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バルコニー

 バルコニーに若い女。物陰に若い男。若い女にスポット。
「おお、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの」
「ロミオという名前が嫌なら、どうぞ恋人と呼んでください」
「ああ、ロミオ」
「ぼくはあなたのために生きたい。あなたのためならこの命、おしくはない」
「……わたしのためなら命、おしくはない……あなたがわたしに差し出せるものって、命しかないの?」
「えっ」
「なんかそういうのってさあ。努力して目標を達成するなり、新しいことに挑戦するなりしてなにがしかの取り柄を持とうって気のない怠け者がかっこうつけるための方便としかとれないんだよね。なんの取り柄もない奴の最後の砦っつーの? 女にモテる奴はみんな努力してるんだよ陰で」
「……あの、その……とにかくぼくは、あなたを愛してる」
「あんたみたいに田舎で実家暮らししてる奴に愛だの恋だの言われたって説得力ないんだよね。豊富な人生経験ありきで言うべきセリフだよなそれ。本気で女落としたかったら都会でもまれて視野広げてから来いよマジで」
「……ぼくは、ぼくは……ぼく、ぼく……」
「ん? あんた泣いてんの? 泣いてんのあんた? 泣いてんの⁉︎」
「ロミオ!」
「ママ」
「なにしてるのこんなところで。風邪ひくでしょうが」
「ママ。ぼく、東京でひとり暮らししたい」
「あら、熱あるのね。ハナたらしちゃってもー。ほら、かみなさい。……さ、帰りましょ」
「うん」
 若い男と母親去る。若い女、バルコニーの手すりにもたれて。
「あーあ。今度の奴も駄目か」

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チョコとブランコ

 最近読んだ本に、女性の男性ホルモン分泌量は男性の十分の一(卵巣と副腎から分泌)。性欲はもっぱら男性ホルモンによるもの。よって性欲も男性の十分の一。とあった。なるほどそりゃあバレンタインに男子がそわそわするわけだ。女性の十倍だから。
 イベントだし。と、大して好きじゃないけど仲のいい男子にチョコをあげようと考えスーパーに行った。自分の好きな板チョコが、安かった。買った。もちろん自分用じゃないけど。
 帰路、ショートカットしようと公園に入ったら幼稚園の年長か小一ぐらいの、男の子がブランコに座って泣いてて、どうしたのってききたい衝動にかられたけど子どもとはいえ好奇心にまかせてたずねるのは失礼。トラウマになったら困る。さりげない感じで隣のブランコに座り。さっき買った板チョコの包みを開け、ぱきっとやって差し出した。男の子は、少しびっくりしたみたいだったけど受け取り、口に入れてずいぶん長い時間もぐもぐやってからのみ込んで、照れくさそうに笑った。つられてわたしも笑った。
 二人、しばらく無言でチョコをほおばってブランコをきこきこやってたら男の子のお母さんらしきと妹らしきがきて男の子はいっしょに帰った。
 だから明日はチョコは無し。

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納豆

 起きたら十一時だった。妹は、お母さんと出かけたみたいだった。
 冷蔵庫を開けた。鰹のにんにく醤油漬けがあった。ご飯にのせて、もみ海苔をかけて食べた。いい感じだった。
 テレビでベテラン芸人が、芸能界は少ないパイの奪い合い。人気芸能人のスキャンダルをリークすれば空きができる。と、コメントしていた。出かけようと思った。
 財布に九〇円しかなかった。図書館に行くことにした。
 入口近くに、春の本、と題したコーナーがあった。春告げ鳥、夜桜、桜町商店街マップ、春のアレルギー、春画の世界、梅の香、梅酢ドリンクで医者いらず。雑なチョイスだと思った。
 背中をたたかれた。振り向いた。中学のときの同級生だった。向かいの、喫茶店に誘われた。「お金ないから」と断ったら、「おごるから」と、にこにこしながら言った。
「そんなわけにいかないから。ほんとにお金ないの」
「いいの。いつもおごってもらってたから」
 喫茶店で、一時間ばかり話した。といっても、向こうの話にあいづちを打っていただけのような感じだったけど。話のほとんどは、彼氏と自分がいかにうまくいっていないかというもので、どうしたらいいかみたいなことをきかれるんだろうなあ。と思ってたらやっぱりきかれたので、「負けてあげる楽しさを覚えよう」と、コメントしたら、なんか目から鱗みたいな顔になったから調子に乗って、「折れない人は楽しい人生を送ることはできない」と、続けたら、あんま調子に乗んなよ。みたいな顔になり、「じゃ、これから彼氏とデートだから」と言ったので、「ごちになりました」と言って別れた。
 帰り、スーパーで納豆を買った。たれとからしなし、七四円税込。どうして納豆なんだろう。と思ったが、そんな心理学を包含した哲学的なテーマについて考える気力はもはやなかった。