土煙が止んで数分、固唾を飲んで見守っていると、種枚さんがあの少女を背負って穴の外まで跳び上がってきた。
「まけたぁー」
種枚さんの背中で満足げにそう言う少女……犬神ちゃんだったか。
「勝ったー」
口調を合わせるように言う種枚さん。
「でも思いっきりぶつかり合えて楽しかったー。まんぞく」
「私もだよ犬神ちゃん。良いガス抜きになった」
自分達の前まで和やかな雰囲気で歩いて来てから、犬神ちゃんが自分から種枚さんの背中を下りた。そのまま種枚さんの正面に回り、右手の人差し指を突き付ける。
「今日はありがとね、キノコちゃん。次は負けないから、覚悟しておいてね?」
「ああ、期待してるよ」
種枚さんはニタリと笑って答え、犬神ちゃんの指に彼女自身の人差し指を軽く突き合わせた。
「なァ、君、あの子に何を見た?」
駅までの帰り道、不意に種枚さんが話しかけてきた。
「はい?」
「『視えて』いたろ? 何が憑いていた?」
「…………ああ」
そう言われてようやく思い出した。鎌鼬くんにも聞いたが、あの子に憑いていたものはとても「犬神」とは思えなかった。
「そうですね…………何か、何て言うんでしょう……。肩に、その……モグラ? みたいなのが」
「それが『犬神』だよ。あの子は犬神憑きなんだ。土や岩を操るあの力も、どうもそれ由来みたいだ」
鎌鼬くんから既に聞いている、というのは言わないでおく。
ダキニに支えてもらい、居間に入る。スーツの男に老人が掴みかかっていた。ダキニと協力して二人を引き離し、話を聞くことにする。
スーツの男曰く、私を迎えに来たとのこと。老人には、私を保護していた謝礼も払うつもりでいるとか。なるほど何もおかしくない。
老人曰く、私のような子供を死にかねない大怪我をするような戦場に駆り出す所業が許せないとのこと。これは分からない。私は兵器だと、彼には既に言ったはずだが。
しかし私の意思としては、再び戦場に戻れるのは喜ばしいことだし、対策課やDEM社の預かりになった方が修復も早いだろうから、スーツの男の側につきたいところだが。
老人は善人である。この村の人間たちもまた、善人である。無知ながらも、然して逞しい善人たちだ。
そして私は、彼らに生命を救われた恩がある。インバーダの魔の手から守られない、哀れなこの村を捨てるように別れるというのも、あまりに不義理ではないか。
そこで私から、スーツの男に申し出た。私にこの村の守護を任せてほしいと。
スーツの男曰く、大都市の防衛にはより戦力を割く必要があり、元の担当区域とこの漁村の距離が数十㎞もあることから私が抜けた穴を埋めるのも簡単な話では無いとのこと。早い話が、彼は私の申し出に反対しているわけだ。
全く理解できないことである。たかが人間如きが、何故モンストルムに逆らおうとするのか。『生み出した側』である。ただそれだけの理由で、自分たちが決戦兵器の意思を操れるとでも思っているのだろうか。
私が手を出す前に、ダキニが動いてくれた。彼女が怪物態に変化し、巨大な白狐の牙をスーツの男の喉元に宛がったのだ。
恐る恐るといった感じで、屋内を覗く。入口から右側の壁は、一面の本棚に埋め尽くされており、それが入り口と反対側の壁の方まで侵食している。入り口扉の正面には簡素な台所があり、入って右には細長いテーブルが置いてある。椅子は無い。家具はそれだけだった。
無意識に小屋の中に1歩踏み入り、中の様子を見ていると、奥の方で何か物音が聞こえた。本棚で埋め尽くされた角の所だ。
そちらに目をやったのとほぼ同時に、本棚の上からだらり、と腕が垂れ下がった。棒切れのように細く、小麦色に日焼けした、柔い子どもの腕だ。どうやら、本棚の上に小さなロフトのようなスペースがあるらしい。
その腕をじっと見つめていると、子どもの全身が蛇のように床にずり落ちてきた。
もう11時を過ぎているが、まだ寝ぼけているのだろうか。うつ伏せのまま動かなかったその子どもは、突然がばっと身を起こし、こちらを睨みつけた。
「……おじさん、だれ?」
まだ“おじさん”なんて年齢では無いと思っていたんだが……。
