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野良輝士市街奪還戦 その⑤

「よしよし、こっからは俺の出番だぜー。そぉー……りゃっ!」
宗司は這い寄ってきた小型のカゲ数体を薙ぎ払い、返す一撃で錐状に尖った側の鎚頭を別のカゲの頭部に叩きつけ粉砕した。こちらは頭部に核があったようで、ぐずぐずと溶けるように消滅した。
戦槌を構え直す宗司の隙を狙って4体のカゲが飛びかかったが、2体は灯の撃ったワイヤーに貫かれ、あとの2体は二人の遥か後方からの狙撃によってダークコアを破壊され、大気中に掻き消えた。
『よし命中』
「お、ナイス狙撃。真理ちゃん無事だってー?」
そう尋ねる宗司に親指を立て、灯はワイヤーで捕えたカゲを引き寄せ、体組織を破壊され露出したダークコアを改めて破壊した。
「そろそろヌシとの距離がキツイな。俺がしばらく気を引いとくから、雑魚は任せたぜ、宗司」
宗司に告げ、灯は鉄線銃型P.A.による立体機動でヌシの周りを回り始めた。
「おう頑張れー」
宗司は向かってくるカゲたちを数度殴り飛ばし続けていたが、狙いの荒い打撃は核を破壊できず、敵の数は一向に減らない。
「宗司ーカゲ減ってねえじゃねえかー」
ワイヤーで跳び回りヌシの注意を引きながら、灯が文句を言う。
「コアが小さいのが悪い」
「もっと頑張れよ……お?」
「どうした?」
「着いたみたいだ、援軍」
「ほう」
「しぃーーるど、ばあぁあーーっしゅ!」
小春が防楯を身体の前に構えながら突進し、カゲ数体を屋根から弾き飛ばした。

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野良輝士市街奪還戦 その④

遡ること数十秒、空中移動中、ふと地面を見下ろした初音は、地上を埋め尽くすカゲたちの中に不自然に空いた隙間を発見した。
(何だろ、あそこ……)
目を凝らし、その正体に気付くのとほぼ同時に、初音は灯の肩から手を放し、そこ目掛けて飛び降りていた。
カゲたちをクッションにして着地し、それらを順番に斬り倒しながら突き進み、遂に初音は小さな空白の正体に辿り着いた。
ビビッドカラーの迷彩模様に彩られた、金属製の折り畳み防楯。ひょいと跳び越えて内側に入ると、まだ幼さの残る少女が必死で押さえていた。
「ねえ」
「! え、誰、何⁉」
「ごめん、私は門見初音。あなたと同じ輝士だよ」
「わ、私は田代小春。逃げ遅れたんだけど、私のP.A.がこの楯で良かった……」
「ある程度は斬っておいたから大丈夫。それより小春ちゃん、突然で悪いんだけど、ちょっとついて来てくれる?」
「え、うん、はい」
小春が防楯を畳んでいる間、初音がカゲたちを牽制する。
「はい、準備できました!」
その声に初音が目を向けると、小春は防楯を折りたたんで、背中に背負っていた。
「うん」
通話アプリを起動し、真理奈と灯の通話に参加する。
『あの子なら大丈夫、途中で自分から離れてたから』
『大丈夫じゃねえ……』
『誰か生存者でも見つけたのかも』
自分が勝手に離れたことについて話しているのだろう。そう考え、初音は声をかけた。
「ごめん、勝手に離れて」
『うわあ⁉』
突然の大声に耳を押さえながらも、状況を伝えようとして電話口から灯の声が聞こえてきた。
『うわやっべ引き寄せちゃった』
(……今の大声でカゲを呼び寄せちゃったのかな)
「ちょっと待ってて、援軍連れて行く」
『あー?』
電話を耳から離し、小春の方に振り返る。小春はカゲたちから逃げるように背後のブロック塀の上に避難していた。
「ちょうど良いや小春ちゃん、ついて来て。私の仲間が危なそう」
「あ、りょーかいです」
ブロック塀から屋根の上によじ登り、2人はヌシのいる方角に向けて駆け出した。

