帰り道。
ふと空を見上げると。
澄んでいて真っ青な空のなかに
影もありながら白く美しい雲がいくつか浮いている。
“ピチャッ”
…水たまりを踏んだらしい。
水たまりからそっと抜け出し、水たまりを見た。
あの綺麗な空が水たまりに映っている。
…でもコンクリのくぼみにできた水たまり。
少し暗い感じがする。
空も灰がかかった色をして、
雲には白が見当たらない。
もう一度空を見上げる。
空は変わらず綺麗。
澄んでいて真っ青な雲のなかに
影もありながら白く美しい雲がいくつか浮いている。
いつか私も水たまりの空から本物の空へ
変われますように。
君に、伝えたいことがある
私に、分かってほしいことがある
って言ったけど、ホントは、分かってないんだ。
私の、味方っているのかな?私の、大事なものってなんだろうね?
でも、ひとつ、願いがある。
私の居場所を見つけて、私の大切なものを見つけて、この世界でのびのびと生きていきたいな
そして、最近、もうひとつ願いができた。
あなたを愛して、あなたに、愛されて、美しく生きていきたいな
味方は、大事なものは、きっと、この世界にあるから。
まだ鳴らないの?
気分はもう終わりの時間
なのに本当はまだ半分くらい。
早く鳴ってくれないかな…。
休み時間になったら
あの子と話したい。
また私のことを知ってほしい
どんな話をしようかな。
授業なんて聞いてられない
不意にチャイムが鳴った。
「終わった」って思ったのに…
あぁ、授業が長引いちゃったよ。
「あ、かすみ」
金髪のコドモがそう言うと、かすみと呼ばれたコドモはまだババ抜きしてたの?と尋ねる。
金髪のコドモはうん!と頷いた。
「露夏ちゃんが暇だからやろうって言い出して、それでナツィが5回負けたの」
「一言多いぞキヲン」
金髪のコドモの言葉に対し、ナツィは呆れたように突っ込む。
キヲンと呼ばれたコドモは、だって事実じゃん?と小首を傾げ、ナツィはため息をついた。
かすみは苦笑しつつ、それはいいんだけどさと話を続ける。
「きーちゃん、寧依が裏口で迎えに来てるよ」
かすみがそう言うと、キヲンはえっ、もうそんな時間?と驚き立ち上がる。
かすみはうん、と頷く。
「だってもう夕方の5時半過ぎてるし」
かすみがそう言うと、キヲンはえーつまんない〜と先ほどまで座っていたイスに座り呟く。
「まぁまぁ、そんなこと言わないの」
駄々をこねるキヲンを正面に座る青い長髪のコドモがキヲンをなだめる。
「寧依はあなたの家族なんだから」
ね?と青髪のコドモ…ピスケスはキヲンの
キヲンは、むぅ〜と頬を膨らませたが、かすみがきーちゃん、と声をかけるとわかったと返した。
「さて、私たちも帰りましょうか」
ねぇ露夏?とピスケスは隣に座る露夏に目を向ける。
露夏は、はいはいと呟いた。
戦争について語った短編小説【最適化済】
題名「末期の水」
作者 10代・女
制作 2025年 検閲・最適化 2026年
《本文》
マニプール河に沿って、兵士たちは歩いていました。行軍と呼ぶのもはばかられる様子でした。
彼らは撤退する間に次々と亡くなっていきます。彼らが亡くなってしまったその道は「白骨街道」と呼ばれました。歩ける者も、そうでない者も、多くが飯盒と手榴弾と小銃以外は捨て、殆ど身一つです。足元は殆ど裸足のような状態でした。
――もう駄目だ。
朦朧とした意識の中で、最後を悟る男がいました。
昨晩までの雨で道には川のように泥水が流れています。しかしそれを気にしている余裕はとうの昔になくなっていました。右半身は泥にめり込んで、温い水が滲みて身体がいつもの数倍重く感じています。
体中が痛い。力が入らない。感染症が生命を蝕む。目蓋が嫌に重い。脚も疲れて立っているのも難しい。腹は減っている。しかし吐き気がする。固形物はもう身体が受け付けなくなって久しい。
疲れた。もう、疲れたのだ。
