私から、LOST MEMORIESについてのお知らせです。
プロローグと前夜祭編をまとめにしました。ぜひ、そこから前までの話をお読みください。
ありがたいことに、私の書き込みから遡ってくださった方がいらっしゃいました。無事、まとめが更新されてよかったです。SOLの先生方に感謝です。
まだまだ続くので、ぜひ一緒に楽しんでくださいね。
悲しい。
苦しい。
切ない。
虚しい。
明日には忘れるのに。
夜風に溶かした小さなため息。
今夜だけで
今夜だから
朝陽と共に流れるから
今夜だけ、きっと。
人の命を奪ってまで、生きたいとは思わない。
その瞬間、俺の人生は俺の人生じゃなくなるから。
死にたいとは思わない。
俺の人生を最後まで生き抜いてやりたいから。
結局、どうしたいのか、わからない
ふと先生を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
まるで、嫌な予感を感じ取ったことを露骨に表したかのような顔。
「まったくお前たちは……」
大人とこんな付き合い方も出来るのかと、半ば感心する瑛瑠。自分は とてもじゃないけれど、こうした関わり方は真似できそうにはない。
人と同じようにしようとは思わない。けれど、そんな関係もまた、瑛瑠の目に魅力的に映ったのも確かで。
学校の魔力、だろうか。
一言。鏑木だ、改めてよろしく。
そう言った先生が、自己紹介という名の質問攻撃にあったことは言うまでもない。
生徒たちが満足し、疲れたような先生がさようならと号令をかける。明日からは委員長が言うからなと、今日は代打で先生。
初めてのことばかりの驚きと魅力に、瑛瑠は精神的に疲れていた。明日からの生活が、心身ともにもつか疑問である。
帰ろうと鞄に手をかけると、祝、と声がする。一瞬、自分だと気付くのに遅れた。
ピエロが僕に言う
「君の涙を流せるところが羨ましい
俺はいつもどんなときもおどけてないといけないからさ悲しみなんて忘れたよ」
空中ブランコ担当が僕に言う
「君の怖がる心が羨ましい
私はなんかそういうのは慣れちゃったからさ」
ライオンと象が僕に言う
「ガオガオ
パオーン」
うんうん
ごめんちょっと何言ってるかわからない
調教師が僕に言う
「君の羨ましいところ?そんなのあるわけ無いだろう
だって君は"普通"なんだから。動物と心を通わせることもできないだろう?それにジャグリングもできない。何なら高いとこだって苦手じゃないか
ごめんごめん冗談だよ。本当は君の自由が羨ましい。君の今からなんにだってなれるその自由の可能性が羨ましいよ」
最後にオーナーが僕に言う
「君は普通なんかじゃないさ。変わり者の私らからすれば君は特別でしょうがない。君という存在こそこの世で一番強い個性だよ」
長い長い集会とやらが終わる。
教室に戻るとまもなく先生がやって来て、朝と同内容を繰り返す。
「今日はこれで終わりだ。明日、自己紹介や委員等を決める。
今後についても、明日時間をとって話す。
授業は明日から。
以上。質問のある奴はいるか?」
相変わらず簡潔。どこよりもHR.が早いのでは、と思ってしまう。
はーい、と女の子が手を挙げる。
「先生も自己紹介は明日なんですかー?」
「全員が先生のことしってるわけじゃないと思いまーす。」
みんなくすくすと笑っている。
瑛瑠は、ざっと確認する。
今笑っている子達はほぼ省いていい。逆に、今不思議そうな顔をしていた人達は、高等部からの人に違いない。そして、その中に同種がいると思っていいだろう。
思わぬタイミングだった。
『真似をしてください』だなんて、大丈夫かと不安な瑛瑠であったが、驚くほどみな同じ行動をするのだった。同じ場所へ集まり、イスを並べ 座る。その並べ方もまた、縦横揃い、見ものであった。
この国の式というものを、なんとなく理解した。どこも、ほとんど構造は変わらない。そして、集会で1番人気のないメインイベントも同様に。
相変わらずどこにも"偉い人"がいることに変わりはなく、彼らはお話をする。聴衆の興味の有無は関係ない。それが、有るべき姿であり、有るべき形なのだ。
学校のトップの話を健気にも聞いていた瑛瑠は、父が国民の前でする演説とは、覇気がまるで違うなと、そんなことを考えていた。
When I was a child,
I prayed for sunny by making paper dolls
which were white and round.
