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五行怪異世巡『こっくりさん』 その⑥

それからも数度、短刀による刺突を放ったが、影はその尽くを回避する。
ゆらゆらと蠢く影を、跪いた姿勢のまま睨み続けていた平坂の背中を、不意に犬神が軽く叩いた。
平坂が振り向くと、犬神は既に巾着袋の口を開け、中の砂を掌に空けている。それを見て、平坂は数秒逡巡してから、結界の中の4人に声を掛けた。
「……そのまま目を閉じて、決して見ないように」
そして、犬神に手でゴーサインを出す。犬神は小さく頷き、手の中の砂を宙に向けてばら撒いた。砂は落下することなく空中に留まり、犬神の手の動きに合わせて波打つように動き、刃の形状に固まった。
犬神が影を指差すと、砂の刃は高速で射出され、影の胴体を切断する直前で回避され、床に衝突した。それによって粉砕された刃は、6本の棘に再形成され、うち4本が影に向けて再び発射され、そのうちの2本が命中し、影の身体を空中に持ち上げた。
(ふー、ちょろちょろとよく動いたけど、やっぱり『数』は『強さ』だよ)
口の中で呟き、外した2発、撃たずにいた2発の棘を構成していた砂を、1つの弾丸の形状に変形させ、空中で回転させながら照準を定める。
(吹っ飛べ)
砂の弾丸が発射され、影の胴体に命中し、その全身を衝撃によって破裂させた。

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その⑤

瞑目して集中していた平坂は、開始の宣言と共に目を開いた。
4人を囲う結界の周りを、一つの小さな影が蠢いている。
生徒の方に注意を向けると、4人とも恐怖からか目を固く閉じているようだった。
平坂が隣に立つ犬神に目をやる。犬神は、先程平坂から受け取った砂の入った小袋を持ち上げ、小首を傾げて見返していた。
(使おうか?)
目だけでそう問う犬神に、平坂はまだだ、という意味を込めて首を横に振る。
再び影の方に視線を戻すと、その影は四足にて結界の周囲を歩き回りながら、蝋燭や盛り塩に触れては身体を仰け反らせていた。
平坂はその様子をしばらく眺め、徐に1枚の御札を床に落とした。
影は歩き回る軌道をそのままにそれを踏み、何事も無く通り過ぎる。
「…………」
黒く変色した御札を拾い上げて鞄に放り込み、代わりに取り出した金属製の円盤を床に置く。影はそれも問題無く踏みつけて通り、金属板は中央から真っ二つに割れてしまった。
(……奇妙な霊だ。結界を破る力は無いにも拘らず、いざ殺そうとすると高い耐性で抗ってくる。力が強いのか弱いのか……)
続いて短刀を鞄から取り出し、ゆっくりと影に突き立てようとする。影は急に動きを止め、身を捩り短刀を回避した。

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魔法をあなたに その③

サテサテ待つこと時計の長針1周分。
よーやっと好みの人材が出てきやがった。見るからに陰気臭せェ女生徒が1人、周囲を気にしながらそそくさと出て敷地外目掛けて一直線ってなワケですよ。
『……当ォー然、声かけるよなァ、えェ?』
ヤツの背後をついて行きながら、ひとっ気の無い場所に入るのを待つ。
辛抱強く待つこと10分チョイ、遂にチャンスが訪れた。ヤツが団地の中に入っていった。
そのまま不気味なほど静かな細い道に入り込んでいったタイミングで、声を掛ける。
『よォ、そこの陰気なお嬢ちゃん』
たしかに魂が足りてねェせいで大それたマネはできねェが、人間の頭に直接声を届けるくらいはオイラ達の生物学的標準機能だ。
オイラの声に気付いたあの娘は、仰天したみてーに足を止め、キョロキョロし始めた。
『今はテメェの頭ン中に直接語り掛けてるンだよ』
「だ、誰⁉ 誰なの⁉」
『えェイ落ち着け! テメェ今、周りから見りゃ完全にヤベェ奴だゼ』
「ぅっ……」
『よォし良い子だ落ち着け落ち着け。深呼吸しろシンコキュー』
ヤツがそれなりにリラックスするのを待ってから、会話を再開。
『安心しろヨ、今テメェに語り掛けるこの声は幻聴でもイマジナリー・フレンドでも何でも無ェ、純然たるマジモンだぜ。まずはソコを受け止めてもろて』
ヤツはおずおずとって感じで頷いた。これで先に進める。

