奇しくも
あなたのようで
真綿のような
雲がカモメを攫ってゆく
繋げた貝殻は臥せた日々の数
形状記憶の猫背を伝う
飲み比べた苦汁の滴
面影が背伸びする
諦め色の空に浮かぶ
真綿のようで
あなたのような
群雲
いつからだろう…
人と仲良くするのに
“力”が求められるようになったのは…
言葉ができた頃?文字ができた頃?
電話が普及した頃?メールが普及した頃?
いや、多分どれも違う…
“完全な個人になろうとした時…”
“それって大人になる時?”
“違う…劣等感に怯えた時…”
“自分の力全てが自分に向かう刃に見える…”
情報収集能力…
即時判断力…
コミュ力…
記憶力…
権力…
力…
考えれば考えるほどドツボだ
だって全て持ってる人なんていない
足りないとこを補い合って初めて
コミュニケーションが取れる
そうやって凹と凸がハマって
初めて人は補完できる
みんなが完全だったら
きっと誰とも会えない
それは補完された世界なのか
あの頃
私が恋をしていた頃
あの頃の日記を見返そうと思ったのに
なんで私は。
もうその日記は捨ててた。
空気みたいな君が好き。
あっ、影が薄いみたいな方の空気じゃなくて。
空気って混合物でしょ?
いろんな人のテンションに自分から染まりに行ってる。
それって、ちゃんと自分っていう芯があるからできること。
かっこいい。
でも、どこに染まりに行こうって無意識に考えてるときの君が一番好き。
だって、そのときだけは、
君っていう純物質だけだから。
「あのさ、次来る車の色当てない?」
「いいね。じゃあ私白にする」
「私青にする」
「え、青?なくない?」
「そう?前一気に2台見つけたよ」
スーパーに青の車が2台並んでたから多いんだなって思った。
ちょっと自信ある。
「静かだね~」
そう。私たちの声と虫の声と風の音。ついでにのみものを飲む音。これらしかない。
「あ!音しない?」
「ホントだ!さぁ、来るか?何色だ?」
じーーっと見ていたら怪しい者だと思われるから普通に見渡すように見る。
「え、え、え、え、水色!!!ハハハッ!!」
「めっちゃおもろいやん!私たち混ぜた色だね!!」
こういうことも悪くない。
「あ、ごめん。私のめない」
「え、そうなの?意外だわ」
「うん。何か痛いだけじゃん」
「そこが美味いんだよ。じゃ、いくね。…うめ~~!!」
空は美味そうにサイダーをのんだ。
私はオレンジジュースをのんだ。
「やっぱオレンジジュースしか勝たん」
「いやいやサイダーしか勝たんでしょ」
「その考え分からん」
「そっか~」
「バス来ないね」
「確かに」
本来は11時に来る予定だったが只今の時刻11時30分。
田舎だから来ないのか、はたまた迷っているとか。
「今日やめる?」
「やだ」
そりゃそうだよね~。時間が経つにつれ会話も弾まなくなる。こんな時サイダーの泡のように言葉が出てきたらいいのにななんて考えていたら、大きな泡が出てきた。
君の夢に出たいと願った日の夜
私が君の夢を見てしまうなんて
好きだからだよ
その日以来先輩は僕のことをやけにイジるようになった。しかしそれもあくまで“先輩”としてでしかない。
そんないい雰囲気で最後の演奏会当日を迎えた。
演奏は良好、僕も緊張こそするけど先輩が前にいるだけですごい安心感。先生の指揮も心なしか感情的だ。全てが自分を後押ししている様だった。こんな楽しい時間は初めてだった。しかし演奏はいよいよ終盤…
それとは裏腹にみんなの音はかつてないほど響く。
終わりたくない…
反比例する心…
しかしアンコールが終わった…
会場からは惜しみない拍手が送られた。
達成感か、安堵か、泣いている部員もいた
まだだ…まだ僕は今日泣く訳にはいかない…
“いざ先輩に告るのだ!”
