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非現実ーおとぎ話ってそういうものー ⑤

そんな2人のことを、ローズとリリーはもちろんよく思っていませんでした。とくにリズに対して、とても怒っていました。2人はいろんな方法でヘンリーとリズを邪魔しようとしましたし、リズにもたくさんの嫌がらせをしました。リズはとても優しいですから、なにかの間違いだと思ってとくに気にせず暮らしていました 。でもヘンリーは2人のいやがらせに気づいていました。そして、そのことをヘンリーが知らないと思ってローズとリリーが近づいてきていることにも。
王さまとお妃さまももちろん気づいていました。2人はリズとヘンリーがせっかく結ばれそうなのに邪魔をさせるわけにはいかないと、ローズとリリーを遠い田舎の別荘にしばらく泊まらせることにしました。素敵な男性方とのパーティーが毎晩あると聞かされた2人は、喜び勇んで出かけていきました。
さあ、これでヘンリーとリズの邪魔をする者はいなくなりました。2人はこれから、相手の良いところや悪いところを知り、長い年月をかけて受け入れあっていくでしょう。そしていつの日か本当に夫婦になるかもしれません。もしならなくとも、2人ならお互いをいいパートナーとして、生涯付き合っていけるでしょう。
誰もが結婚するだろうと思っていたカップルが破局するように、一生の友だちだと思っていたひとといつしか疎遠になってしまうように、先のことなんて誰にもわかりません。
けれど、願わくばすべてのひとが、そのひとだけの幸せで満たされていますように。

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非現実ーおとぎ話ってそういうものー ④

実は、ヘンリーは隣の国の王子さまでした。もうそろそろ、好きなひとを見つけて結婚しないといけない年ごろだったので、未来の奥さんを探しに、この国へやってきていたのです。
ヘンリーが王子さまだということを、王さまとお妃さまだけは知っていました。知っていたのに、娘たちにはあえて知らせずにいたのです。そのほうが、ヘンリーに1番ふさわしい、好きなひとを選んでもらえると思ったからです。ヘンリーは、もし3人のお姫さまの誰も好きにならなかったら、他の国へ好きなひとを探しに行くつもりでした。けれど、その必要はなさそうでした。
ヘンリーとリズは少しずつ仲良くなっていました。2人は家庭教師の日でないときにも、会って遊ぶようになりました。休みの日にはお屋敷の近くの森へ木いちごを摘みに行ったり、馬にのって草原を駆け回ったりもするようになりました。
そうやってヘンリーと遊びながらも、リズは人びとのためにつくすことを忘れませんでした。ヘンリーはそうしたリズの活動にも興味をもち、彼女についていくようになりました。リズと行動を共にするうちに、ヘンリーは国民からもとても好かれるようになりました。
リズもとても優しくて爽やかなヘンリーに惹かれはじめていました。でもリズは恋というものを知らなかったので、自分の胸のうちにある気持ちがなんなのかはわかっていませんでした。
それでも確かに、リズとヘンリーは惹かれあっていました。こうして2人の仲は、ますます深まっていったのです。

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非現実ーおとぎ話ってそういうものー ②

リズはこの世界でまれにしかみない、優しい心をもっていました。いつも、国の人びとの役に立ちたいと考え、そのために行動していました。
毎日勉強していたリズはいつしかとても賢くなっていました。そして、国の人びとのためになることを次々に思いつき、実行に移していきました。
リズはとても優しく、とてもかしこく、行動力がありました。そのうえ、国で1番、いえ、もしかすると世界で1番、美しかったのです。そして、お母さまに説得されて渋々承知した、それでも最小限におさえた化粧と、動きやすくて長く着られる方がいいから、という理由で作られた質素な服が、リズの美しさをさらにひきたてていました。
なによりも国の人びとが惹かれたのは、リズの飾らない言動でした。こうしてリズに、国の人びとは信頼を寄せました。加えて、リズは人気者でもありました。そしてその信頼と人気は絶大なものでした。
小さな男の子が、転んで擦りむいた膝を手当てしてもらいにきたかと思えば、年頃の女の子が恋の悩みを相談しにきました。奥さんは井戸端会議で仕入れた町の情報をリズに話して聞かせましたし、おじいさんたちも話し相手になってもらおうとやってきました。リズはそのどれもを蔑ろにすることなく、親身になって接しました。

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非現実ーおとぎ話ってそういうものー ①

昔々あるところに、小さいながらもとても裕福な国がありました。その国の王様も、もちろんたいへんなお金持ちでした。どのくらいお金持ちかというと、国中の人が押しかけてきても大丈夫なくらいの大きなお屋敷と、庭師がなにを植えれば土地が埋まるのかと頭を悩ませるくらいの大きな庭と、別荘5つとを持っていて、着るものも、食べるものも、何もかもが最上級のものばかりで、それでもなお、金と銀がお屋敷から溢れかえるほどでした。そしてその金や銀は、あと100年はなくならないだろうと言われるほど多かったのです。
さて、そんな大金持ちの王様には、1人のお妃様と、3人の娘がおりました。娘たちはそれぞれ長女をローズ、次女をリズ、三女をリリーといいます。 ローズとリリーはとても気が強くて、おしゃれが大好きでした。2人は、いつも自分が1番美しいと信じていました。けれど2番目のリズは、勉強が大好きでおしゃれなんて、てんで興味がありませんでした 。リズは毎日、お父さまがつけてくださった世界で指折りの家庭教師のもとで、勉強に明け暮れていました。
そんなリズを、姉のローズと妹のリリーは馬鹿にしていました。2人は毎晩ばっちりお化粧をして、きれいな服を着て、パーティーに出かけていきました。お母さまも、リズがあまりにもおしゃれに興味を示さないので、心配していました。このころは、若い女性はきれいにおめかしして着飾って、素敵な、家柄のいい男性と結婚するのが、上流階級のきまりだったのです。女性が勉強をすることは、望まれていなかったのでした。そうして、リズを姉や妹が馬鹿にし、お母さまが心配しても、お父さまだけは、なにもいいませんでした。そしてリズも、お父さまを1番に信頼し、お父さまが口うるさく言わないのを嬉しく思っていました。