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その④

「みんなお待たせー、神社の人連れてきたよー」
犬神が力強い足取りで入っていくその教室の中には、男子生徒2人、女子生徒2人が既に待機していた。
「皆様初めまして。私、隣町の爽厨神社にて神職を務めております、平坂と申します」
平坂が4人に恭しく頭を下げ名乗る様子を、犬神は横目で笑いを堪えながら眺めていた。
「さて……この度はどうやら、厄介な霊障に巻き込まれたようで」
4人の生徒が何か言う前に、訳知り顔で言葉を続ける平坂に、生徒たちは息を呑んだ。
「そ、そうなんです! 俺達、終業式の日に、こっくりさんやって……それからずっと、誰のところでも変なことが起きてて……!」
男子生徒の1人がまくし立てるのを、平坂が片手で制止する。
「ええ、皆さんに憑いているモノについては視えておりますが……あまり『ソレ』について話さないように。『縁』が強まってはいけませんから」
「う、は、はい……」
平坂は説明を続けながら、携えていた鞄を床に下ろし、中の道具を取り出し始める。
「皆さんに憑いたモノは……言ってしまえば決して強い存在ではない。しかし、ある種の『儀式』の形で呼び出してしまったことで、存在が強まり皆さんとの縁で完全に現世に固定されてしまった」
平坂は話しながら、4人の生徒の周囲に糸と蝋燭で方形の結界を作成した。蝋燭に1本ずつライターで火を点け、結界の四隅に並ぶ蝋燭同士のちょうど中間の位置に円形の鏡を1枚ずつ、計4枚置き、更に四隅に盛り塩を施した。
「ね、ねえ神主さん、リホちゃんは入らなくて良いんですか……?」
女子生徒の1人が、犬神を指しながら恐る恐る平坂に尋ねた。
「別に私は何にも来てないもーん」
「……実際、彼女に『良からぬモノ』が近付こうとしている様子はありませんから。優先すべきはあなた方4人です。ここからは、私が良いというまで一言も話さないように」
生徒4人が頷いた。
「……では、始めます」

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ロジカル・シンキング その⑫

怪物は暴れ続けるうち、足下の瓦礫に躓き、横倒しに倒れ込んだ。建物の残骸はその質量に押し潰されて容易に崩壊する。
「ホタ! 目隠し!」
「はいはーい!」
アリストテレスの声に答え、フレイムコードが指揮棒よろしくスタッフを振り上げると、炎の渦はうねるように変形し怪物の頭部周辺を取り囲んだ。
(破壊力を意識した〈CB〉とはずらして、硬度と弾速に割り振った貫通力特化型のプリセット)
「〈Preset : Wedge Bullet〉。ホタ、目隠しと外壁一瞬消して!」
「うえぇ? い、いややるけどなんで……」
炎の壁が一瞬分断され、外の空気が流れ込んでくる。それと共に、弾丸のように一つの影が飛び込んできた。ドゥレッツァだ。
「そおおおおおおおおお、りゃああっ!」
勢いのまま、炎の覆いが取り払われた怪物の頭部にドロップキックを直撃させ、跳ね返る勢いで真上に跳躍する。
「カウント3!」
ドゥレッツァの合図に頷き、アリストテレスは〈WB〉と〈CB〉を連続で怪物に向けて射撃した。〈WB〉の着弾と同時に、ドゥレッツァの魔法によって衝撃が炸裂し怪物の頭部が大きく揺さぶられる。その揺り戻しと同時に、銃創を正確に〈CB〉が貫いた。
魔法弾は怪物の体内でその破壊力を発揮する。頭部、ひいては脳という生命と行動管制を司る器官を、外皮装甲の無い内側から直接破壊されたことで、怪物はその身を一度大きく痙攣させ、やがて脱力し動かなくなった。

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その②

「……私用か?」
「まあね。同級生が馬鹿やったっぽくて」
「お前やあの鬼子でどうにかできない問題なのか?」
「んー……ほら、『こういうの』で被害者の子たちに大事なのってさ、『形としての安心』なわけじゃない?」
「……『こういうの』とは?」
「うちの学校の馬鹿共がやったのがさぁ、“こっくりさん”なんだよ。分かる? 霊とか神様とか、そういうの絡みなの。だからさぁ、私、知り合いに神社の人がいるって言っちゃって」
犬神の話を聞いた平坂は溜め息を吐き、やけに重い犬神の財布を突き返した。
「身内の頼みだ、金は要らん。日時と場所だけ教えてくれ、こっちから向かう」
「わーい。じゃあ明後日。10時くらいが良いな。場所はねぇ……ね、スマホ持ってる?地図見せるから」
「言われれば自力で調べるが……」
言いながら、平坂は自分のスマートフォンを取り出し、地図アプリを起動してから犬神に手渡した。
「ありがとー。えっとねぇ…………、ん、出た出た。ここ、この中学校ね」
犬神から返却されたスマートフォンを見ると、画面には隣町の中学校の位置情報が表示されている。
「……それなりに遠いな。電車を使うか」
「キノコちゃんなら10分で走って来れるのに?」
「あれと一緒にするな」
「あ、そうだ。何か良い感じの衣装とか着てきてくれると嬉しいな」
「……それで電車に乗れと?」
「たしかにそれは恥ずかしいか。じゃあ何か良い感じの小道具だけ持ってきてよ。あるんでしょ?」
「……まあ、必要な道具を用意すれば、自ずと様になるだろう」