「先輩!最後にツーショット撮りましょうよ!」
お願い…心臓の音よ…今だけ収まって…
でも裏腹に先輩と近くなる度に音は大きくなる。
「またドキドキしてるでしょ.」
先輩はやっぱりズルい、この言葉も“先輩”でしかない…
でも、僕は…
「そりゃしますよ!僕、先輩のことずっと好きなんですから!」
そう言って思いっきり先輩に抱きついてシャッターを切った。
先輩と少し驚いてから一緒に笑顔になった。
でもこの言葉だけは勢いで言っちゃいけない気がした。
1年間も想い続けたんだ…
「先輩…今度は本気です…僕と付き合ってください…」
まるでマンガみたい…本番終わった高揚感のまま告るとか…でもあの音楽、心臓の音、楽器の音、弓の音、
全てが自分を守ってくれてる気がするから…
きっと今なんだ…今しか…
「気づかないわけないじゃん…━━━━━━━……」
この時の言葉だけはどこか遠く聞こえた。
きっと初めて先輩が“先輩”じゃなく発した言葉だったから
後輩を持って気づいた
“先輩”を捨てたら包んでたベールは剥がれてしまう
それは時としてただ打ち解けるより残酷だ
だからもう一度“先輩“の言葉で…
「私もずっと好きだったから…」
そう聞きたい…
空耳かな、先輩の声がした
あぁそうか、僕も引退したんだ…
「先輩…あの時はごめん…」
ほら見て、“先輩“みたいに少しはズルくなったでしょ
“あなたがもう一度聞きたい言葉は何?”
僕は…あの時の…
「よろしくお願いします!」
この地域では結構強豪な(らしい)吹奏楽部に入部した。
入部の理由は極めて安易(というか不純)だった。
初心者でも大丈夫って言葉とそう言ってた先輩がクッソ可愛いってことだけ。
結果どうにかその先輩のパート、吹奏楽部で唯一の弦楽器、コントラバスパートに入ることができた。(ちょっと後悔してたけど)
やっぱり最初の頃は死ぬほどキツかった。
左腕は上げっぱなしだし、弓には慣れないし、運搬ただただ重いし、なのに先輩は僕より小さい体でサクサクとそれをやってのける。多分この時初めて好きとかを越えて人に憧れた。それからはもう下心とかもなく素直に先輩との時間が楽しかった。学校行事もコンクールも、
“楽しいまま終わらなければいいのに…”
「先輩!今日一緒に帰りませんか?」
初めてそう言えたのは最後の演奏会を控えた練習が始まった頃だった。最寄り駅までの道はどこか部活の延長みたいで、でも帰りの電車が揺れた時先輩に初めて触れてしまった。
あれ?別に隠してた訳でもないのに、
なんか…ドキドキする…なんで?
どうして先輩までそんな顔をするの?
「すみません、先輩、僕の不注意で」
でもズルいよ、そんなすぐにすまし顔するなんて。
先輩が“先輩”のままでいたら手出しなんて出来ないよ。
「大丈夫、あ、なんかドキドキした?」
だって僕は後輩である前に先輩に告ろうとしてる不届き者ですよ!?ドキドキしないわけないじゃないか
「すぐにそういうこと言わないで下さいよ」
「顔真っ赤だよ?(笑)」
「え?」
「なーんて(笑)でも楽しかった。じゃお疲れ様ー」
そう言ってタイミング良く先輩は電車を降りていった。
to be continued...
どこからだろう…
この音が聞こえるのは
でも…やっぱり懐かしい
ミーラーファーシーソー
とても…暖かい記憶
変わらないなぁ
でももう戻っちゃダメだ…
これからは後輩の代…
弓の返しがちょっと硬くたって
ファの音がちょっと外れたって
でももう大丈夫だ
彼らならきっと…
このメロディもきっと…
“頑張れ”
ってソラミミでいいから
届いて…
夏の風は湿気を含み
時としてものにまとわりつく
でも風鈴の音は
それを引き裂くかのように透き通る
陶器の音かな、ガラスの音かな、
その涼しさは風のように速く広がり
その余韻は鈴のように幻想的
その発音は華のように凛として
その姿は山のように荘厳で
僕はあの人とこの山の元で
一緒に風の音を聞きたい
あなたで包まれていたい