瑛瑠は唸る。
「その報告書に、プロジェクトの内容は記載されていませんでしたか?」
もちろん、されているだろうけれど。
期待を込めた目で見つめると、たいそう居心地悪そうに、透き通った黒を逸らされた。
「何かの監視ということしか……。あの馬鹿みたいに大量の紙を読む気にはなれなかった。」
すごく優秀だという型を文字通り彼に当てはめていた瑛瑠は、呆気にとられる。てっきり、全てを読み込んで暗記しているとでも思っていた瑛瑠は、悪かったなとわかりやすくそっぽを向いてしまった英人を笑わずにはいられなかった。あまりにも人間的である。
「あなたでもそんなことがあるんですね。てっきり全て読み込んできたのかとっ…ふふっ……。」
止まらない笑いはお互い新鮮で。
僕はコンピューターか何かか,なんて言って英人もつられて吹き出した。
美月視点
雨の公園に結月姉は現れた。そしてこう問われた。
「こんな雨の日にどうしたの?」と。
「家がないのでここのいるんです。」
「なら、うちに来る?」そう言われて断った。
「私なんかがいても迷惑かけてしまうだけなので。」「でも、私にも血の繋がりがある家族はいないよ。」
そう言われて驚いた。
「同じ立場だったんですね。」
「うん、そうだよ。でもこんなところで雨にうたれてると、風邪引いちゃうから私の家に行こ。」
そう言われたので「お言葉に甘えて。」と言い結月姉の家にお邪魔した。
【続く】
英人が見た文献、記録とは何だろう。
瑛瑠の疑問を掬った英人は、国の報告書と言い放った。
「それ、重要案件ではないですか……?」
恐る恐る尋ねると、悪びれる風もなく頷く。
「バレたらまずいだろうな。
だが、成人した後で書物庫の奥まで行けるようになってから漁ったわけだし、王の息子だから。」
だから合法。
職権濫用じみている。どこまでも聡いらしい。
「原点に戻るようだが、やはり10年前に何か重要なことが起こったんだろうな。」
英人はため息をつく。
「なぜ今さら遣わせたんだか。それも、内容を隠して。」
ひらひらと砂浜で
赤いワンピースの裾を靡かせる君を
ラムネを飲みながら眺めていた
道ゆく人人、君を観る
まるで君は誰のものでもない
無垢な金魚のよう
太陽が海に身を隠す
残り陽に照らされた、君の一滴の涙
ダイヤモンドよりも儚く美しかった
ラムネ瓶の中の碧いビー球が
空っぽだった僕の感情に
切なく、淡い色の音を添えた
さっきスーパーで買ってきた真っ赤なりんご
さて、どうやって食べようか
そのまま齧りついてもいいし
ミキサーにかけてジュースにしてもいいな
何か変わった食べ方をしたくて
りんご、、で検索してみた
上から18番目の
りんごのおひたし
歌声は
時折
雨音に飲まれて
どうしようもないくらい
ういういしく耳に届く
でんぱの悪さばかりが目立って
すぐわすれてしまうけど
かならず耳には届くんだ
ある高校の生徒が、部活が終わって下校していた時の話。
夕日があと少ししたら沈んでしまいそうな時刻。その生徒はいつも通り帰路を辿っていた。
道のりの半分を歩いた頃、その生徒は奇妙な人物を目にした。
目深にかぶったつばの広い帽子に地味な色のローブ。人口の殆どが黒髪だといわれる超未来カグラにおいて、明らかに異質な白に近い色の長い髪の毛。その生徒は髪を染めたのかと訝しんだが、わずかな残光に照らされたその髪は透明感があり、地が黒だったとは思えなかった。
そこだけ空気が変わったような雰囲気に、その生徒はわずかに惹かれ、そのあとをこっそりとつけていったのだそう。
「はい先生」
白鞘が手を挙げた。
「なんだね、白鞘君」
「知らない人に勝手についていってはいけないと思います」
「話はこれからなので、どうか見逃してあげてください」
その謎の人物についていった生徒は、またしても奇妙な光景を目にした。
路地裏に入りあたりを確認した謎人物は、路地の壁に何か描いたかと思うと、突然その壁に吸い込まれていったのだ!跡形もなく消えてしまったその跡を見て、隠れてその様子を見ていた生徒は、怖くなって一目散に逃げかえったという。
「……っていう話。どう思う? 」
「始めから終わりまでベタな展開のホラー話ですね」
「右に同じく」
「そこには触れないで」
「どう思うかって、暇な生徒が暇つぶしに造った”下手な”噂話でしょう。探せばそんな話、どこにだって転がってますよ。八式先輩は信じるんですか? 」
「そうだよ。こんな胡散臭い話、絶対与太話だって。信じるだけ時間の無駄だよ。な、八式」
しかし先輩は、わずかに言葉を濁すように言った。
「いや、それがさ。もう信じるほかないというか……? 」
北の山々を乗り越えた風が
四季を早送りさせる。
窓を叩いていた雨粒も
いつのまにか、遠い過去。
この夏なにをしたか、
なにができたか。
忘れないだけじゃ
きっといけないよ。
キミが知らない明日と
キミがいない昨日と
世間は何一つ変わらないけど
僕の記憶から
1ピクセル、
キミの香りが
消える。
流星雨。
天球にはオリオン、おおいぬ、こいぬが炯々と輝く。
白露地に茂く、月光の淡い虹が夜空を駆ける。
湖面に映る白桃の月は、夜風に揺られ静かに形を変える。
Monet,Goghに続く、名画の回廊に掛けられているような。
中島敦や宮沢賢治であったら、なんと云って愛でただろうか。
刺さるような空気の中ひとり、天体観測。
背後、青白い月影のなか、僕の影が黒く地面をくり抜く。
君もこの夜空を見に来たのかい、とその影に問うと、
影は答えない。こちらをじっと見つめている。
ゆっくりと視線を戻し、僕はまた星空を眺めた。
さざめくような星明りの雨が、それもまた湖面に映っていた。