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白と黒と青き星 〜第1話 出撃〜前編

STI校内、そして防災庁特定特殊生物対策班の施設内に警報が鳴り響き、対策本部は警報と共に電源が入る。
「東鏡都瀬田谷区に大型デネブリスの出現を確認。政府より緊急事態宣言発令に伴うプラン11要求!」
「了解。瀬田谷区全域の河川及び公道にフォトンウォール展開、住民避難を開始します。」
「陸自班、空挺班は東鏡I.Cを中心に第1種戦闘配置!」
指示を出す澁谷分隊長は私たちの通う東鏡第1分校澁谷校の校長でもある鳴海晃司。かつてスパークラーとして第1線で活躍したエースだった男だ。今もその戦術眼は衰えることを知らない。
【空挺班より報告します。目標は現在双子田万川駅周辺を侵攻中。幸い侵食は国道246号線、都道11号線に囲まれた範囲内で抑えられています】
「その範囲なら住民避難完了しています」
通信と本部隊員の声が次々に飛び交う。
【澁谷分隊、全隊員配置完了。目標捕捉しました。】
「了解。総員、飽和攻撃体勢に移れ!」
隊長はその全てを聞き逃すことなく、的確な指示を出す。
【『了解』】
【空挺班、攻撃準備完了。いつでも打てます】
【同じく陸自班、いつでも打てます】
「GPS誘導弾発射準備完了。いつでも打てます」
さすがに特殊自衛隊。行動は迅速で乱れがない。
「住民避難完了のため、政府の承認は省略。飽和攻撃開始。打てぃ!」
隊長のその合図で発射、着弾の轟音が鳴り響く。
先程まで見えていたモニターはその爆撃の衝撃のためか、それを防ぐためか映像が途切れている。
その轟音は数秒間続き、その間も本部は忙しなく誰かしらが動いているが音は掻き消される。
その中で隊長は何か言伝を受け、少し口角が上がる。
「飽和攻撃終了。モニター、復旧します」
そのモニターに映ったのは爆発によって先程までとは少し形状が変化したデネブリスの姿があった。しかし本部の面々に動揺する様子はなかった。
「実弾、光弾共に全弾命中。目標のコアに損傷、認められません」
「結構。第2フェーズ移行への時間は稼げた」
そう言うと通信をアナウンスに切り替える。
「全隊員に告ぐ、これより作戦を第2フェーズに移行する。総員、配置に着け!」
隊長は再び通信をSTI校内の出撃準備室に切り替え、問いかける。
「2人とも、いけるな?」

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野良輝士市街奪還戦 その③

それから更に2度空中を移動し、灯と宗司はカゲたちのヌシである大型個体と10mほど離れた家屋の屋根の上にいた。ヌシも彼らに気付き、眼球に似た器官をぎょろりと動かす。
「おーおー見られてるねー。行くぞ、灯、かどみー」
「おう」
灯は答えたが、その場にいない初音の返事は無い。
「……あれ、かどみーは?」
「え? そういや肩が軽かったような……あれ、いない。……どうすんのこれ」
「まあ……俺が倍働けば良いだけだしなぁ……」
ヌシの身体が少しずつ二人の方に向いていく中、灯の携帯電話から通知音が鳴った。
『ああ、もしもしアカリちゃん? 私だけど』
「あ、真理奈か。今ちょっとした問題が……」
『あー、かどみーのことでしょ? あの子なら大丈夫、途中で自分から離れてたから』
「大丈夫じゃねえ……」
『誰か生存者でも見つけたのかも』
『ごめん、勝手に離れて』
「うわあ⁉」
突然グループ通話に入ってきた初音に、灯が驚きの叫び声をあげる。その声に反応したのか、周囲のカゲたちが一斉に動き出し、灯たちがいる家に群がり始めた。
「うわやっべ引き寄せちゃった」
『ちょっと待ってて、援軍連れて行く』
「あー?」
通話こそ繋がっていたものの灯の疑問符に初音は答えず、灯は小さく舌打ちをして敵に相対した。

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野良輝士市街奪還戦 その②

「……まあ、真理ちゃんがそう言うなら、俺らからは何も言うこと無えよ」
「あ、宗司お前、『ら』って言ったな! 俺はまだ賛成してねえぞ!」
「じゃあ多数決で負けね」
初音も真理奈の意見に従うようで、灯もすぐ押し黙り、鉄線銃を強く握りしめた。
「……じゃあ行くぞ、宗司、かどみー。遅れんなよ、落ちて死ぬぜ」
「おう」
「了解」
3人は同時に駆け出し、屋上の落下防止柵に跳び乗り、勢いのまま空中に飛びだした。
「っしゃ行くぞコラァッ!」
灯が掛け声と同時に鉄線銃を発射し、約30m先のビルの屋上にフックを固定する。そのワイヤーを掴んで引き寄せると、勢いで灯とその肩に掴まったあとの二人の身体はそのビルに向けて飛んでいき、3人は地上を蠢くカゲと関わることなくその距離を無事に移動した。
「よっしゃ、もう1発頼むぜ」
宗司に言われ、灯はワイヤーを銃の中に巻き取りながら答えた。
「ああ分かってるよ。今ワイヤー回収してるから待ってろ」
「はいはい」
先にこの建物の屋上まで投げておいた戦槌型P.A.を拾い上げながら、宗司もそれに応じた。
「……あ、そういえば」
思い立ち、初音はポケットから携帯電話を取り出して通話アプリを起動した。
「もしもし真理奈?」
『はいはいこちら真理奈。そっち見えてるよー』
「そっち大丈夫?」
『そこから見える?』
初音が元来た建物の方を見ると、猟銃を杖に、右手でスコープを持ち、肩と耳で携帯電話を挟み、片脚で屋上への入り口の扉を押さえている真理奈の姿が小さく見えた。
「大丈夫じゃなさそうなんだけど⁉」
『まあそろそろ限界かなー。そういうわけで、1度切るからまたかけ直して?』
「え、あ、うん……」
「おいかどみー、次行くぞー!」
初音が灯の言葉に振り向くのとほぼ同時に、真理奈の側から通話が切られた。

