旋律 #5
そして、その時にふと気がついたことも尋ねてみた。
「あと、アイカちゃんは?おやすみ?」
その子は周りを少し見渡してから答えた。
「マオもよくわからないんだけど…、アイカちゃんは、お休みだよ」
「なんで?」
「え?律ちゃん、知ってるんじゃないの?」
もともと大きな目をさらに広げて言う彼女に、私はさらに目を丸くした。
「なんで?なんで私が知ってると思ったの?」
「だってさ、アイカちゃん、金曜日帰る時ずっと『律ちゃんのせいだ、律ちゃんひどい』って言ってたもん」
そう説明されても、私はただ首をかしげるばかりだった。
アイカちゃんに何かした覚えは、ないんだけどな。
とりあえずその子にお礼を言って、次は美亜を捕まえた。
「ねえ、なんかみんなが変な感じなんだけど。あと、アイカちゃん、金曜日何か言ってたんでしょ。何を言ってたの?」
畳み掛けるように質問する私に、美亜は少し驚いていた。
「えっとね、みんなが変なのは多分アイカちゃんが原因だよ」
美亜は私がジャングルジムから落ちた後の話と、金曜日のアイカちゃんのことを教えてくれた。
幼稚園児の話すことなので辿々しく、とても長い話だった。要約すると、アイカちゃんは私がジャングルジムから落ちたせいで貴方から嫌われた、と騒いでいたらしかった。
私が病院へ運ばれた後、アイカちゃんとそのお母さんは私の家に来た。その時母は私に付き添っていたので、少しの間留守番していた貴方が出た。
隣でお母さんが必死で謝ってるのに、アイカちゃんは特に気にすることもなく、ワンピースの汚れを払ったりと退屈そうにしていたらしい。
アイカちゃんのお母さんが電話か何かで外に出た時、アイカちゃんはいつも通り貴方に甘えようとした。でも貴方が彼女に向けたのは、悲しみと怒りとが入り混じったガラス玉のような瞳だった。
そして貴方は、無言で病院へ向かった。