「……ん。一応ね。友達…だよな?」
桜尾さんが心配そうな顔をして彩生さんを見た。
「うん。友達やと思ってるよ、俺は」
(!関西弁?!)
彩生さん、関西弁だ。
関西出身なのか?でも桜尾さんは関西ではないって言ってたし。
(桜尾さんは生まれは山形県、育ちは色々らしい。親が転勤族だからだそうだ)
「そ。リュウは関西出身なんだ」
彩生さんのことを'リュウ'と言った。
やっぱりフレンドリーなようだ。
「で?何でここに?」
桜尾さんが彩生さんにまた尋ねた。
今度は少し優しく言った。
「忘れたん?俺の力」
“俺の力”?
彼も桜尾さんと同じように“特殊な能力”を持っているのだろうか。
「…聞きたい?」
すごく楽しそうに桜尾さんが聞いてきた。
何を考えているのだろうか。
「はい。聞きたいです」
私の代わりに夏川くんが答えた。
「じゃ自分で言って、リュウ」
桜尾さんに言われ、彩生さんは素直に頷いた。
「巳汐が心を読めるってことは知ってるんやんね。俺の力は未来を見れるんです」
………?!“未来を見れる”?!
それって!
「予知能力?!」
夏川くんが先に答えた。
ねむいねむれないねれないねる
つまらないつまりたいつまり
よるのブルーライトちかちかするぜ
お先真っ暗より
先があるかもわからない
のにね
明日がくるかわからないけど
きたらまた生きていくよ
どうにかこうにか生きていく
雨上がり
湿った空気
湿った地面
心も雨が上がる
湿った心
潤った心と言うべきか
カラカラではいけない
どしゃ降りでもいけない
ちょうどいいのが
雨上がり
いつまでも見つめていたいと そんな願いも虚しく
貴女は朝が来れば新しい服を着てまた走り出す
そんな日々の繰り返しでも 貴女と居れるこの瞬間がいとおしい
貴女の血を下さい。
吸血鬼が貴女に迫る
私でなくてもよいでしょう。
貴女でなければならないのです。
何故そんなにこだわるのです?
貴女でなければならないからです。
どうして私でなければならないのです?
吸血鬼が貴女にキスをする
貴女を愛しているからです。
君を好きだと認めたくない。
もう、誰も好きにはなりたくない。
なのにさ、なんでかな。
なんで、目で追っちゃうのかな!
こんな自分にイライラするなあ。
いやだないやだないやだな!
誰か助けて!
いや、助けろ!!
扉の前に立った彼とカウンターの上で頬杖をついている桜尾さんを交互に見ていたら二人の表情がいきなり変わった。
彼の方はとても嬉しそうに。
桜尾さんも……?なんだか迷惑そうな顔だ…。
「巳汐!!」
金髪に近い茶髪の彼が嬉しそうに叫んだ。
えっ…?知り合い?しかも下の名前を呼び捨て……。
桜尾さんは頬杖をついたまま、あからさまに嫌そうな顔をして、彼に言った。
「何でここがわかった?」
驚くほどに抑揚のない声だ。
機嫌が悪くなったのだろうと容易に想像できる。
「そ…そんなに怒んなくていいじゃん、巳汐」
扉の前に立つ彼がちょっと焦ってそう言った。
(誰なんだ?友達?)
そう考えていると桜尾さんが説明してくれた。
「彼は僕の高校時代の友人。名前は'彩り生きる'で'彩生'、'木の芽'で'木芽'。今はあんなだけど昔はよくいじめられてたんだ。それを僕が助けてしまってつるまれるようになった、と」
“彩生 木芽” さん。
パッと見金髪の髪に、カラフルなシャツに白のパーカー。下はジーンズズボン。
単調な服装の桜尾さんに比べると派手だ。
(ホントに友達?)
てかさ、マジでワケわかんないんだけど。ハルヒコのやつは暴れるだけ暴れて神崎に連れ去られちゃうし、神崎はウチらガン無視でどっか行っちゃうし、誰が後片付けとかすると思ってんのかな。5組の連中はとっくにノビてて使いもんにならないし、あたしもソッコーバックレたいんだけどヤマセンに見つかっちゃって逃げられなくなったじゃんよ。ヤマセンこういうときのタイミングマジでサイアク。本気でヤバい時には居ないくせにさ。てわけで渋々教室かたしてる訳だけど、マジでだる。意味わかんない。え、神崎は加藤のなんなわけ?あいつら付き合ってんの?それシュー教的にマズくない?神崎って確かシューアイス正教の司祭の娘とかで、ウチの学校の行事とか仕切ってるし、アイシストの加藤と付き合っちゃったらサイアク破門じゃん。まわりには隠して付き合ってましたーとか?でも今回の件で身バレしちゃったねざんねーん。明日にはあいつの親父が学校に乗り込んでくるかもねー。って、あんなビッ○どうでもよくて。あたしどうすんのよって話。いや別に加藤のことホンキとかそういうんじゃないんだけど、これチャンスじゃない?神崎がハルヒコしめてる間に加藤を保健室連れてって二人っきりみたいな?やば、片付けしてる場合じゃないって。って思って髪整えて加藤のとこ駆け寄ったら秋口が教室の後ろのドア開けて入ってきた。ガラッて、勢い良く。「掃除中。汚れるから入ってくんなよ豚。」秋口の髪の先が乱れてる。あたしにはわかる。また後藤田とあってたんだ。ったくどいつもこいつも汚ならしいなあ!
