「じゃあ、行ってきます。」
「場所は大丈夫ですか?」
「頭に入っています。迷ったら戻ってくるね。」
おどけたように言う。こんな風に言うこともできるのだ。チャールズはちょっと苦笑する。
「では、いってらっしゃい。
……覚えていますか、やるべきこと。」
瑛瑠は姿勢を正す。
「1つ、魔力持ちを見つけること。2つ、人間に馴染むこと。」
「よろしい。……頑張ってください。」
「ん、頑張ります。」
二人は微笑み合う。
「行ってくるね。」
玄関に手をかける。
「あ、お嬢さま。」
「ん?」
振り向いた瑛瑠。
「制服、お似合いです。」
瑛瑠は一瞬、照れた様子を見せ、
「ありがと。」
柔らかい蜂蜜色の髪を揺らした。
本を閉じ、眼鏡をはずす。
「良い言葉?」
「はい。それは"いただきます"です。
この国では、食べ物や作ってくれた人への感謝の気持ちを表すそうですよ。
食べ終わったら"ごちそうさまでした"。
ね?良い言葉でしょう?」
瑛瑠も微笑み、頷いた。
「いただきます。」
チャールズはソファから腰をあげ、瑛瑠の前の椅子に座る。
瑛瑠は食べつつ、チャールズに聞く。
「昨日もだったけれど、あなたは食べないの?」
「はい、とりあえずは。」
そう言ってコーヒーを口にする。
瑛瑠はまた聞く。
「さっきの言葉、教えてもらったの?」
「ええ、そうですよ。」
「誰から?」
「友人から。」
「この国の?」
「もちろん。」
へーともほーとも言えない音を出す。そうして、ふと手元の料理をみる。
「……美味しい。上手だよね、チャールズ。」
「ありがとうございます。」
微笑むチャールズに、瑛瑠は言う。
「私にも教えてほしい。」
チャールズは不思議そうにする。
「ご飯は私が作りますよ?」
瑛瑠は首をふった。
「興味があるの。何か、作ってみたい。」
「そういうことなら。」
チャールズはおかしそうに笑った。
よくわからないけれど、笑われたということに関して頬を膨らませる瑛瑠。
「どうして笑うの。」
「可愛らしいと思っただけですよ。」
「からかわないで!」
横を向いてしまった瑛瑠に、今度は困ったように微笑うのだった。
詩と云うものはたぶん、辿り着くべき目的ではないのだと思うけど、ただの結果とも思えなくて…これはなにかの過程なのだろうか。
何処へ行くべきなのか、知らないからこそ一歩ずつ、進んで行けるのかも。
(考え込んだら負けな部分もあるけれど、詩ってなんだろうとか考えるのもときどき好き。)
最近何にも思い浮かばない。
適当に文字を並べても続かない。
うふふのふこれは末期。また来週。
好きって言って?
好きだよ。
なんて。
甘ったるいパンケーキのような会話
少し汚れたくらいの方が好きなのに
君を襲いたい。
貴方を喰らいたい。
なんて。
好きってしんどい
想いなんか伝えられないから
好きって楽しい
君と話せるから
君の "好き" とあたしの "好き" って
ちがうのかなあ...?
何度折れて消し去ってしまっても
どれほど残酷な視線を浴びようと
何度自分を壊してしまいたいくらい
自らに絶望しても
必ず立ち上がり歌うから
命の限り歌い続ける
歌い続けていたい
この声が届くまで
いつかあの人を振り向かせるまで
止まれないから
I look back and do not say how
I look back and do not say how
自分でやらなきゃ意味が無いから
いつの日かこの声がこの声が
届く日まで
歌い続ける
It proves my existence
泳ぎだした午前4時
部屋の壁に描かれた緩やかな影
魚の夢を見た。
深い青の中
ぼんやり浮かんだ影
あなたのこと思った。
回る、揺らぐ、溺れたように
軋む、落ちる、息もできずに
まるで海の底のようだ
ちかちか目の前を通り過ぎる星たちに
気を取られていたら
握っていたはずの手が
霧のように消えていた
ぱち、と目が覚める。一瞬どこか考えた。
――人間界。
昨日、位置を確認した壁掛け時計。時間、6時。落ちそうな瞼で、緩い思考を巡らす。寝ては、駄目。
ベッドから体を起こし、メイドを呼び出そうとなるところをこらえた。ここは人間界。
顔を洗いに行く前に、リビングに寄る。そっと顔を覗かせると、チャールズが既にいた。黒いフレームの眼鏡をかけ、本を読んでいる。
瑛瑠に気付き、顔をあげた。
「おはようございます、お嬢さま。さすがですね。」
「……おはよう。はやいのね、チャールズ。」
おはようなんて、魔界にいて使ったことがあっただろうか。
静かに扉を閉める。
顔を洗って部屋に戻り、制服を着る。等身大の鏡の前で一回転をする。
「うう、やっぱり短い……。」
呟いて、先程寄ったリビングに戻る。すると、チャールズが先程と同じ体勢で本を読んでいた。
さっきは気づかなかったが、テーブルに朝食が置かれている。
柔らかいにおいだ。そして、瑛瑠は思う。
(これも、当たり前ではないんだよね。)
席について、チャールズに言う。
「チャールズ、ありがとう。」
チャールズは顔をあげた。少し目を丸くしている。
そして、瑛瑠に微笑んだ。
「どういたしまして。
……そんなお嬢さまに、良い言葉を教えてあげましょう。」
私は何の権力も持っていない普通の人間だ
権力を持っているからって何でもできる訳でもない
私にできることはなんだろう
言葉で人を笑わせたり、君の足元を照らせるぐらいの光になれたらな
相手のことなんて考えないでも浮かんでくる
頭のどこかにいつもいる。それが恋の始まり
この広い世界
平等になんてならないのです
みんな違う顔に違う性格や違う力
それを個性というのです