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不機嫌なドミネイトレス

百貨店の外壁に突き刺さり暴れる怪物の姿を向かいのビルの屋上に腰掛けて眺めながら、魔法少女は溜め息を吐いていた。
「…………あーあー、また怪物が出たからってパニックになって。そのデパート、4か所しか出入口無いんだからさぁ? もっと冷静に順番守って逃げなきゃ、転んで怪我しちゃうでしょ……あ、ほら見ろ。1人転んだ。ああなると後ろも連鎖しちゃうんだからさぁ…………え、何? 私あんな馬鹿どもを助けなきゃならないの? 警察の皆さんも自衛隊の皆さんも分かってる? 普通の兵器効かないんだよ? 現状私の魔法しか対抗手段無いんだよ? この街一つ分の命を私が握ってるんだよ? 私のモチベがこの街の命運左右してるんだよ? あんな馬鹿ばっか……もっと真面目に生き延びようとしてよ。このままじゃ私、アイツらを助けたくなくなっちゃうよ……」
怪物の身体が完全に百貨店の中に潜り込むのを見届けてから、ようやく少女は重い腰を持ち上げた。
「…………まぁ、まあね。別に死んでほしいわけじゃないしさ。やらなきゃならないことはちゃんとやるよ。けど……」
軽く1歩跳躍して10m以上先の百貨店の外壁に着地し、そのまま怪物が開けた穴から屋内に侵入する。そのフロアにはまだ、逃げ遅れた一般市民が残っており、一部は侵入してきた怪物にスマートフォンを向けている。
「馬鹿と阿呆と無能には、ひとまず退場してもらおうか」
少女が指を鳴らすと、周囲にいた人間や両生類のような外見の怪物の動きがぴたりと止まった。
更に少女が指を軽く振るのに合わせて、人間たちは自動人形のような硬い動きでぐるりと振り向き、階段やエスカレーターに向けて列を乱すこと無く歩いて行き、1人ずつ順番に地上階に向けて避難を進めていった。
「……やっと消えたか。何百人いたんだか…………あー疲れた。もうこれで帰っちゃおっかなー……」
少女の魔法が解けて自由になった怪物が、最後に手近に残っていた彼女の方に顔を向ける。
「ウソウソ。ちゃんと最後までやるからさ。秒でお前片付けて、さっさと帰ろっと」

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魔法少女学園都市:日々鍛錬守護者倶楽部 その④

(……ふーむ、このままじゃあの子ら怪我しちゃうな)
タツタが指を鳴らすと、無数の腕が怪物を拘束した。それとほぼ同時に、サホが教室に駆け込んでくる。
「着いた……って人いる⁉ そこのみんな! 私達が止めるから今のうちに逃げて!」
生徒たちの避難が完了してから、タツタも壁から顔を出す。
「助かった。私が出てったら更にパニックになるところだった」
「……まぁ、タツタちゃんぱっと見幽霊だからねぇ……」
「とにかく、これで邪魔者はもう無し。ということで」
「うん。さっさとこいつをやっつけちゃおうか」
怪物が咆哮をあげ、2人に向かって突進しようとしたところで、タツタの召喚した腕に足を取られ、転倒した。
そこにサホが接近し、スタッフで殴り飛ばし、窓から外に弾き出す。
「なーいすしょっとー。窓壊したけど」
「緊急避難ってことで……じゃ、広いとこまで追い出せたところで」
サホの構えたスタッフにタツタが飛び乗り、スタッフを振り抜く勢いで窓の外へと弾き飛ばす。それによってタツタは怪物に追いつき、空中で生成した腕で捕え、地面に向けて投げ飛ばした。
更に掴んだままの腕を縮めながら自分の身体を怪物の方へ引き寄せ、仰向けに倒された状態の怪物の腹部にドロップキックを命中させる。そこから飛び退くのと同時に、サホの振るった炎の鞭が叩きつけられた。

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日々鍛錬守護者倶楽部 その③

「で、タツタちゃん。何飲む?」
自動販売機の前でサホに尋ねられ、タツタは無言でボタンの1つに指を置いた。
「アイスココアね、りょーかい」
サホが投入口に1枚ずつ小銭を入れ、ボタンが光った瞬間にタツタが押す。
「ごちそーさまですサホさんや」
「うん、まあ負けたからねぇ……」
サホ自身も缶ジュースを購入し、近くに設置されていたベンチに並んで座って一息つく。
2人が飲み物を飲んでいると、離れた場所から爆発音とガラスの割れる音が聞こえてきた。
「敵⁉ 学校の中だよね今の⁉」
「落ち着けサホ」
いつの間にか変身していたタツタが、立ち上がろうとしたサホの肩を掴んで止める。
「〈See Thorough〉」
タツタが空いた片手の上に、霊体の眼球を生成し、音のした方へ飛ばす。壁と天井をすり抜けて飛んでいったそれは、数秒後引き返してきた。
「行くよサホ。怪物だ」
「う、うん!」
サホも変身し、廊下を駆ける。
「サホ、私は直線で行くから」
「え? 了解」
タツタは壁に足を掛け、力を込める。
「〈Walk Through〉」
霊体化した肉体がその壁をすり抜けた。そのまま重力すら無視して、音源の方向へ建材をすり抜けながら一直線で移動する。
最後の壁をすり抜ける直前、一時停止して再び霊体の眼球を飛ばす。その眼球は壁の向こうで暴れる、体長2mほどの怪物を映した。教室の隅には、まだ帰っていない生徒数人が縮こまって震えている。

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五行怪異世巡『天狗』 その⑥

「そっちかァ!」
音のした方に駆け出そうとした種枚を、今度は青葉が制止する。
「待ってください、種枚さん!」
「ア?」
「今の音……多分、何もありませんよ」
「何ィ?」
「そういう怪現象の話を聞いたことがあるんです。天狗の名を冠する怪異の一つです」
「へェ……」
しかし、種枚を止めようとしてそちらに注意を向けたのがいけなかった。
2人の背後から、先ほどより大きな破壊音が聞こえてくる。そちらに2人が目をやると、高さ10mは優に超える大木が、2人に向けて倒れてくるところだった。
「あっははははは! ボクの目の前でのんびりお喋りなんかしてるから! キミらみたいな注意散漫で生意気な子たちには、こうして『実害』をくれてやっているのさ!」
大木が倒れ土煙が巻き起こる中、天狗の楽しそうな笑い声が周囲に響く。
「さてさて、流石に死んだかな? 1人くらいは生きているかな?」
言いながら天狗が姿を現し、少しずつ薄れていく土煙に、スキップでもするかのように軽やかに近付いていく。
大木の倒れ込んだ位置から2mほど離れた位置で立ち止まり、その場で覗き込む。にやけたようなその表情は、すぐに険しいものに変わった。
「……これが『実害』、ねェ? だいぶ舐められたモンだ」
「いや、普通人間は木が倒れてきたら潰されちゃうものですよ」
種枚と青葉の気軽なやり取りが聞こえてくる。土煙が完全に晴れたその場には、倒れてきた木を種枚が片手で軽々受け止めている姿があった。
「くそ、何だよこの人間! 化け物か⁉」
そう吐き捨て、天狗は姿を消した。
「オイオイ何逃げてンだァ⁉ 私とやろうぜ!」
そう吼え、種枚は天狗が逃げていったと思しき方向に駆けて行った。