天の川の水でも降ってきてるのかな
この雨が俺の憂いも一緒に流してくれたらな…
乙姫と彦星みたく、また逢える日は来るかな
それは明日?それとも…
貴方がいるときはいつも雨で
私はいつも怒ってた。
でもある時貴方がいなくて雨が降らなくて
いくら降ってもいいから側に居てって思った。
貴方は今傍にいないのに何故こんなにも雨が降るのだろうか
また二人で傘をさして歩きたい
瑛瑠が読んだことのある人間界にまつわる童話には、いただきますの挨拶や、屋内で靴を脱ぐ行為は聞いたことがない。もしあの童話が実話だとするのなら、なぜ食事シーンや帰宅シーンでその描写がない?
そこまで思って立ち止まる。考えすぎかしら。
チャールズが、そういう文化だと言うから納得していたけれど、やはりおかしい。
ひとつの事実に思い至る。
「私が読んだ童話には、その文化がないんだ……」
チャールズの言葉を思い出す。私たちは、ここでは西洋妖怪と呼ばれている。ということは、ここはいわゆる西洋ではない。しかし、西洋もまた存在する。それでは、西洋の人間界へ送られるのが普通ではないか。
地域文化の文字が目に留まる。
私はどうやってここまできたのか。
父の部屋の隠し扉から地下へ行き、そこにあった木の枠としか言い様のない扉をくぐって。扉というのは一般に1ヶ所としか繋がっていない。人間界と魔界を繋ぐあの扉が、あの地下とこの地しか繋げないのだとしたら。
人間界なんていう大きなくくりではなく、この地域だけに関する何らかの情報が求められているのではないか。
一年前が昨日のことみたいに思い出される
君は 一年後 そう言って去ってった
明日。
そう明日会える。
とびきりのおしゃれと笑顔で
「今日もかわいいね」
放課後、確認しておいた図書室へ行く。
今日は残りの時間はもっぱら説明。明日からの授業についても触れられた。頭も特に使っておらず、疲れはまだない。
だから、自分の采配で少しずつ探っていこうと考えた。一番手っ取り早いのは、情報が集まるところに行くこと。だから、図書室を選んだ。
情報というものは蓄積されていくもので、特に紙媒体は強い。正確さや量について右に出るものはないと思っている。
今一度、目的を思い出す。自分は、"何らかの判断を下す目的で実状を知るために実際にこの地へ来た"。
そしてそれはサミットが関係している。
自分の思考のなかにいきなり現れた大きな存在に身震いをする。とりあえず置いておこう。
図書室をざっと見渡す。
瑛瑠はふと思った。ここは、違うことが多すぎる。
二時限目だけでは決まりきらず、10分休憩の後再開ということになった。
今はその休憩時間。
黒板の前にいた望が戻ってきた。
「おめでとうございます。有言実行、すごいですね。」
微笑むと、望は嬉しそうな表情を見せた。
「ありがとう、頑張るよ。」
そうして会話を続けていたとき、明るい声がかかる。
「いんちょー、これ見てくれる?」
歌名だ。
呼ばれた望は、歌名の持ってきた紙を見る。クラスの何かだろう。しばらく二人を眺めていると、どうやら解決したようで、歌名はその紙を持ち直す。
「OK!ありがと。」
そういった後、瑛瑠を向く。
「瑛瑠ちゃん、お話の邪魔してごめんね。」
ウインクをして去っていった。何らかの含みがあるようにも思えたが、この勘は当たるだろうか。
そして、またもや名前を覚えられていた。自己紹介は確かにしたけれど。
瑛瑠が歌名の名前を覚えていたのは、早い名字で、何より副委員長だったから。
「そういえば、伊藤さんも高入りでしたよね?」
そこでチャイムが鳴る。
望は立ち上がって答えた。
「うん、そうだったね。」
シュー、ゴトン ゴトン ゴトン
あなたは帰り道、満員電車に揺られている。窓を見ているが、どうがんばっても見えるのは夜景ではなく黒く映るくたびれた車内である。つり革を掴む右手、腕時計は午後11時52分をさす。
次があなたの降りる駅。あなたの最寄り駅は降りる人が少ないため、あなたはいつも降ります、降りますと人波を掻きわけなければならない。それが嫌で、せっかく家に着くというのに、駅が近づくと憂鬱さが増してしまう。
いよいよ駅名がアナウンスされたそのとき、ふと隣の若者と夜景越しに目があう。その顔が少し笑ったような気がした、と、そのとたん。
トタン トタン、シュー 電車の止まる音。
彼は降ります、降りますと出口に向かっていく。自然と後をついていく形になるのだが、気がつくとあなたの右手は彼の左手とつながれている。
シュー、ゴトン トン トン トン
電車は若者とあなたを置いて走っていく。
お礼を言おうとしたあなたに、若者はあなたが初めて歯が抜けたころのあだ名で呼びかける。
そして、お誕生日おめでとう、とにこり。にこりとした頬がカマボコ板のようだと思ったとき、あなたは幼いころ一緒に暮らしていたカンガルーのことを思い出す。書き置きを残して一人旅にでたあのときのカンガルー。久しぶりの再会に涙をながすあなたに、彼はポケットからちょうどいいプレゼントを渡す。
あなたは贈り物を抱きながら、ポケットの中で誕生日を迎える。
繋いだ手は右左。
ダーリン離さないでよね。
せーので押したボタン。
答えはいつもサイダー。
イヤフォンは右左。
ダーリン離れないでよね。
同じ音楽、同じリズム、同じメロディ。
沈んでく感覚。君の手を掴む。
ほら右の手から左の手へ。
コードが変わったら。
さぁ、You and Meでshow time
心踊らせたい。だって二人のstage
逆説の逆説って結局は本当?
