殻の中のニワトリ
私は殻の中で生きている。殻を破って外へ出るつもりなど、ない。簡単に言えば世界が酷いからだ。だってこの世はあの世に決まっている。この目で見たことがなくたって、引きこもりの私にだって、そのくらいのことはわかるのだ。
私は殻の中で生きている。殻を破って外へ出るつもりなど、ない。簡単に言えば世界が憎いからだ。申し遅れたが私はニワトリなのであった。時間と絶望は同義である。私の体は日に日に育ち、産まれてもいないくせに、ヒヨコのままではいられなかったのだ。
私は殻の中で生きている。殻を破って外へ出るつもりなど、ない。簡単に言えば世界が怖いからだ。意味なく頬を伝っていた涙は、いつの間にかかわいていた。人の目を気にせず泣きっぱなしでいられるのは、独りぼっちの特権だ。
私は殻の中で生きている。殻を破って外へ出るつもりなど、ない。簡単に言えば私が臆病者だからだ。飛べない空も泳げない海も見たくはなかった。広い世界の中のちっぽけな存在でいるよりも、狭い殻の中にいっぱいの存在でいた方がいいじゃないか。
私は殻の中で生きている。殻を破って外へ出るつもりなど、ない。私は殻の中で生きている。殻を破って外へ出るゆうきなど、ない。「現実」以外のどこかで幸せになりたかった。殻の中で生きている。殻の中で生きていく。きみのこえも、きこえないけれど。