男は細い腕を腰にやりますが、触れた場所に求めていたものはありませんでした。いつの間にか手榴弾の入った布鞄までどこかに捨ててきてしまったようです。
次に男は投げ出した銃に手を伸ばしました。しかし掴んでも引き寄せることができません。今の男にとってはあまりにも重すぎたのでした。
――ああ、水が飲みたい。綺麗な水が……。
ふと、絶望した脳内にそれだけがぼんやり浮かんできました。
母の顔も戦友の声も妻子の手のぬくもりも何も思い出せないのに、それだけが。
気がつくと男は、道の中央に溜まっていた水を無意識に口に含んでいました。綺麗とは言えない水です。しかし、それを起き上がって震える両手で掬います。
夢中になって二口三口しますが飲み込み切れず吐き出してしまう。また一口飲む。また吐く。身体が液体すら受け付けなくなってしまっていました。
【次頁に続く】
【前頁から続く】
――やっぱり駄目そうだ。
本能がそう囁きます。その瞬間気が楽になりました。やっと神仏が手を差し伸べた……今の男にはそれが天道神だろうと疫病神だろうと関係はありませんでした。ただ、やっとこの苦しみから逃れられると、一心にそう思っていました。
――ああ、最期に、最期に一口でいいから綺麗な水が飲みたかった。俺の末期の水はこんな泥水か……。
霞む目を瞑る寸前、男の脳裏には諦念に混ざってそれとは別の感情がよぎりました。しかし正体に気づく前に男の意識は完全に途絶えてしまいました。
どのくらい経ったのでしょうか、男は目覚めることができました。
戻った聴覚に戦争の音が飛び込んできます。薄く開けた眼に容赦なく白い日光が木々の隙間から差し込んで、唐突に肌に張り付く暑さが襲ってきました。戦争で受けた傷がジンと痛みます。黄泉の国でないことは明白でした。
――ああ、そうか。
「み……ず、か」
そうか。あれか。あれの所為か。
どうせ後で苦しむことになるなら、あんな水は飲まなくても良かった。飲まない方が良かった。
それなのに何故。
理由は明白でした。身体が水を求めていたからです。自分の意思ではありません。しかしそれだけで、男の胸の奥底から、生きようという気持ちが湧出してきました。
……自分が死ねば兵士達の死は誰にも知られず異国の泥に埋まっていく。彼らと自分に報いずに、このまま死ぬことが許されるのだろうか。自分は許せるのだろうか。
男は自分に問いかけました。
明確に答えを言葉にはしませんでしたが、彼は投げ出していた銃を支えにして立ち上がっていました。
倒れる直前の感情の正体が分かった気がしました。
【完】
「おれたちは遅くまでほっつき歩くわけにゃいかないからな〜」
露夏はそう言って立ち上がる。
「…じゃ、また明日〜」
そして露夏は椅子から立ったピスケスとともに物置部屋の扉の方へ向かった。
「あ、ボクも〜」
キヲンはそれを見て慌てて立ち上がる。
しかしふと気づいたようにナツィの方を見た。
「…そういえばナツィは?」
帰んないの?とキヲンはテーブルの上のトランプをケースにしまっているナツィに尋ねる。
ナツィはキヲンの方を見ず、少しの沈黙ののちにこう答えた。
「今日は帰らない」
「え?」
キヲンはついポカンとする。
物置部屋から廊下に出ようとしていた露夏やピスケスも立ち止まり振り向いた。
「どうして…」
「どうしてって、別にいいだろ」
ナツィはそっぽを向きつつ返す。
「俺は保護者のところに帰りたくないんだよ」
「えーそんな〜」
キヲンはナツィの傍に駆け寄る。
「ナツィのおじーちゃん寂しがるよ〜」
「別にそんなのどうでもいいし」
「ヒドい〜」
「お前には関係ないから」
キヲンとナツィは暫くそう言い合うが、それを見かねたのか、かすみがきーちゃん、とキヲンの肩に手を置いた。
「別にナツィは家に帰らないだけで、ここに泊まってくだけだからね?」
保護者の人もわかってるみたいだから、心配しなくていいよ、とかすみはキヲンをなだめる。
キヲンはでも〜、と口を尖らせた。