「えっと、勝手に入ってきて悪かったね。私は見沼といって、前任の浦和さんに代わってインバーダ対策課から来た者だ」
「…………?」
「君が、モンストルム“キュクロプス”だね?」
「ん」
私が名乗ったのには微妙な反応をしたが、向こうの名前を確認すると、短く頷いて再びロフトに潜り込んでいった。
そして数分ほどして、寝間着から着替えてまた下りてきた。
「ねーおじさん、おじいちゃんは?」
キュクロプスが尋ねてくる。“おじいちゃん”というのはおそらく、前任の浦和さんのことだろう。
「浦和さんは、定年ということで退職したよ。それで今年から、私がこの島を担当することになったんだ」
「…………?」
キュクロプスはピンと来ていないようだった。
このポエム掲示板では、時折生徒の皆さんが何かしらの企画を用意してくださることがあります。僕も現在『ピッタリ十数字』という企画を打ち出しておりますね。詳しくはナニガシの過去の投稿を漁っていただければ。
閑話休題。
生徒主催の企画の中には、大きく分けて
・ポエム企画
・小説企画
・ジャンル不問企画
があります。
ところでナニガシさんの主観では、ポエム企画に寄るほどそれなりに人が集まり、小説企画に寄るほど人の集まり方が微妙になる傾向があるっぽいのです。ナニガシさんの場合は企画ってだけで反射的に首突っ込んじゃうんですが。
小説企画に人が集まりにくくて、ナニガシさんが躊躇無く参加しているその違いって何なんやろなー、と考えていて1つ思いついたのが、「他人様の用意した世界の中で好き勝手暴れることができるか否か」じゃないかね、と。そう思った次第。
だってほら、他人様の創り出した世界で下手こいて致命的な解釈違い起きたりしたら何かあれじゃないですか……。(創造主側で経験あり)
ナニガシさんはアマチュアTRPGプレイヤーなので、与えられた世界の中でルールを守りながら、時には穴を探しながら、ある程度好き勝手やるってことに慣れているんじゃないかと。
というわけでポエム掲示板のみんな! TRPGやろうぜ! 意外とライブ感で物語書くのに役立つぞ!
指輪を外してる 神様と話した
この世界のこととか どうでもいいふりで
浅草のうなぎ食べに行った
指輪のあとを揉み 神様が言った
このへんは少し おしゃべりが多いから
私の言葉も すぐに流れてしまうんだ
それが心地よさそうに 神様は笑ってる
だけど ぼくは君の言葉、いつだって書きとめる
ハートのなかのノートの1ページ
ハートのなかのえんぴつと消しゴム
指輪を外してる 神様と離した
世界の終わりは土曜日なんだって
「もういい‼︎」
行くわよほた…と女が露夏たちに背を向けた所で、彼女の後ろからねぇとコドモの声が聞こえた。
思わず女が振り向くと、露夏の隣に小柄な赤髪のコドモが立っていた。
「今、露夏ちゃんのこと、“子ども”って言ったでしょ」
小柄なコドモ…夏緒がそう呟くと、女は何よと答える。
「露夏ちゃんは、露夏ちゃんは、ただの“子ども”じゃないもん」
露夏ちゃんは…と言いながら夏緒は女に近付く。
「露夏ちゃんは…!」
夏緒がそう言いながら顔を上げ、拳を振り上げた。
「あっ待て夏緒!」
露夏は咄嗟に止めようとしたが、夏緒は気にせず動作を続けようとした。
しかしここで後ろから声が飛んできた。
「…やめなさい、夏緒」
思わずパッと夏緒が振り向くと、数メートル後方でピスケスが腕を組んで立っていた。
「それ以上は大変なことになるわ」
私たちにとって、とピスケスは淡々と言う。
「でも!」
「でもじゃない」
私たちの平穏を守るためには、トラブルを起こさないことも大切なのよとピスケスは続ける。
こんにちわ、体調崩してないですか?動く点Pです。
企画の話の前に、ちょっと言いたいことが。月の魔術師【3】はダブるかもしんないです。また私の悪癖(せっかち)が出ましたが、後に書いた3の方が良い出来なのでまあまあまあ…。
企画というのは、交換で小説を書くというものです。私と、参加してくださる人たちで一つの物語を交互に書いていく…みたいな。この説明じゃほとんどわかんないかもですが、興味あるよーとか、質問とかあれば、レスください。
