンで結い留めていた『クマ座さん』に瓜二つのテディベアを“マスター”サヤに差し出した。
テディベアの交換を終えた2人は、屋根の端から顔を覗かせビーストの様子を見ることにした。地面に叩きつけられ、相当のダメージを受けたはずの怪物は、しかして大したダメージを受けた様子は無く、起き上がって上方の2人を眼の無い顔で睨みつけている。
「ササぁ……あんまり効いてないよ……」
「だ、大丈夫だよサヤ……クマ座さんの攻撃は1回当たって腕を片方切れたし、私のパンチもちゃんと命中したし……」
顔を見合わせて話す2人の耳に、石材を突き砕く激しく断続的な音が入ってくる。
「「?」」
再び見下ろすと、ビーストが壁面を駆け上ってきている。
「ぴゃあぁっ!?」
「に、にげ、にげようサヤ!」
ササはサヤを抱き締め、そのままビーストの向かってくるのと反対側に屋根を転げ落ちる。端に転がっていた何者かの指に触れると同時に、2人の身体は空間歪曲に飲み込まれ、そこから数十m離れた廃墟の陰に転がり出た。

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五行怪異世巡『きさらぎ駅』 その⑤

白神が足元を照らしながら、2人は街灯すら無い暗闇の中を進む。道に沿って歩くと、小さな商店、廃業したコンビニエンスストア、人の住んでいる気配が無い何軒かの民家が見られた。
「すっごいド田舎だぁ」
軽い口調で言う白神の袖を握りしめたまま、青葉も答える。
「何か、不気味ですね」
「このまま奥へ進むほど、なんだか引き返せなくなりそうな気がしない?」
「……怖いこと言わないでください」
2人は一度立ち止まり、駅の方へ振り返った。駅舎は暗闇の中に沈み、輪郭もぼんやりとしか見えない。
「……1度戻ろっか?」
「そうしてもらえると助かります」
「その前に……もしかしたら一瞬痛い思いするかもだけど、ごめんね?」
白神がそう言ってスマートフォンを、青葉が掴まっている左手に持ち替えてから右手を掲げた。その周りにパチパチと音を立てながら電光が走り、その手を前方に向けると、駅の方に向けて雷のように電撃が走っていった。その光に、来た道が一瞬照らされる。
「うん、道はまだちゃんとある。少し急ごっか」
2人は駆け足で駅舎の方へ戻り、無事に辿り着いた。
「さて……どうしようね。振り出しに戻っちゃった」
「状況が悪化するよりはマシだと思いましょう」
「そうだね。……ところでアオバちゃん?」
白神が、青葉の背後を指しながら尋ねた。
「その子、誰?」

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その①

ビーストの出現に市民が逃げ惑う中、少女はただ1人、怪物に向けて迷い無く突き進んでいた。
「……チッ、『あれ』じゃないのか。まあ良いや」
少女は肩に担いでいた片手剣を、九頭竜のような外見のビーストに突き付けた。
「どうせビーストには変わりないんだ。人類の敵が。ブチ殺してやる!」
手の中の小さな球体を地面に叩きつける。すると、そこから白煙が広がり、辺りを覆い隠した。その中に紛れて、少女はビーストの背後に回り、斬りつけようとする。その横合いから、ビーストの首の一つが彼女を轢き飛ばした。少女はそれを剣で受け、辛うじて受け身を取る。
「くそっ……重い。流石に全方位警戒してるか……」
肩掛け鞄から手榴弾を取り出し、離れた場所に投擲する。ビーストがそちらに注意を向ける気配を感じながら、それとは反対側に回り込み、再び斬りつける。その攻撃は見事、ビーストの胴体に命中したものの、厚く硬い鱗に阻まれ、有効打とはならなかった。
「クソ、硬った……あっまずっ」
脇腹にビーストの尾が叩きつけられ、弾き飛ばされる。直接的なダメージに加え、建物の壁に全身を強く打ち付け、衝撃で呼吸が止まる。
(っ…………クソッ、身体が動かない…………痛覚が邪魔だな……)
ビーストがにじり寄ってくるのを、流血で潰れかけた目で睨み返しながら、少女は力の入らない腕を地面につき、立ち上がろうと苦心する。
ビーストの首の1つが少女に向けて伸びてきたその時、彼女の背中を何者かが軽く叩いた。ビーストの攻撃が命中する直前、少女の身体は数m離れた地点に瞬間移動していた。
「…………やっ……と、来たか……遅いんだよ……」
「あなたがせっかち過ぎるだけですぅー。まったく、勝手に私の武器持っていったでしょ」
言い返しながら少女を助け起こしたのは、彼女とおおよそ同じ体格の、紅白の防寒着に身を包んだ緑髪のドーリィだった。
「まあ良いや……ビーストだ。私追い求めていたヤツとは違うけど、せっかくだから」
少女の差し出した右手に、ドーリィが左手を叩き合わせる。
「手ぇ貸せ、相棒」
「手といわず、いくらでも。キリちゃん」