【日本語訳】
幼き僕
晴れをいのって
つくってた
白くてまるい
てるてる坊主
壊す世界、何もない場所
心無いもの、獣のように貪る
心持つもの、神の幻想を見る
目覚めたもの、全てを悟り、受け入れる
こんな世界は何ももたらさない
引き抜くが最後、終わりの悲鳴
解放による救済
ぼくがのぞむすべて
夏色を含んだ風がビルの間をすり抜ければ
真っ赤な夕焼けが
アスファルトさえも染める午後7時
夏なんて貴方に出会う一要因にもならなかった
揺れるブラウスの袖を引っ張ってくれませんか
みっともなくても正直に
月並みな言葉を並べて
繋ぎ止めてくれませんか
触れればそこに居るのに
心はさわれないから不安だよ
幾ら腕の中で幸せを願っても
解ければ忘れそうで
淡く、強く、君を想って今日も月が揺れるよ
客観を極めると
自己存在は潰れて消え去り
世界の中で
普遍的な理性と
多種多様な欲求が
激しくぶつかり
荒々しくうねる姿が
見えてくる
自らの理性が普遍的か
それだけ気になる
職員会議を終えた先生は、軽く説明をして、生徒を廊下に並ぶよう促す。先程と変わらず、必要最低限のことしか話さない。番号順に並べということだったが、この団体行動に 瑛瑠は驚かずにいられなかった。
前も後ろも、廊下中に人、人、人。
チャールズが言うには『まわりの人の真似をしてください。式中はただ座っていればいいです。』
ふと、あの彼が目に留まる。
まわりの様子をうかがうでもない。
自分と同じような境遇であるなら、慣れていないことだらけではないのだろうか。
つかめない人である。
「瑛瑠さん、隣同士みたいだね。」
不意に声がかかる。望だ。長谷川と祝の間に人はいなかったので、どうやらそういうことらしい。列は2つということだ。
「ぼーっとしてたみたいだけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
言い辛そうに口を開く望。
「あの……別に、敬語じゃなくていいよ?」
呆気にとられる。
どうして急にそんなことを。たしかに、そうかもしれないが。
「癖のようなものですから、気にしないでください。」
それでも納得には至ってないように見える。
「……長谷川さん?」
「う、ううん、癖ならしょうがないよね!」
そう言って、前を向いてしまった。
基本敬語だ。それは、そうマナーとして教えられたからに過ぎない。チャールズやお世話係、メイドに使わないのも然り。立場云々ではなく、その場面には相応の対応があるということだ。
だからといって相手に強要する気はないし、自分と違うからといってどう思うわけでもない。口調も、個性のひとつだ。大切にされるべきものである。
と、瑛瑠は考えるので、唐突な望の発言には、どうしても疑問を抱いてしまうのであった。
教室全体を見回して、ある男子生徒に目が留まる。
「瑛瑠さん?」
本を読んでいるようだ。
「あの、長谷川さん。彼のこと、知ってます?」
今 本を読んでいる、と付け足す。
望は首をかしげる。
「いや、知らないよ。」
ですよね。
思って応えずにいる瑛瑠を、望は訝しげに見る。
「どうしたの?」
まさか、本人に言うわけにもいくまい。
「いえ、ホームズなんて 洒落ているなと思っただけです。」
別に、何でもないと答えればよかったのだが、嫌味を言いたくなってしまった。自己満足でしかない答えに、望はさらに不思議に思うのだった。
まもなくして大人の人が入ってくる。50代くらいだろうか。男の人である。どうやら担任の先生。寝癖だろうか、朝起きてそのままのような状態の頭の彼は細身で、いかにも低血圧といった感じがする。瑛瑠の思う統率力のある先生のイメージとは、かけ離れているといっても過言ではなかった。少なからず、このような人を王宮の中では見たことがなかった。
教卓の前に立つ先生。
「おはよう。今年一年このクラスの担任をやる鏑木(かぶらぎ)だ。
今日の日程は事前に紙で見ていると思うが、始業式のみ。昼には完全下校。」
なかなかの単刀直入タイプであった。たしかに、事前に予定は知らされていた。もちろん、チャールズ経由ではあるが。
「今日は時間がないから、クラス内での自己紹介や委員等の決め事は明日。
これから職員会議だから、静かに教室にいること。勉強でもしとけ。」
気だるそうに言う先生を、瑛瑠はまじまじと見つめる。
先生はそのまま教室をあとにした。
あんな先生、あんな大人は初めて見た。
クラスで話し声が聞こえる。
「ねえねえ、鏑木先生だったね!超嬉しい!」
「ほんとほんと!嫌な先生だったら1年間おしまいだもん。」
生徒間の人気は高いようだ。
今話している子達は中等部からの付き合いなのだろうと思いつつ、やはり彼の人柄は疑問だった。
「瑛瑠さんは高等部からの人?」
振り返るのは望だ。
「そうですよ。長谷川さんは?」
「ぼくもだよ。鏑木先生ってどんな人なんだろうね。」
話についていけない組発見。静かにとは言われているが、あくまで静かにだから、許容範囲だろう。それぞれやっていることはまちまちだ。