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野良輝士市街奪還戦 その①

「沈んだねぇ……」
カゲの奔流に沈み、フォトンウォールで急遽封鎖された町の、カゲに浸蝕されきらなかったビルの屋上で猟銃型のP.A.のスコープから目を離し、その少女、下野真理奈は呟いた。
「沈んだなぁ……一瞬だった」
戦槌型のP.A.を杖代わりにして、真理奈とほぼ同年代の少年、和泉宗司も彼女の隣で賛同する。
「ヌシどこ?」
「あそこ、あの大きい交差点のところだよ、アカリちゃん」
「『ちゃん』って言うなこれでも男だぞ」
「良いじゃない男で『ちゃん』付けでも」
鉄線銃型P.A.を構えた少年、月舘灯に真理奈が受け答える。
「あそこ、あのビル、中学校の屋上、青い家の屋根。この順番で結構近付けるかな」
真理奈がスコープを銃から取り外しながら言い、灯も鉄線銃の狙いを定める。
「宗司、あの距離届くか?」
「ん、……おう、余裕だな」
「助かる。お前の武器重いからな、先に投げとけ。……よっしゃ、行くぞ」
「おう了解。かどみー、出番だぜー」
宗司に呼ばれ、屋内から彼より少し年上に見える少女が出てきた。
「結構上ってきてたよ。そろそろキツイかも」
「了解、こっちで対処するからヌシは任せたよ」
真理奈の言葉に、後の3人は信じられないといった顔を向ける。
「……え、何?」
「いやいや真理ちゃん、狙撃銃1丁でそれを言うのは無理あるぜ」
宗司の言葉に灯も頷く。
「その上こっちに指示まで飛ばすつもりなんだろ? 自分は1人しかいないって忘れてるところ無い? かどみーだけでも置いてった方が良いだろ」
「たしかその銃、最大装弾数5発とかじゃなかったっけ?」
『かどみー』と呼ばれた少女、門見初音も心配そうにしている。
「大丈夫! そっちは正直スコープでときどき覗いてれば良いし、そこの入り口結構狭いからちょっとずつしか出てこれないだろうし」
狙撃銃とスコープを左右それぞれの手に持ち、真理奈はウインクをしてみせた。

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伝搬・見物衆・難化

「よォお前、こんな往来ド真ん中で立ち止まってどうしたィ?」
「ん? 何だ友よ、俺に気付いてあっちに気付かねえとは、随分と視野が狭いな。葦でも覗いてんのかい?」
町をぶらついていると友人の姿を見つけたんで声をかけてみた。返事はいつも通り皮肉たっぷりだったが。
「んで、何を見ていた?」
「あれさね」
「どれさね」
「俺の指を見ろ」
「…………」
「馬鹿野郎、指を見てどうする。指差す先を見ろってんだよ」
「最初からそう言えよなー」
冗談を交えつつ奴の指す方を見てみると、異国の僧衣を纏った異国の少女が、たどたどしい日本語で何やら演説をしていた。
「何あの美少女」
「どーも異国の宗教について話しているらしいぜ」
「シュウキョウ……? 生憎と興味が無えな。俺が信じるのは祖霊だけだ」
「ばちぼこ浸かってんじゃねえか」
「で、どんな胡散臭い宗教だ? 見てくれだけなら若い男が黙って通り過ぎるわけが無いと思うんだが」
「ごめん俺異国の顔は好かねえ」
「俺もー。で、どんな宗教だって?」
「話聞いてやれよ」
「お前は聞いてたんだろ?」
「おう、割と朝早くからそこに立って、もう二刻は話し続けてるぜ。もう十回は同じ話してる」
「それで野次馬がお前1人か」
「うん」
「そっかァ……。で、どんな宗教だって?」
「だから話聞いてやれって」
「発音が聞きにくいんだよ」
「そんならしゃあねえや」
2人して笑っていると、俺の博打仲間が声をかけてきた。
「ようお前ら、何を笑ってんだ?」
「おー、お前俺達には気付いてあれには気付かねえのか」
友人にやられたことを、そっくりそのまま繰り返す。
「『あれ』? あれってどれだ」
「俺の指を見ろ」
「…………?」
「指差す先を見ろって話だ馬鹿野郎」