左右対称じゃないから、
バランスとっていこうじゃん。
ほらこっち向いて。
塞ぎあった耳で
聴いてた鼓動を
一つに合わせてしまいたくなる。
粗大な心で繋がる。
次第に昏れる道に、
ダーリン、影が伸びてきて
分かれ道を超えていくの
怯える真実。君の手から伝って、
ほら右の脳から左の脳へ、
フレーズを渡ったら。
さぁ、You and Meでshow time
そこらじゅうに振り撒いて
サクセスも何も最初からそこにある。
左右対称にならなくて、かなりいい感じじゃん。
じゃあねまた明日。
左右のどちらかが閉じてしまう時。
繋いでいられたら、それこそ幸せかも。
だからダーリン、離さないでよね。
きっと今まで通り、ただの右と左でしょ?
さぁ、You and Meでshow time
心踊らせたい。だって二人のstage
逆説の逆説って結局は本当?
左右対称じゃないから、
バランスとっていこうじゃん。
ほらこっち向いて。
「今日は委員決めがあるね。何かやりたいのはある?」
「実は私、よくわからなくて……」
チャールズに説明を仰いだとき、メイドのやるようなことですよと言われた。そのときはそうかと納得してしまったが、雑すぎる説明だと今更ながら気づく。
「長谷川さんはやりたい役職とかあるんですか?」
望は少し照れるように言う。
「実は、学級委員長がやりたいんだ。」
名前からして、クラスのリーダーなのだろうと思う。メイドはそんなことしない。チャールズはそういうとこあてにできないと、瑛瑠は改めて自分に言い聞かせた。
「立派なお仕事ですね、応援します。」
始まった一時間目は自己紹介から。ヴァンパイアの彼の名を、やっと知ることができた。霧 英人(きり えいと)というのだそう。その名を数回反芻する。
二時限目は委員決め。とりあえず委員長 副委員長を立候補で,と鏑木先生。
その2つの役職は、瑛瑠が思っていたよりもずっとはやく決まった。それぞれひとりずつ立候補したからだ。
朝の会話通り、委員長は望になった。副委員長は、ショートカットの女の子だ。名前は伊藤 歌名(いとう かな)。自己紹介の様子を思い出すと、元気で愛想のいい印象だった。笑顔が愛らしい。
ふたりに仕切られて、委員会 係は少しずつ穴を埋めていった。
「瑛瑠さん!」
「はい!」
すぐ横で望の声。さすがに驚く。
「大丈夫?」
彼の表情は心配を語っている。
「どうしたの?何か言われた?」
「いえ……。」
自分で確かめればいいのだ。なぜ彼は望のことをそこまで意識しているのか。望が本当に気を付けるべき人なのか。
「何でもないです。行きましょう、長谷川さん。」
変わったことは特にない。相変わらず後ろを振り返ってくるだけだ。
そもそも席が前後でいて近付かないことは不可避である。……近付くなと言われているわけではないが。
やはり訳がわからない。前の席に気を付けろとは。いっそ、席に何かあるのか。
「瑛瑠さん、今日は心ここにあらずって感じだね。」
悟られてはいけないような気がして、咄嗟に微笑む。
「そうですかね。夜更かししたからかも。」
嘘ではない。チャールズのいう昔話も気になるし、どうしてくれよう。
あの春の日
君が綺麗に投げた桜の花びらを
私はちゃんと受け取ったよ
明るいふわふわした光を同時に投げかけて
微笑んでたよね
でもそこに流れてた風は
冷たかったんだね
夏なのにすごく冷えていた
あの秋の日
君はそれを暖かくした、急に。
この冬の日
氷が全てを覆った
暖炉までも凍りついていた
吹雪が花びらなんて全部取り去っていったよ
それでも私は微笑んだんだ
君に
吹雪は止まずに
君は雪を強く投げてきた
そして風のなかに君は姿を消した
君は誰?誰なの?
