“潜龍夏祭り”は打ち上げ花火大会も同日に行われ、世の児童生徒学生の多くは夏休み期間中ということもあり、大盛況となった。
神楽の演目も終わり、少しずつ祭りがお開きの雰囲気となった時、犬神は本殿の前の賽銭箱に腰掛けていた。
「…………あ、来た」
賽銭箱から飛び降り、犬神は舞殿からやって来た人影、平坂に近付いて行った。
「や」
「……犬神、だったか」
「うん」
2人は5mほどの距離を取って話していたが、不意に犬神が、参道横の砂利を勢い良く蹴り立てた。
「…………あれ?」
しかし、犬神の予想に反して、砂利は何事も無く放物線を描き、そのまま落下する。
「貴様、仮にも神域で妖怪憑きの身が好き勝手出来ると思うなよ?」
「ちぇー。いっつもキノコちゃんいじめてる復讐ができると思ったのに。まあ良いや」
「何の用だ」
「ん? 仕返し」
「それ以外の要件だ。そんなことのために遠出するようなタマじゃないだろうが」
「む……バレてたか」
犬神が懐から財布を取り出しながら、平坂との距離をさらに詰める。
「ねえ、この神社っていくらでお祓いとかしてくれる?」
オイラin人間社会。
今日はアレ……何だっけ、“魔法少女”? ソレにするのにちょうど良さそうな人材を発掘するゼィ。
欲しい魂は、所謂“イジメられっ子”ってタイプの人種ダナ。
揉まれて擦れて磨き上げられた(すり減ったともいう)、鋭くタフな魂。ただのイジメられっ子で良いってわけでも無ェ。折れて引きこもったり自傷に走ったりするようなのじゃ駄目だ。やり返せるほどの跳ねッ返りも好かねェ。理想は“耐え続けている”奴。心身を削られながら、“まだ折れてねェ”奴だ。
そーいうワケで本日の狩り場は某中学校。建物部分がクソデカいんで、多分たくさん人材がいる。人が多けりゃ多いほど、好みの奴がいる確率も上がるってェ寸法よ。
つーわけで捜索のため、フラフラと建物の周りを飛び回っていると、いきなり爆音が響いてきた。あれだ、何とかって奴。……時報? 的なアレ。知ってるゼ、物事の始まりと終わりに鳴らすヤツだ。つまり、運が良ければこれからガキ共がわらわら出てくる。
ワクワクしながら出入口周辺に隠れて待ち構えていると……。
『ビンゴ!』
しばらくじっとしているうちに、同じような服装したガキ共が出てきた。狙うは2択。独りぼっちの奴か、不自然に取り囲まれてる奴。欲を言えば女が良い。アイツらは精神が野郎よかチカッとだけどろどろしてるからな。
うーん、ちょっと距離置いて。
あ、そうそうそのくらい。
オッケー、いい感じ。
え?何してるの...って。
量の調節。
あんまり近いと、
人間の過剰摂取で死んじゃうよ?
当たり前じゃん。
気に障ったので、夕飯は先に頂くことにした。
「頂きます...」
荒廃した都市のど真ん中で、黙々とパンを頬張る
少女。
どこまでも異常で、果てしなく美しい光景。
恐らく、夕日のフィルターのお陰だ。
カナが夕飯を食べ終えてしまっても、エミィが目覚める様子はない。
仕方がないので、手近なビルの中を覗く事にする。
割れたショーケースの中には、色褪せたドレスやヒール、ぼろぼろのマネキン(かなりホラー)などががあった。
その中の一つに、人が入っていた。
正確には、入っていたというより、突っ込んで
いた。
「わたしは単にあま音さんが駄菓子屋に行きたそうにしてたから…」
「何だよソレ!」
ネロはわたしに対しそう突っ込む。
「とにかくどうする?」
ここで拒否するのも面倒な事になりそうだし、と穂積は自身が着る紫のスカジャンのポケットに手を入れる。
「もうこれはOKするしかないよね~」
雪葉はにやにやしながら言った。
それを見て黎もうんうんとうなずく。
「ネロ、耀平…お前らはどうする?」
俺は別に良いと思ってるぞ、と師郎は呟いた。
ネロと耀平は嫌そうな顔をしたが、少し顔を見合わせてこう言った。
「…どうする?」
「やっぱり付き合うしかない?」
2人は少し話し合うと、あま音さんの方を向いた。
「別に案内しても良い」
ネロがそう言うと、あま音さんはありがとう!と手を叩く。
しかしネロはだけど…と続ける。
「ボク達に迷惑をかけるような真似はするなよ?」
いいね?とネロが念押しすると、あま音さんは分かったわとうなずいた。
傷跡すら愛おしい
夜明けを待つ二人
不確かな毎日
今を共に生きている
あたりまえは
奇跡の連続で繋がれる
鳩尾への攻撃で呼吸を潰されたサツキは、抵抗できないまま押し倒されているうち、自分の首にかけられた“魔女”の手の力が緩んでいることに気付いた。
顔に垂れてくる涙と涎の混合液を左手で拭っていると、完全に脱力した“魔女”の身体が、サツキ自身に重なるように崩れ落ちた。咄嗟にその背中に手を置くと、掌にはべったりと彼女から流れ出した血が付着する。
(『ダメージを共有する魔法』…………こんな痩せた身体で、何度も私が殴った後で、私よりずっと辛かっただろうに……)
「あ、そうだ。こんなことしてる場合じゃない!」
サツキは“魔女”を抱え、舌打ちの音で『反響定位』を開始した。
(現在地と、方向……良し。あと少し、頑張れ私)
短距離転移を繰り返し、サツキは彼女が通う中学校の屋上に倒れ込むように到着した。
(マズい、流石に出血し過ぎた……ちょっと、もう動けないかも……)
「…………ヤヨイ!」
最後の力を振り絞り、サツキが呼びかけると、倒れる2人の傍に一人の少女が近付いてきた。
「はいはいお姉ちゃ……うっわ何その傷!? あとそっちの子誰⁉」
「えっと……」
(そういえば、この子の名前は聞いてなかったな……起きたら教えてもらおう)
「えっと、私の友達。この子のこと、治してくれる?」
「……分かったよ。あとですぐお姉ちゃんも治すからね?」
ヤヨイと呼ばれた少女は素早く変身し、片手に握ったライトメイスの鎚頭で、“魔女”の頭を軽く小突いた。
「ほぃ治療完了。お姉ちゃんも治すから……うっわなんで両目潰れてるの怖っわぁ……」