「一緒に帰りたいよ〜」
そう言って肩を落とすキヲンだったが、ナツィはお前とは帰りたくないしと頬杖をつく。
しかしここでピスケスが、きーちゃん、とキヲンに声をかけた。
「ナハツェーラーはかすみがいるから、あなたが心配する必要ないわ」
それより、寧依を心配させる訳にはいかないでしょう?とピスケスは微笑む。
キヲンは…うん、と不安げに頷いた。
「じゃあ、私たちは帰るわ」
また、明日ねとピスケスは小さく手を振って、キヲンや露夏とともに物置をあとにする。
かすみは笑顔で、うん、またねーと返したが、ナツィだけは黙って目を逸らしていた。
「今日の分、終わりました」
「ありがとう、こんな遅くまで」
「いえ、先輩1人に残業させるなんてできませんから」
「よくできた後輩だね」
「どうも、それにしても最近は多いですね、最適化対象の投稿文が……」
「やっぱり政治とか経済とか、社会の変わり目はね、どうしてもね、仕方ないよ」
「いちいち表現が過激ですよね。むやみに恐ろしく書いたり……そんな文章誰が読むんですかね」
「分からないけど、そういうのは考えたって仕方ないことだよ。社会に出ていく文章は全部ここで確認して、大筋は変わらないように言葉を整えて、当たり障りない形で発信する。それでオーケー」
「でもめんどくさくないですか?」
「めっちゃめんどくさい。でも、これ書いてる人たちの目的って内容を伝えることでしょ?大枠が伝わればいいの。というか、そうするしかない。ほら、多様性の時代だから」
「誰も傷つかないように、でも意見は尊重してって話ですよね」
「分かってるじゃん」
「でもこういう表現する人ってリアリティとか気にしてるんじゃないんですか?」
「ちゃんと作者欄見た?10代で、しかも女の子。戦争のリアルを知らない人が書いたんだから、別にいいよ。そりゃ体験者のノンフィクションならもっと尊重する」
「それって平等なんですかね……」
「別に平等じゃなくていいよ。意見には質ってもんがあるんだよ。そしてその質は『であること』で決まる」
「そんなことってまかり通っていいんですかね」
「少なくともそれが世論だよ。無意識かもしれないけど」
「デモクラシーの時代ですよ?」
「ポピュリズムの時代だよ」
「……」
「別に悪いことしてるんじゃないんだから、そんな顔しないでよ。この仕事って正しいデモクラシーの時代に戻そうっていってやってるんだよ」
「そう、ですよね」
「うん。じゃあ原本、保管庫に持ってっといて。こっちは鍵閉めてくから」
「……」
「何眺めてるの?それさっきまで編集してたやつの文章でしょ?」
「あ、ああ、はい、すいません、保管庫行ってきます」
「うん。終わったら外で待ってて。お礼にタクシー代出す」
「うわほんとマジでありがとうございます」
翌朝、辺りを明るい日の光が照らすころ。
人工精霊たちが集まる喫茶店の物置の扉が、おっはよー!という元気な声とともに開け放たれる。
物置にやって来た、金髪にツノの生えたコドモ…キヲンは、誰もいない物置を見て目を丸くした。
「…あれ、いない」
そうキヲンが呟くと、後ろからおはようきーちゃんと声がかかる。
キヲンが振り向くと、そこにはジャンパースカート姿にエプロンを身につけたかすみが立っていた。
「あ、かすみ」
ナツィは⁇とキヲンは首を傾げる。
かすみは、ナツィなら自分の部屋にいるよと笑った。
「かすみのお部屋?」
「うん」
ナツィがうちに泊まるとき、大体自分と同じ布団で寝るから…とかすみは苦笑いする。
それを聞いてキヲンは、えっいいな〜!と目を輝かせた。
「ナツィと同じおフトン!」
「そ、そう…?」
かすみはつい首を傾げるが、キヲンはだってさ!と飛び跳ねる。
「ナツィと一緒にねんねできるんだよ⁈」
うらやましいなーとキヲンは呟いた。
かすみは、きーちゃんにとってはそうかもね、と返すが、ふとここでキヲンが、あっじゃあ…と言い出す。