みんなも体調崩さないでくださいね。
いや、こういう状況に慣れているってなんだ。
今のところ、攻撃は来ていない。
何故か。
彼女や僕がターゲットなら、今が狙い目の筈だ。
魔力切れか。他の獣か何かにやられたか。
または。
...本来彼女に当てるつもりがなかったのか。
であれば、これは事故だ。
事故なら、攻撃を一旦止める位の事はするだろう。
まぁ、相手が人であれば、だが。
「‼︎」
不意に、茂みから魔法陣が飛んでくる。
「しまった!」
おそらく先程と同じ魔術だろう。
結界の展開が間に合わない。
駄目元で結界を回す。
「!消えた...?」
魔法陣は結界で消えた。
つまり、これは空間切断魔術ではない。
「⁈」
振り向くと、先程インバーダに押し倒されていたワイバーンがそこにいた。
「+“<|>‘$*<;;>’‼︎」
ワイバーンは雄叫びを上げるとゲーリュオーンに飛びかかる。
そしてゲーリュオーンを押さえつけた。
「>]>;“*‘;$$[”!」
ゲーリュオーンは悲鳴を上げながら暴れるが、すぐにそれを振り解き立ち上がろうとした。
「くっそぉ」
こうなったらおいらが行くしか…とイフリートは怪物の元へ歩き出す。
「待って!」
私も行くわ!とデルピュネーはイフリートを止めようとする。
しかしイフリートはいや、いい!とデルピュネーを止める。
「デルピュネーは周囲に被害が出ないようにバリアを張ってくれ」
その言葉にデルピュネーはでも!と言うが、でもじゃない!とイフリートは声を上げる。
「…おいらが、おいらが“怪物態を使えない”とか言ったから、こんなことになっちまったんだ」
イフリートは俯きながら続ける。
「だから、おいらがなんとかする」
イフリートはそう言って前を見据えた。
「…デルピュネー、周りに被害が出ないようバリアを張ってくれ」
ちょっと本気出す、とイフリートは再度歩き出す。
デルピュネーは分かったわ、と頷いた。
イフリートは振り向かずに走り出すと、燃える髪と瞳を持つ巨人に変身した。
「っ! 危ない!」
体重をほぼ0にして少しでも足を速め、大蜥蜴の前に飛び出す。奴は私に噛みつこうとしてきたけど、全身の質量増加で受け止める。
「モンストルムが外に1人いるはずです! 彼に指示を仰いでください!」
蜥蜴との押し比べに集中している中、辛うじて背後の人たちに向けて叫んだ。あの人たちが慌てて逃げ出す足音が聞こえてくる。彼らがいなくなれば、少しは安心できる。フェンリルは強いから、きっと彼らを守ってくれるだろう。
「がっ…………!」
突然、下腹に強い衝撃を受けた。大蜥蜴が高速で舌を伸ばそうとしたのだ。けれど、その程度で私の質量を動かせるわけが無い。衝撃で呼吸が止まりそうになりながらも、少しずつ大蜥蜴を押し返していく。
少しずつ、勢いを増しながら。少しずつ、速度を上げながら。少しずつ、エネルギーを増しながら大蜥蜴を押し返し、壁際まで追い詰める。加速を止める事無くそのまま壁に衝突する。建物の壁と私の質量で挟むようにして、大蜥蜴を押し潰す。鱗と筋肉と骨と内臓が潰れていく嫌な感触を感じながら、そのまま完全に潰してやった。
大蜥蜴の口が力無く開き、解放される。奴がもう死んでいることを目視で確認すると、私の身体は糸が切れたように勝手に倒れた。受け身もできず身体を床に打ち付ける。
そりゃあそうだ。あれだけダメージを受けたんだし、長いこと人間を庇いながら戦っていたせいで精神もずっと張り詰めっ放しで消耗しきっていたんだから。
「おーい無事かー?」
フェンリルが入ってきて、私に尋ねてきた。
「……フェン、リル…………、あの人たちは……?」
「あー? 死にたくなきゃ勝手に逃げろっつっといた。俺の近くにいるだけで能力に巻き込まれて死にかねないからな」
「……大丈夫かな…………」
「大丈夫だろ。インバーダはほぼ全滅状態だったしな。お前の時間稼ぎの賜物だな。お前が目立ってたお陰で、他のモンストルムもこの辺にはあまり近付かなかった。マジでお前、よくやったよ」
「…………そっか」
そこで私の意識は途切れた。