「んー……」
段々意識が覚醒する。
「あれっ?今日何曜日だろ…」
スマホのアラームを止めてふと呟くと、「すいようですよ〜」とふわふわした声がした。
「す、水曜日ちゃん…!」
見れば、枕元にちょこんと群青色の、耳の長いデフォルメされた狛犬のような妖精が鎮座していた。
「はっ…まさか…今日燃えるごみの日では…」
しまった。寝過ごしたか。
「もえるごみ?あなたがおきないから、かってにおそとにだしちゃいました」
「やだこの子有能…!」
水曜日は好きだ。バイト休みだし、妖精がとっても可愛いから。
「だいがく、いかなくていいんですか」
「…あ」
妬みが生んだ醜さを感じるのは結局「わたし」であって
誰かの言葉だからと傍観していては「わたし」から飛び出す醜さに気づけない
「え、ちょっと!」
耀平は思わずそう言うが、ネロは気にせず少女の肩に手をかける。
ネロに肩を触れられて、少女はパッと振り向いた。
「…」
少女はネロの顔を見てポカンとしている。
その様子を見てネロは驚いたような顔をした。
「誰?」
少女は不思議そうに尋ねるが、ネロはあー…と目を逸らす。
「な、何でもない」
ごめん人違いとネロは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「…」
少女は黙ってその様子を見ていたが、少し離れた所で母親が待っている事に気付いて母親に駆け寄った。
「ネロ」
耀平がネロに近付いてそう呼びかけると、ネロは彼の方を見た。
「急にどうしたんだ?」
知り合いか何…と耀平が言いかけた所で、ネロは耀平の横を通り過ぎてわたし達の方へ向かった。
「え、ちょっ」
耀平がそう言って彼女を引き留めようとしたが、ネロはこう呟く。
「行こう」
そう言いながらネロはわたし達の側を通り過ぎていった。
人影が遂にその手を宙に持ち上げ、自分の顔に触れようと伸ばしてきた。あと数十㎝で奴の手が届くかというその時。
「やめとけよ化け物」
男声とも女声とも取れない、中性的な声が背後から聞こえてきて、影の動きも止まった。反射的に振り返ると、街灯に照らされて1人、誰かが立っている。
オーバーサイズのパーカーで顔と体型は隠れていて性別は分からないけど、自分より少し身長の低い、多分結構若そうな……。
「ほら、そっちの君。早く逃げなよ。『それ』、結構危ない生き物だよ?」
『誰か』は人影を指しながら悠然と歩いてこちらに近付いてきた。
「……何ぼーっとしてるんだよ。仕方のない奴め」
『誰か』は自分の横を通り過ぎ、人影の前で立ち止まった。
何をするのか見つめていると、動きが止まったままの人影の腕に手をかけた。
「なァー頼むよ、ここは私の顔を立てちゃくれないかね?」
人影は『誰か』の問いかけには答えず、空いたもう片手を伸ばしてきた。
「へえ、そうかい」
『誰か』が、人影の腕にかけていない方の腕を素早く振った。その瞬間、人影が今伸ばしてきていた腕が切り落とされたように、ぼとり、と地面に落ちた。
「ほら君、まだいたの。逃げるよ」
『誰か』はそう言って、自分の手を掴んで人影のいるのと反対側に走り出した。
(え、これ、俺って事だよな?どうすんだこれ!)
半ばパニック状態で走り回る。
そして思い出す。
(俺って...蘭に殺されたはずだったよな?)
つまり。
(遺体は...まだあの路地にあるのか?)
確かめるしかない。
あわよくば、私物も回収したい。
色々大変な事、主に黒歴史になりかねない。
どうすべきか。
(まずは、何か荷物を運ぶ手段を...)
そこで俺が目を付けたのは。
(確か押し入れの中に、小さい頃の鞄があったはず...!)
押し入れを漁ってみると、
「にゃ!」(あった!)
幼稚園に行く前位に使っていたリュックサックが見つかった。
(声を出しても『にゃ〜』にしかならないんだな...)
背負ってみると、丁度良い感じだ。
「にゃにゃ!」(よし...行くか!)
