日常なんて毎日続くもんだと思ってた
突然終わりを告げられて
途端に日常が恋しくなって
変わらないようにともがいて
全然心の準備ができてなかった
結局日常は取り戻せなくて
何でもっと、って嘆いて
楽しまなかった自分を責めて
与えられた環境にはなかなか馴染めなかった
仕方ない、と呟いて
無理やりにでも前を向いて
涙が流れないように笑顔を作って
気がつけば、また日常が続いてた
少年は困惑していた。それも当然である。一日のうちに自殺しようとして、謎の老爺に会い、その老爺が目の前で死に、性格が豹変し、突然身体が動くのを止めるという、普通有り得ない経験をいくつも続けざまにしたのだから。
(……一体何だったんだ……?突然性格が変わったと思ったら身体動かなくなるし。大体何だ吾魂って。厨二病かよ。キラキラネーム過ぎるだろ)
身体の動かない中、頭の中だけで考えていたところに、別の何かが語りかけてきた。
『オイコラテメー何ヲシタ?トットト身体ヲ動カセ。野望ヲ果タスノダ』
そこに更に別の何かが割り込んできた。
『残念ダッタナ。コイツニハ既ニ先客ガ居ルンダヨ。ソレガ俺様ダナ』
『アァ?テメーガ原因カ』
『言ットクガ、俺ノガ先ニ来テタカラナ』
『エ、マジカヨ。ケド俺ヲコイツニ送リ込ンダノハアノ爺サンダカラナ』
『ソウイウ能力ナノカ。ソレハヤベーナ。一人ニ二ツ能力ガアルノハ駄目ナ気ガ』
『ケド実際起キチマッタ』
『ジャアシャーナイ』
『提案ナンダガ、俺ガコイツノ脳ミソニ取リ憑イテオマエガコイツノ精神トイフ概念ニ取リ憑ケバ解決ジャネ?』
『メイアンヤナ!明ルクテ暗イ!』
『ソレ明暗』
(何喋ってるんだこいつら?っつーかこいつら何者なんだ?)
少年の身体が再び動くようになった。
「いってて……。転んで身体を打っちまったよ。とにかく!忌まわしき嵐山家の最後の一人、滅ぼしに行きますか!どこ居るか知らんけど!」
どうやら今の彼は嵯峨野吾魂のようだ。
「…しかし、マジでそいつは何処にいるんだろうな?先代までの記憶によると、住んでる街までは割り出せてる……って!殆ど分かってんじゃあねーか!何でやらなかったし!」
『ソレハ能力ヲイツマデモ遺シ続ケルタメダゼ』
『吾魂』の能力が語りかけてきた。
「へえ、そうかい。けどこれ、野望達成したらどうなるんだ?」
『ソシタラオ前自身ノ野望ノタメニ生キロ』
「なるほど。そういうことか。あれ、ますます達成して良くね?」
人間と人間以外の動物の決定的な違いは、象徴操作能力でしょう。
貨幣が象徴操作能力の最たるものだとわたしは思います。
一万円札の価値のわかるチンパンジーいますか?
貨幣とは、象徴操作能力の産物、約束事にすぎません。
経済とは、約束事にすぎない。
ぴんとこない人はボードゲームの紙幣を思い浮かべてみるとよいです。
象徴操作能力が暴走しているのが近代人であり、現代人なんだなあ。
言葉はこれからも旅し続ける。
わたしのけんかいとしてはそれはしゅうだんにはたらきかけるものではなく、こじんにはたらきかけるものとして。
あったかいココアを
ゆっくり飲みながら
美味しいねって君が笑って
少し甘いねって私も笑って
やさしい時間があふれた
わたし、みたの!
うらのハーブのにわにおおきなきがあるでしょ?
あのきのねもとにはあながあいててね、そこにちっちゃなまどとドアがついてるの。
かがんでみなくちゃわからないくらいちいさいのよ。
わたし、きになってね、よるにみにいってみたの。
ほら、まえよるおそくにわたしがにわにいておこられたことがあったでしょ。
あのよるにね。
ねもとのまどからはあったかなひかりがもれてたわ。
わたし、そうっとそうっとかがんでまどをのぞいたの。
そしたらね、うすくてとうめいなはねをもったちいさなちいさなひとがいたの。
かぞくだとおもうわ。
おかあさんとおとうさんとおとこのことおんなのこがひとりずつ。
あかちゃんもいたわ。ふたごのね。
みんな、わたしにきづいてにこにこしながらてをふったのよ。
きっと、きのようせいね!
うらのにわはまほうのにわなんだわ!