風の精だったの?冷風の?
吹雪が終わっても
君はもういないのかな 来ないのかな
だけど君は来なくても
春はまた優しく訪れる
望である。だから、とびっきりの笑顔で振りかえる。
「おはようございます。」
背中からは彼の声。
「お気楽で羨ましい限りだ。」
振り返るとそこに彼の姿はもうない。
何が何だかさっぱりわからない。彼は何と言った?
『僕を誰だと思って言っている。さすがにわかっただろ?』
ヴァンパイアだ。それも、かなり優秀な。
わかったの示す主語は、瑛瑠だろう。では、目的語は。彼の正体?
"さすがに君でも僕の正体がわかっただろ?"
わかっている。あれだけの残り香でわからない者はいないだろうの意でのさすがに,だろう。
とすれば、あの怒りは何だ。彼の忠告に従わなかったから。ヴァンパイアのアンテナを馬鹿にしたから。そのつもりはなかったが、結果的にそう捉えられたのだ。
優秀なアンテナより、魔力に気付けなかった自分自身の感覚を信じたことに関して、彼は怒っていたのではないか。
そこで少し思考を止める。
なぜ、忠告したのだろう。仮に望が瑛瑠にとって危険だったとして、自分の感覚を信じようと、彼には助ける義理もない。いや、そういった義理があるから忠告もし、怒り、彼のアンテナを信じろと言いたかったのだろうか。
「……おはようございます。」
「おはよう。」
例のヴァンパイアと対峙。まさか今日も玄関で会うとは。せざるを得ない挨拶を交わす。そのあと先に口を開いたのはヴァンパイア。
「昨日の忠告、聞いていなかったのか?」
唐突だ。
ローファーを棚にいれる。
昨日の忠告とは。前の席に気を付けろというやつだろうか。
「お言葉ですが、それは言いがかりです。」
彼は少し目を丸くする。思っていなかった返答なのだろう。
「好い人でした。」
視線がきつくなる。これは、怒り だろうか。
「僕を誰だと思って言っている。さすがにわかっただろ?」
何のことだろう。いちいち主語がない。さすがに瑛瑠も顔をしかめる。
なぜ怒りの感情を持ったのかがわからない。
「瑛瑠さん、おはよう。……瑛瑠さん?」
生きて 生きて
誰もが皆なくなるのなら
誰にも永遠などないなら
今はただ
生きて
あなたは私の世界
20分後の夕立みたいに、まだふわふわと、漂っていいかな。
隠してた思いも、型崩れになってしまって。
プールは揺らめいて、光を乱反射しては
教室の天井をゆらゆら彩る。
しまってた思いが、虫食いになってしまった。
この情念、その感動、あの一瞬、どの瞬間?
出会えた奇跡をどこで味わえばいいだろう。
僕は今日も言えずにいる。
君にとっての誰にもなれない。
だって言えてないから。
伝えたくて踏ん張って、それでも踏み出せなくて、今君は電車に乗って。
「ばいばい」「バイバイ」「また明日」
終わりが見えない完結編みたいで、なんか変だなぁ。
20分前降った雨に、まだ濡れたまま、公園のベンチ。
隠してた思いを隠したままで。
世界の移ろいも、君がいればいい。ふらふらしたまま手だけ繋いでいたい。
この情念、その感動、あの一瞬、どの瞬間?
別れの代償はどこに隠されていくのだろう。
雨に紛れて流れていく
大切な思いの束を
君が少し拾ってくれたから。
誰かが「言えばいい」と
囁いてくるその声すら
断ち切ってしまう。
どうして言えない?とか
どうでもいいって訳じゃないけど。
チャンスが二度とないなら諦めてしまうかも。なんてふざけたこと抜かしてんじゃねえ。
君がみぎ、僕がひだり。いつも歩く道1人で歩くと、考えてしまって。
急かされてるみたいで。
どうにかしたいの?しないといけないの?僕の頭はどっちなんだろう。
僕は今日も言えずにいる。
生まれ変わるための涙を
あみだじゃどうせ決まんないでしょ。
伝えたくて踏ん張って、それで踏み出せないことなんてない。今君に会いに行くよ。
「ばいばい」「バイバイ」「また明日」
ジ・エンド!良くも悪くも完結編にしなきゃ、タイムリミットは切れてる。