「却説、如何したものかな。私達は君を殺す依頼があるのだよ。引っ込んでくれたら善いんだけどね、君、そんな事してくれないだろう?」
“分かっているではないか。如何するつもりだ?”
彼女は笑顔で続けた。
「如何しようかなぁ、まぁ君から手を出さない限り、ずっと此処で睨み合う羽目になるね!」
...煽ってるなあ、この人。
“成程分かった。では死ね!”
乗った。この魔獣乗った。死ねって言われてるよ。
そして間髪入れずに氷塊が降り注ぐ。
イグアナ・ドームと格闘しつつ数分ほど待っていると、土くれ小人が数体組で引き返してきた。その手には長さ60㎝ほどの木の枝と軍手が1双携えられている。
「おやありがとう、素敵な気遣いまで」
軍手を履き、木の枝を手に湊音は再びイグアナ・ドームに相対した。
まずイグアナの1匹の頭を、枝で軽く突く。すると、別のイグアナが枝に素早く噛みついた。
(よし来た。さて、釣れるかな……)
イグアナが木の枝を放そうとしないのを確認してから、それを慎重に手元へ引き寄せる。やがて前肢がドームから離れ、あと一歩というその時、枝に更に重量がかかった。また別のイグアナ数匹が、持ち上がりかけていたイグアナを捕まえているのだ。
「……君たち、随分とこの『壁』を壊したくないみたいだね。中の人がよっぽど大切なのかな?」
枝を引く力を僅かに強め、片手が届く距離まで引き寄せてから、枝を咥えていたイグアナの頭に触れる。
(この枝にガッチリと食らいついた、その瞬間を『固定』した)
「これで君はもう……」
枝を勢い良く振り抜くようにして、イグアナを『釣り上げる』。
「離れられない」
枝を噛んでいたイグアナが引き上げられるのに巻き込まれ、他の数匹の個体もドームから弾き飛ばされた。
保険会社のCMは
いつも誰か笑ってる
僕んちのリビング
君がいたソファー
僕と右手を繋いでよ
すぐに眠れそう ベッドに飛びこむよ
昨日夢にでてきた
君に似てるオバケ
僕のほっぺにキスしてよ
すぐにあの世行き 電車に乗りこむよ
と思ったが、なんと教室だった。松田さんかっこいいし人気者だから、女子や男子からの視線が痛い。違うクラスの人も僕らの方を見ている。松田さんは気づいていないみたいで楽しそうに食べていた。
「早く食べないと、弁当冷めるよ。」
少し気が抜けているところも人気の秘密なのかもしれない。
「林、92ページ読んで。」
「おい、林。ばれるから。ちゃんとしろって。」
「大丈夫。」
こう心配してくれるのは、同じクラスの飛田(ひだ)はやか君だ。私はさっきから本を読んでいる。なぜなら、
「仕方ないな。じゃ、飛田。」
と、この現国の先生は反応がないとすぐに隣の席の人に振る。飛田君には申し訳ないが。ちなみに4月からあっている授業だが、飛田君はいまだに慣れていない。
昔から、自分には霊感体質があった。所謂『見える人』ってやつ。幽霊なのかお化けなのかもっと別の何かなのか、明らかにこの世のものでは無い何か。そういうモノが見えるし、そういうモノが居る場所では寒気というか嫌な予感みたいなものを感じる質だった。
そして今日も。
目の前に現れたのは、骨みたいに細い体つきの、背丈数mはある人影。まるで夜闇を凝縮したように真っ暗な、文字通りの『影』。
大学の講義が遅くまであったせいで、帰りが日没後になったのがマズかった。
人影は帰り道になっている路地を塞ぐように、四つん這いの姿勢でこちらを伺っている。眼があるようには見えないが、多分目も合っているんだろう。
こういうモノに遭遇したら見えていないふりをするのが良いというが、この状況じゃもう手遅れだ。人影は唯一存在する顔の部位の、大きく裂けた口をニタリと歪ませ、手を地面に這わせながら少しずつこちらへ近付いてきた。
こういう状況を『蛇に睨まれた蛙』っていうんだろう。逃げなきゃいけないのは分かっているのに、足が竦んで身動きが取れない。