月光写真は光と影の色。
タイプなんて知らない恋愛論。
きみの形をぼくは知らないのに、
ぜんぶあの子の所為にして、
田んぼの蛙に寝かしつけてもらって、
吹いたら消えそうな灯り、枕に被せたバスタオル
ぜんぶ返したら何故か淋しいゴミ箱の色。
「白帆さん、夏川くん。二人はそういう'特殊な能力'とかあったりする?」
桜尾さんが唐突に聞いてきた。
'特殊な能力'…
彼は“人の心が読める”という特殊な能力を持っている。
「いや…僕はないと思います……よ?」
夏川くんが少し悩みながら言った。
私も
「……ないと思います、たぶん」
と答えた。
でも、そんなこと聞かれても…
「……今はないだけかもしれない…よね」
桜尾さんが苦笑いしながら言った。
やっぱりわかってて聞いたんだ。
(……?どうして聞いたんだろう?)
「じゃあ、あったらいいなって思うことは?」
なんだか楽しそう、桜尾さん。
元々人と話すのは好きなのかな?
「あったらいいなとは思います。'予知能力'とか。未来が予知できたらもっとこう………」
夏川くんがやけに真面目に答えた。
彼と知り合ってからもう二ヶ月ほどか。
初めて会ったときからちょっと変わった人だなとは思っていたのだが、時々変わったところで真面目になる。
(それも一種の魅力なのかも)
最近はそう思うようになった。
「'予知能力'ねぇ……」
桜尾さんがなんだか考え込んでいる。
短い沈黙。
「欲しいな。'予知能力'」
そう桜尾さんが言った瞬間、いつもは叫び声のような音をたててゆっくりと開く店の扉が、勢いよく開いた。
そこに立っていたのは髪を明るい色に染めた一人の青年だった。
(桜尾さんと同い年ぐらい?)
私がそう思って彼と桜尾さんを交互に見ていたら
二人の表情がいきなり変わった。
そして、扉の前に仁王立ちしていた彼が嬉しそうにこう叫んだ。
「巳汐!!」
しかしよく考えてみる
これはただ
後ろの席の前島くんが
隣でようをたしているだけで
とても普通なことである
これはおかしい
いつもの前島くんなら
きっと僕がトイレしている
ところを覗いているはず
と、上を見る
後ろの席の前島くんが
覗いていた
あのひとの火も海の中
ゆらゆらと
冷たい、ってどこを指すの
濡れた瞼に灯る青白い電光
傾いた一人と一人
落ちるグラス
割れない魔法をかけて
あなたの手は青白い炎に呑まれて
触れたところから
焼けていく
自らの心の叫びが
罫線の上に散らばってるのを
そっと集めて読み返す
振り返ることで学ぶこと、気づくこと
たくさんあるから後ろを向くのも嫌いじゃない
自ら書きなぐった叫び声が
今も心に反響して
読むたびに涙が溢れるのは
それらの言葉が今の自分にもつながるものだから
振り返ることは嫌いじゃないが
そこに囚われるのは好きじゃない
「はい、またまた始まりました。番外編!」
「あっ…また……」
「……えっ?」
Q.1 夏川くんに質問です。
私のイメージの花はありますか?
A. 唯さんの……マーガレットとかかな?
「ほう。花言葉は?」
「……えっと…覚えてない(汗」
「あっ、そうなの(笑」
「ごめんなさい」
「次!」
Q.2 桜尾さんに質問します。
「えっ?また僕?」
人の心が読めるって言ってましたよね?
「う……うん」
いつから読めるんですか?
A. いつから……うーん…物心ついたときから…か な。
「へぇー」
「生まれたときからなんだろうけど、言葉がわかるようになるまでわかんないかなー、と思って」
「なるほどー」
「今度は僕から」
「…えっ?」
Q.3 白帆さんに僕、夏川から質問です。
「は…はい」
茜さんとは仲が悪いんですか?
A. いや、仲は悪くありませんよ。ちょっと気が 合わないんです。
「自分より優れた兄弟姉妹って比べられたりするから嫌だよね」
「本当にそうなんです」
「桜尾さんも兄弟姉妹が?」
「いるよ。下に3人」
「夏川くんは?」
「僕は一人っ子です」
「ほう。私は茜だけかな」
「へぇ。で、またこれも暇潰し?」
「また?」
「はい。また暇潰しです」
「やっぱり(苦笑」
「ありがとう」
いつも以上に素直に笑えた気がする。
その瞬間、
ババババンッッッ!
とてつもなく大きな破裂音がした。
「えっ…?」
ピカピカッとくすんだ窓の外が光った。
なんだろう……?
「花火…だね、今日」
桜尾さんが窓の外を見ながら言った。
そうだった。
今日はこの夏最後の花火大会。
「見に行くかい?」
私と夏川くんは顔を見合わせて、そして頷きあった。
桜尾さんがずっと座っていたカウンターから立ち上がって
「よし。もう店も閉めるしね。行こうか」
重い扉を開けると外では花火が大量に打ち上がっていた。
この辺りは田舎なので建物の背が低いため、どこからでもよく見える。
「人と一緒に花火見るって、初めてです」
夏川くんがそう言って私に笑い掛けてきた。
桜尾さんも
「僕も初めてだな。一人ではよく見てたけど」
と苦笑いした。
綺麗だ。
そういえば私もこんな風に誰かと一緒に話しながら見たことはなかった。
いつも見ているより一段と綺麗に見える。
「もう夏が終わるね」
桜尾さんが呟くように言った。
「そうですね」
私と夏川くんが同時に答えた。
今年も夏が終わる。いつもと違う夏だった。
濃い夏だった。
「たーまやーーー!!」
桜尾さんが叫んだ。
とても楽しそうに。
「たーまやーーーー!」
ー暑さが和らぎ出した夏の終わりの物語ー