Specter children:人形遣いと水潜り その④
朝食を済ませた二人は、冰華の私室でしばしの食休みをとっていた。
「それで? 蒼依ちゃんはなんでこの村に来たの?」
「んー? んー…………これ言っていいやつかなー……」
「何、犯罪?」
「合法。っていうか現行法で多分裁けないやつ」
「つまり倫理的にはアウトなんだ」
「私はセーフだと思ってるよ」
「ふーん? まぁ正直に言いなよ」
「うーん……」
蒼依は言い淀みながら頭を搔き、髪の毛の中から掌大の人型ぬいぐるみを取り出した。
「斬新な髪留めだね?」
「違うわ。ほら」
人形を掌に載せたまま、それを冰華の眼前に差し出す。冰華がそれを見つめていると、人形はひとりでに動き出し、蒼依の掌に両腕の先端をつき、もたもたと立ち上がった。そのままバランスを崩し、床上に落下する。人形は数瞬震えた後、再び立ち上がり蒼依の肩までよじ登った。
「わぁすごい玩具。都会の流行り? 可愛いねぇ」
「……まぁ、うん」
目を伏せた蒼依に、冰華は堪えきれず笑いを漏らしてしまう。
「あははっ、ごめんごめん! 冗談だよ冗談! ちゃんと『視えてる』から!」
その言葉に、蒼依はきょとんとした表情を見せた。
「それ何? 式神的なやつ? 幽霊?」
「……えっと……私の『感情』を材料にした…………何か、そういうヤツ」
「へー。感情って、喜怒哀楽みたいなやつ?」
「うん。感情を1個ずつ切り離して、人形の形で動かすの。名付けて【感情人形】」
「わぁかっこいい。その人形、強いの?」
「弱いよ」
「弱いんだ」
蒼依が人形を指先でつまんで放り投げると、そのまま空中で溶けるように消滅した。
「……それで? 蒼依ちゃんなんでここに来たんだっけ?」
「あぁうんその話ね」
一瞬口をつぐみ、息を吸って再び口を開く。
「妖怪を殺しに来たの」
淡々と放たれたその言葉に、冰華は硬直した。