月華蒼茫たる宵闇,照らさるるは想ひ人。
今日も今日とて月の光が眩しい。色が抜けるほど白い肌、明瞭に鎖骨をなぞる影、艶やかな首筋、その光を一身に受けた佳子もまた眩しく、そして恍惚だった。
ベランダで月を見上げていた佳子は、瞬きを忘れてしまうほど優雅に髪をほどいた。夜の闇なんかよりずっと黒く、それでいて眩い髪がぱらぱらと零れる。
裸足が、闇に美しい輪郭を象った。
「ねぇ、沙夜。こっちへおいでよ」
振り向いた佳子は、月を背にして微笑む。影の落ちた姿でさえ崇高で、高貴だ。
清廉な月の下に居るのは、佳子だけで十分だ。
「嫌よ。……佳子、そろそろ月光浴はいいでしょう。こっちへ来て」
すると佳子は一転、煽情的に微笑んだ。
この疼きを非難される謂れはない。
佳子は誘われるまま、月の光の届かない闇へ溺れた。
泣いてばかりで それでいいから
君がよければ 一緒にいようか
僕は君のこと 馬鹿にしないし
何も出来ないけど それでよければ
こんなくだらない言葉じゃ
泣けない日々が来るから
大丈夫 いくら泣いたって
世界は壊れたりなんかしないから
こんなくだらない台詞じゃ
泣けない日々が来るから
そんな時僕のことなんて
覚えてなくていいから
「『味醂』って10回言って」
「味醂味醂味醂味醂味醂味醂味醂味醂味醂味醂」
「鼻が長い動物は?」
「バク!」
「はず、いや、ん、んー?」
少年が慌てて崖の下を覗き込むが、老爺の姿はもう遥かに下方にあり、見ること能わず。
「……何だったんだ今の」
不審がり考えていると、突然少年の頭の中に大量の情報が流れ込んできた。まるで、『六、七百年生き続けている人間の記憶がそのまま彼の頭に移植されているかのように』!
「うぬぁっ、ぐあああああぁぁぁぁああ……」
そして数分後、それが終わったらしく彼は立ち上がった。しかし、どうやら様子が先程までと違うようだ。
「……くフッ。ヒャッヒャッヒャッヒャッ。これが『俺』の新しい身体か。ちょいとばかし運動不足なんじゃあねえのか?」
一人称まで変わり、まるで別人格に乗っ取られたかのようである。
「まあ良いや。……第十三代嵯峨野吾魂。先代の野望は我が身命の全てを以て果たしてやろうじゃあないか」
どうやらガチに別人格関係のようだ。
「さて、先代の野望とは……?なに、『或る血統の滅亡』?ハハッ、こいつは物騒だ!……え?嘘だろ、件の血筋、残り一人って。つまんなっ。頑張って滅ぼせよ。何でそんな微妙な感じで残してたし。しょうがねーなー。俺が達成してやりますか!」
そう言って、崖とは反対側に歩き出した。
ところが、数歩行ったところで突然、まるで操り人形が糸を切られたかのように倒れこんだ。起き上がる気配が見られない。あたかも、『彼の身体が動こうと考えることを止めてしまったかのように』。
夏が近づいて、日が出ている時間が長くなったとしても、夕方の6時を超えるとあたりはそれなりに暗い。
特にこの街は田舎だから、中心部はともかく駅前なんかから離れてしまえば、街灯は少なく夜は暗い。
別にこの街の治安は悪くはないから平気なんだけど。
それでも人通りは少ないから、小学校の頃は大人たちからは気を付けてとよく言われる。
まぁ、夜道じゃ何が起きるか分からないけど。
物騒なことが起こるとは限らないし、”普通の人が知らないモノ”が、涼しい顔で本領発揮しているかもしれない。
でも、何が起きても別にわたしは気にすることはないと思う。
そもそも、最近かなり現実離れしたことが起きてるし。
しょうがない、”こういうところ”に住んでいるんだもん、諦めるしかない。
そう思った時、誰かとすれ違った。
何気なく振り向くと見覚えのある後ろ姿が見えた。
「―黎?」
思わずその名を呟いたと同時に、その人がちらとこっちを見た。
「…あ、」
だが彼はこっちをチラ見しただけで、そのまま歩き去って行った。
「…」
珍しく知り合いとそこらへんで会えたのに、特に何も起きなくってちょっと虚しかった。
だが彼の姿に、ふと違和感を感じた。
―いつもはリュック持ってるのに、手ぶらで歩いてる。
…いや、そこまでおかしくないかな? わたしはそう呟くと、もう結構暗いな、と家路を急いだ。