王は一旦切り、そして繋げる。
「パプリ、お前のすることは2つだ。1つ、人間界の視察。2つ、西洋妖怪との情報共有。」
ここまで不親切な説明が他にあるだろうか。
百歩譲って、イニシエーションは納得できよう。人間界があることも、認めざるを得ない。それでは、どうしてもっと詳しい説明をしてくれないのだろう。
何をもってイニシエーション終了なのか、どれくらいの間人間界にいなければならないのか、何の情報を共有するのか、情報とは何か、視察では何に焦点を当てるのか。
頭が痛い。
個人的なことを言うのなら、付き人とは誰か、あちらでの生活はどのようになるのか、こちらでの公務はどうするのかなど、挙げればキリがない。
そんなパプリエールの様子を見て、父は言う。
「人間界には付き人を1人行かせてある。ウィザードだ。その者に聞けばよい。詳しいこと、そして人間界での生活について、必要なことを教えてくれるはずだ。」
――何かを隠している。
咄嗟にそう思った。
自分では襤褸が出るから、優秀なその付き人とやらに説明を任せるのだろう。
パプリエールの中で、イニシエーションという存在を、聞いたことも見たこともないということが最大のひっかかりであった。人間界には元々興味があった。存在の有無に関わらず。そして、様々な文献もあさった。
そういえば、と思う。
「10年前の事と、何か関係があるのですか。」
明らかに顔色が変わった。
「イニシエーションだよ。
お前は今年16歳、成人する。その、通過儀礼だ。」
パプリエールは固まる。
「……聞いたことがありません。」
「話したことがなかったからね。」
顔をしかめるパプリエールを気にせず、父は続けた。
「内容としては、人間界の視察だ。そして、お前と同じように送り込まれている西洋妖怪がいるはずだから、その者たちと情報を共有すること。」
頭がついていかない。人間界とは、いつか本で見たあの人間界だろうか。魔力も何も持たずして、自分たちと同じような容貌である人間という存在がいる、あの人間界。
「……聞いたことがありません。」
「話したことがなかったからね。」
デジャヴである。
父からだけでなく、母からだって聞いたことがない。まして、何らかの文献で見たことすらない。
「人間界なんて、本当にあるのですか。」
「ああ、存在するよ。」
「魔力がなくて、どうやって身を守るのですか。」
「それを視てくるのだよ、パプリ。」
声は優しいが、パプリエールは口をつぐむしかなかった。そういった圧力がある。
「あちらでは、基本魔力は使えない。そして、使う必要もない。そういった町で、お前は過ごすからだ。付き人を遣るから、生活について心配することはない。」
「花火見に行こう」
その言葉を受け取った日から、俺は眠れぬ夜を過ごすことになった。
90%の期待と10%の不安。
貴女と花火が見られる。なんてロマンチックだろうか。期待に胸を膨らませる。
でも、俺たちも、花火みたいに一過性のものなのかもしれない。不安が頭をよぎる。
「来年も見に来よう」貴女はそう言ってくれるだろうか。
そしてまた、笑い合えるだろうか。
花火みたいに一過性じゃなく、花火大会みたいに、ずっと、続くものであって欲しい。
"朝顔が朝にしか咲かない理由、知ってる?"
"それはね、夏はお昼になるにつれて気温が高くなる、つまり、気温が上がるにつれて、朝顔の花びらに含まれる水蒸気が蒸発しちゃうからなんだって!だからお昼までにはしぼんじゃうんだよ!知らなかったでしょ!"
って得意げに、うれしそうに話す君。
"うん、初めて知った"
朝にしか咲かない理由なんてほんとは知ってたけど、僕はそれを知らないふりしてそう返した。
知ってたよ、って返そうか迷ったけど
その瞬間にしか見れない花を、
朝顔みたいな君の笑顔を
見てみたかったんだ、隣で。
雨降る日の朝顔の前で
君を、ひとりじめ。
あなたの笑顔がいつもいつも支えだった
いつもは無表情なあなたが見せたその笑顔は
何物よりも美しい華だった
いつまでもその花が枯れぬよう
いつまでも咲き続けるように
この空の下願い続ける
誰よりも美しく咲き誇るあなたへ送る
花は
また夜空に咲く
知らない輝く花を見つけたら
それは物語のはじまり
入っちゃいけない森に踏み入れて
ボロボロのホウキを手にしたら
あの素敵な世界へ飛んでいくの
魔法はいつか解けるけれど
君といた思い出は忘れない
約束したもの
一緒に帰ろう。って
国王からの呼び出しということでゆっくりはしていられないのだが、いまいち体が向かおうとしない。重い足で、薄暗く重厚なアーチを通る。多少陰気くさいけれど、パプリエールは嫌いではなかった。しかし、そんな気持ちとは裏腹に、歩くスピードが落ちる。子供っぽいことを自覚し 溜め息をつくと、諦めたように姿勢を正して、大きな扉の前に立った。
3回、ノックする。
「国王様、私です。」
するとすぐに、入りなさいという声が聞こえる。パプリエールは小さく頷き、部屋に入った。
王の座る広いテーブルの前に立つと、王はやっとこちらへ顔を向け、徐に口を開く。
「パプリ。まずは国王様と言うこと、やめてもらえないかね。」
困ったような顔。
「私は既に公に顔を出している身ですので、そういったことはできません。」
王は涙目になる。
「せめて家族でいるときだけは、前みたいにお父様と……いっそパパでもいいから――!!」
国王とはいえ、一人娘を持つ父に変わりはない。パプリエールは、そんな父に苦笑しつつ、
「はい、お父様。
それで、どうして私は呼ばれたのでしょう。」
父は微笑み、大きく頷いて、やっと説明を始めた。
嫌われ者の糸が雨玉をくっつける
太陽が少しだけ顔を出す
キラキラとしたドレスのよう
雲から蜘蛛へプレゼント
素敵な一日が始まります
太陽が輝き、窓から光がさす。少し開いたその窓からは柔らかい風が入り、カーテンを揺らした。
「お嬢様、旦那様がお呼びです。」
コンコンという軽いノックとともに、扉の向こう側から単調な声が聞こえる。
気分が乗らず、無視を決め込んだ。
「お嬢様、いらっしゃるのでしょう?お返事なさってください。」
暫しの沈黙。行ったかな、そう思っていると、
「パプリエール様!」
さすがに応えざるを得なかった。
「…います。今行くとお伝えして。」
「かしこまりました。」
小さい溜め息が聞こえる。溜め息をつきたいのは私なのに。そう呟いて、ベッドから起き上がる。ドレスを着たままで,なんて、またメイドに叱られちゃうわ。そんなことを考えながら、父の呼び出しを思うのだった。
取り戻せるかな
あの日言えなかった言葉 失くしたお揃い 再提出のままの課題 一直線の飛行機雲 君と私の青色
ねえ、まだ