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その③

そのビーストは、崩れかけの尖塔に狙いを定め、更に加速する。素早く駆け上がり、頂上で全周に注意を払う。ソレは眼球を持たない代わりに、皮膚全体が視覚に相当する情報を取り入れている。『皮膚全体』が目であるに等しいその感覚能力と、その情報量に耐え得る処理能力を最大限活用し、僅かな不信の動作も見逃すまいと注意を払う。更に並行して、ソレの脳の一部は敵対存在の分析を続けていた。
少女がこれまで、ソレに攻撃を放ったのは初撃含めて3回。アプローチの総数が32度であるのに対して1割にも満たない、極めて低い頻度である。
それら1つ1つの事例を鮮明に想起しながら、パターンを探す。
出現場所、出現位置、脅かす言い回し、構え。決して多くは無いサンプル数を反芻しながら約1分。不意に、彼の取り込む視覚情報に動きが確認された。
自身の立つ尖塔の下を見ると、件の少女がとぼとぼとした足取りで入り口をくぐるところだった。ビーストの全身に、緊張が走る。右手の拳を強く握り、尾は脱力しながらも鞭のように俊敏にしならせ、攻撃の準備を整える。
視覚を研ぎ澄ませ、引き続き周囲を監視していると、ソレの背後、尖塔の屋根の端に、幼い手の指がかかるのが見えた。
瞬間、刺突とも呼べるほどの速度で尾による『点』の打撃を放ち、手の周囲の建材ごと吹き飛ばす。破片が飛び散り、手は支えを失い落下していく。
その時、そのビーストの視覚能力は、飛ぶ破片の中に不自然な物体を発見した。
『指』。人間の手のそれに近い形状ではあるものの、先程交戦していた少女のものとするにはやや長すぎるそれ。この場に存在するにはやや不自然すぎるそれ。その理由を解き明かそうとするソレの『視界』に、空間の僅かな歪みが映った。その起点は、例の『指』。そしてそこから、桃色のテディベアを抱えた少女が現れた。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その①

廃墟群の中を、1つの影が走っていた。
背の丈は大柄な成人男性程度。やや筋肉質な体つきをしたソレは、しかしてたとえ遠目から見ようとも人間では無いと分かるような特長を有していた。
最も明確な特徴は、長く太く平たい、ある種のサンショウウオが具えているような尾である。その他にも、頭部は大型爬虫類のような顎以外のパーツを持たず、皮膚全体は粘液に覆われてぬらぬらと光っている。
付け根から切断された左腕の傷口を水かきのついた右手で押さえながら、尾でバランスを取りつつ器用に全力疾走を続けるその影、“ビースト”は、どす黒い血痕を足跡のように垂らしながら、一心不乱に駆け続けていた。
“逃走”のためではない。生体「兵器」とはいえ、ビーストは1つの生命体である。1つの明確な意志を持って、ソレは駆け続けている。
“追跡”のためではない。ソレはたしかに戦闘の只中にあるが、敵対存在を追っているわけでは無い。敵はソレから逃げているわけでは無く、追っているでも無く、敢えて表現するのであれば、“隠れて”いる。しかし、発見しようという意志も無い。
そのビーストが求めていたのは、“状況の打開”。現在地はソレにとってあまりにも不利で、敵にとってあまりにも有利な環境だった。
がらり、と左前方から瓦礫の崩れるような音が聞こえてくる。反射的に、音から離れるように後方に跳躍し、右腕を戦闘のために構える。その時だった。
「わっ」
近くの物陰から現れた少女が、脅かすように声を上げ飛び出してきた。そちらに尾を叩きつけるが、少女は既に身を伏せ、その場から消えている。
ビーストがよろめくように少女の現れた物陰から離れると、ソレの頭部ほどの高さを通っていた剥き出しの配管にぶら下がった先程の少女が、テディベアを抱えた両手をソレに向けて突き出した。
「ばぁっ」
ビーストは咄嗟に大きく跳躍し、手近な廃墟の2階、その割れた窓から屋内に飛び込んだ。少女は配管からぼとり、と落下し、その後を追って1階から建物に侵入する。