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ただの魔女:キャラクター②

・中山サツキ
年齢:15歳  身長:155㎝
魔法少女の1人。使用武器は長さ130㎝程度の短槍。得意とする魔法は2種類の空間転移能力。
1つは「自身を対象とした最大射程3mのショートワープ」。
もう1つが少し複雑。「①対象を『3つ』選択する(それぞれ対象A、対象B、対象Cとする)②対象Bを中心として、対象Aと対象Cが点対称の位置にいる時のみ発動できる③対象Aと対象Cの位置を入れ替える」というもの。かなり使いにくい。
基本的に悪いことをした人にもそれなりの事情があるはずだから、寄り添って理解して、更生してもらおうというスタンス。こいつに「殺すしか無ェ!」と思わせる奴がもし現れたら、そいつは誇って良い。そして死ね。ヒカリは寄り添った結果本気で殺し合うのが最適解だっただけだから例外ね。
ちなみに魔法少女としての通り名は【アイオライト】。名付け当時、ヌイさんは天然石にはまっていたらしい。

・中山ヤヨイ
年齢:13歳  身長:150㎝
魔法少女の1人。サツキの実妹。姉のことは普段は「姉さん」呼びだが気の抜けているときや動揺した際には昔からの「お姉ちゃん」呼びが飛び出す。
使用武器はライトメイス。得意とする魔法は対象の外傷治癒。その外傷に負傷者の意思が干渉しているほど、治癒の際の痛みは強く鋭く重くなる。たとえば極めて浅いリスカの治癒と事故によって起きた複雑骨折の治癒では、前者の方が圧倒的に痛い。
身の回りの誰にも傷ついてほしくないし誰にも死んでほしくないという善良で無邪気な望みが反映された魔法。でも勝手に傷つこうとする馬鹿にはお仕置きが必要だよね。気絶してたから良かったものの、ヒカリの腕と背中の傷は治す時滅茶苦茶痛かったと思います。
ちなみに魔法少女としての通り名は【フロウライト】。

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ただの魔女 終

“魔女”が目を覚ました時、最初に見たのは彼女を見下すヤヨイの顔だった。
「あ、おはようございまーす……この度はうちの姉上がお世話になりましたぁ」
「ぅ……誰……?」
身を起こそうとする“魔女”の眼前に、ヤヨイはメイスを突き付ける。
「悪いけど、動かないでいただいて…………。私は中山ヤヨイ。あんたが散々痛めつけてくれた中山サツキの実妹だよ」
「……へぇ?」
再び頭を下ろし、“魔女”はヤヨイと睨み合う。
「それで、妹が何の用? お姉さんの敵討ち?」
「別に……死んだわけでも無いし」
「何だ、サツキ死ななかったんだ。私が死んでなかったから、てっきりあっちが死んだものかと」
「あんた戦闘狂か何かなの? ……まあ良いや。用件はまあ、一つだけでさ」
「ふーん?」
ヤヨイの言葉を待つ“魔女”の顔面を、鎚頭が鋭く打ち据えた。顔面の骨が砕ける感触と共に、“魔女”の顔は打撃の勢いで横方向に弾かれる。
「痛……あれ? 痛くない……?」
ダメージが一切残っていないことに困惑する“魔女”の顔面を、更に正面から叩き潰す。
「ぐっ…………⁉」
メイスが持ち上がった後の“魔女”の顔にはやはり、傷の一つも無い。
「私の魔法だよ。『外傷の治癒』。流石に身内が殺されかけて黙っていられるほど私も優しくなくってさぁ。お姉ちゃんが友達だって言ってたからこのくらいで済ますけど……」
“魔女”の胸倉を掴み、引き寄せる。
「今度私の身内に手ぇ出してみろ。お前の精神がベキベキに砕けるまで殴り続けてやる」
「…………っはは。私、あんたのことも嫌いじゃないよ、中山ヤヨイ」
「……はぁ?」
「あんたの信念はきっぱりしてるから聞いてて気持ちが良いや」
ヤヨイから解放された“魔女”は、徐に立ち上がり、衣服についた埃を払った。
「そうだ。中山サツキに託ってくれる?」
「……何を」
「『富士見ヒカリ』。私の本名だよ。私だけ名前を掴んでるのは不公平だからね」
“魔女”――ヒカリはヤヨイに手を振り、屋上の落下防止柵を乗り越え、飛び降りた。
慌ててそちらに駆け寄ったヤヨイが見たのは、校舎の壁に貼り付いていた大型ゴーレムの手の中に納まったヒカリの姿だった。
「……あんのクソ魔女が」
ゴーレムに抱かれて去っていくヒカリに悪態を吐き、ヤヨイは変身を解除した。