自分が住んでいる町には、3か所鉄道の駅がある。町名がそのまま駅名になった駅、『東』を冠する駅、『中央』と後ろにつく駅。そのうちの一つ、役所に最も近い位置にある『中央』の駅は周囲の施設の充実から人の出入りも多く、休日であったためか待ち合わせの30分前という早い時間でも駅前広場はそれなりに混雑していた。
この中で、決して背が高いわけでは無い種枚さんを探すのは苦労するかとも思ったが、その心配は杞憂に終わった。
不自然に人が避けて通る真ん中で、フードを深く被ってただ立っていた種枚さんに、恐る恐る近付いて行くと、彼女の方もすぐに気付いたようで姿が消えたと思ったら次の瞬間には自分の背後にいた。彼女のこの移動法にもいい加減慣れてきた。
「やァ、随分早かったじゃないか」
「ええまあ、待ち合わせには早く来る性分でして」
答えながら彼女の足元を見ると、今日は珍しくビーチサンダルを履いていた。この人が履物を履いているところなんて初めて見た。
「今日は裸足じゃ無いんですね」
「流石に公共交通機関でまで、ってのはねぇ……」
いつもその気遣いをしてください、という言葉は一瞬悩んだ末に飲み込むことにした。
少女はありがとう、と言って綿毛を受け取った。
「夏緒は優しいなぁ」
その様子を見ていた露夏が夏緒に近付きながら言う。
「さすがはおれの“きょうだい”」
そう言って露夏が夏緒の頭を撫でると、夏緒はえへへと笑った。
「2人はきょうだいなの?」
少女が尋ねると、露夏はそうだぞ〜と答える。
「あともう1人いるんだけどな」
ここには来てないけど、と露夏は付け足す。
「いいなぁ〜」
わたし、きょうだいいないからと少女は呟く。
「ふーん」
夏緒はそう頷いて、こう尋ねる。
「…そう言えば、きみの名前は?」
自分は夏緒って言うの!と夏緒は明るく言う。
「わたしは…三穂野 蛍(みほの ほたる)!」
蛍って呼んで、と少女は笑う。
「よろしくね、蛍ちゃん」
夏緒はそう言って蛍の手を取った。
「あら、良かったじゃない」
お友達になったのね、とここでピスケスが3人に近付いてきた。
・お気に入りのキャラクターはつい酷い目に遭わせてしまう。
ヒトの命が一番輝くのって、危機的状況にあって尚折れずに乗り越えようとするその瞬間にあると思っているので……ついでに「僕の気に入った子ならこの程度どうにかできるよね?」のノリでついつい試練を与えちゃう。そのキャラクターなら乗り越えられそうなラインのを。まるっきり邪神じゃねえか。
・『相棒』に向ける感情が激重になりがち。
湿度はそんなに入らないけど、大体相手に命を預けてる。ここでいう「命を預ける」は、「相棒が望むなら、喜んで彼(彼女)に殺される」が基準。
・女の子が強い。
多分、小さい頃から身の回りに有能な女性がたくさんいたからじゃねーかな。あと、ナニガシさん自身が非力で貧弱な生き物なのもあると思う。
「脱走……ですか?」
信じられない言葉が聞こえてきて、思わず訊き返してしまった。
「うん、脱走。私にはやりたい事がある。この場所じゃ出来ないことが。だから、脱走」
「ベヒモス、お前はどうだ? 助けを求めたくらいだ、外に出てやりたい事があるんじゃねーの?」
フェンリルに尋ねられて、考え込んでしまう。たしかにこの場所は嫌いだ。ここを出て自由になりたい、そう思ったことは何度もある。
……けど、『ここを出た後』? ここを出て、私は何をしたいんだろう。たしかにここにいれば、“メンテナンス”もしてもらえる。外に私の戸籍なんて無いし、見方によっては、最高じゃなくても最低限、安定して生存できる。じゃあ、ここから逃げ出す意味って……?
「ああ悪かった。変に考えさせるようなこと言っちまったな」
フェンリルの言葉で正気に戻る。
「別に大したことじゃなくて良いんだよ。スレイプニルなんて『走りたい』ってそれだけだぜ? ここは狭すぎるんだとさ」
「そ、そうなんだ……」
「そう。だから私は、フェンリルとここを出たいの」
スレイプニルが言った。
「フェンリルと? 何故?」
「だって、フェンリルがいれば私の走るのを邪魔するような全部、残らず壊してくれるもの」
「へ、へえ……?」
それは、倫理とか道徳とか、そういうの的にどうなんだろう?
5 先生
その集落で約8年間を過ごし、俺は16になっていた。
貴族の家にいた事はおろか、自分の出自すら忘れかけていた。
先生、助けてくれた老人はとても優しかったが、とても強かった。
先生は俺が14の頃に亡くなった。
先生は亡くなる前日に言った。
「善いか。儂はお前を実の息子同然に思っているし、此処の者達も大切な仲間だと思っているだろう。でも、此処が危うくなったら、直ぐに儂等を捨てて逃げろ。どんなにお前を大切にしていたとしても、この部族の者でない事は変わらん。故に、此の部族の問題に巻き込みたくない。巻き込んだ挙句死なせたとあれば、儂等は、ずっとその事を背負って生きねばならん。だから、何かあれば、遠慮なく逃げろ。善いな。」
その時は、柄にも無い事を言うなぁ、たしか思わなかった。
しかし、これが先生の遺言になった。
「あーもう‼︎」
本部なんか待ってられるか!とイフリートは扉を開け放つ。
「おいら先に行く!」
そう言って、イフリートは路地へ飛び出して行った。
「あたいもー!」
ワイバーンもそれに続いていく。
「…」
店内に残った4人の間に微妙な沈黙が流れた。
「どうしよう、デルピュネー?」
ビィが隣に立つデルピュネーに聞くと、そうねぇとデルピュネーは答える。
「あの2人だけじゃ心配だから私たちも行くべきなんでしょうけど…」
羽岡さんは許してくれないわよねぇとデルピュネーは羽岡に目を向ける。
羽岡はダメですと頷いた。
「ほらやっぱり」
「いや、いい」
デルピュネーが言いかけた所でゲーリュオーンが急に口を開く。
パッとデルピュネーとビィがゲーリュオーンの方を見ると、ゲーリュオーンは店の外を見つめていた。
「この状況下で本部からの武器到着を待っている余裕はない」
だから、行っていいとゲーリュオーンは2人に視線を向ける。
「でも」
「大丈夫だ」
デルピュネーの言葉を遮るようにゲーリュオーンは続ける。
「わたしの事などどうでも善いだろう!まずは貴様だ!貴様、我が主に何たる不敬を!早急に謝罪せよ!」
「だから、誰よアンタ!」
少女ははぁ、とこれ見よがしにため息を吐いて続けた。
「わたしは、桜音様の従者役を仰せつかっている者だ。名を秋山葉月と言う。さぁ、名乗ってやったぞ。疾く謝罪せよ!」
「えっ...とっ...何方、様?」
その場に居合わせた、桜音を含む全員が心当たりが無かった。