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思春期

 ホルモンの分泌がさかんになる思春期に問題行動を起こす者が多くなるのは誰もが知っているが、問題行動を起こさない者もいる。なぜだろう。
 問題行動というのは基本的に男性的な攻撃性に由来するものである。
 男性的な行動パターンを示すかどうかは基本的には先天的な男性ホルモンの暴露量に左右されるが、後天的な男性ホルモンの分泌も、男性的行動パターンに少なからず影響する。血中男性ホルモンが脳に作用するからである。もちろん完全に脳が男性化するわけではないから、思考パターンは女性のままである。
 男性ホルモンが男性寄りの女性脳に作用すると、女性的な自己防衛心理、排他心理に男性的攻撃性が加わるため、いわゆるいじめ、言語での攻撃につながる。つまり脳と身体のアンバランスが問題行動につながるのだ。
 ところで僕は思春期だ。思春期の僕は当たり前のように恋をした。なぜなら思春期だからだ。
 で、僕はある日、決心して告白した。相手は同じクラスの同級生。好きになったきっかけは、可愛かったからということもさることながら、趣味が合ったから。まあ、思春期の恋なんて自己同一視の産物だってことはこんな僕でもわかってる。いやどんな僕なんだよ。そんな僕。
 彼女の返事はオッケーだった。が、すぐに別れた。彼女は僕と別れてしばらくしてから、一コ上のバスケ部のキャプテンとくっついた。
 恋に疲れた僕はいま、塾のない日は、お母さんの家事の手伝いをしたり、お父さんとCSの洋画を見たりして過ごしている。

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低血圧

 低血圧と朝の弱さに因果関係はないというのが医学界では常識らしい。
 果たして本当に関係ないのだろうか。
 脳には大脳動脈輪というのがある。
 脳への血流を維持するための血管である。
 大脳動脈輪の太さ、形には個人差がある。爬虫類なみに貧弱な人もいる。
 大脳動脈輪が貧弱だと、脳への血流量のコントロールが大脳動脈輪がしっかりした人と比べ困難となる。
 寝起きの悪さには、大脳動脈輪の貧弱さが関わっていることは間違いないだろう。
 寝起きが悪い人は頭痛持ちであることが多い。 
 血流量のコントロールが上手くいかないから頭痛も起きやすいのだと考えられる。
 そこに低血圧が加わるとどうなるか。
 そういうことである。
 低血圧でも、大脳動脈輪のしっかりした人は寝起きがいいのだろう。
 大脳動脈輪が貧弱であるということは、遺伝的なものなのか、胎児期の環境によるものなのかはわからないがとにかく、細胞分裂に問題があったということである。
 そもそも自律神経に問題があるから低血圧になるわけで、自律神経のバランスが崩れやすいような人は脳にも問題がある可能性が高いから、低血圧だから寝起きが悪いというのはあながち間違いではない。
 したがって、寝起きの悪い人はあまり長生きできないと考えられる。
 わたしの妻は朝が弱い。
 頭痛持ちでもある。
 中学を卒業後、食品工場に就職したが、朝起きれないから、と一週間持たずに辞めてしまったそうだ。
 それからアルバイトを転々とし、最終的に夜の仕事に落ち着き、足しげく通ってくれる客とつき合うようになり、結婚して、専業主婦となった。その客は、もちろんわたしだ。
 専業主婦だが妻は、朝食も弁当も作ったことは一度もない。昼過ぎまで、死んだように眠っている。
 朝が弱くなかったら妻はわたしと出会っていなかったわけだから、よしとせねばなるまい。
 ちなみにつき合い始めたころ、妻はまだ十七歳だった。妻とわたしは、二五歳違いだ。
 妻は家事は必要最小限のことしかやらないのだが、よしとせねばなるまい。

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コメディアンになることにした。なのでもう会社には行けない。これからどうやって食べていこう。まあ何とかなるさ。とりあえず朝飯を買いにコンビニへ。

したら書籍コーナーにコメディアンに関する本があるのを発見。手に取り、ページをぱらぱら。

 緊張からの緩和が笑い。緩和からの緊張は恐怖。

 自己客観化のできていない人間の演じるコメディは狂気でしかない。

 人間、未知のもの、理解のできないものには違和感を覚える。違和感は恐怖反応として表れる。無知な人間は冗談をきいても違和感しか感じない。無知な人間に冗談を言っても怖がられるだけである。

 神はコメディアンである。真のコメディアンとなったあなたは神である。

 神じゃなくてコメディアンになりたいんだけどな。本を戻し、おにぎりとお茶を購入してコンビニを出ると、高級そうなセダンが駐車場にぬるりと入ってきた。
 助手席から降りてきたのは元カノだった。僕は元カノに近づき、「僕、コメディアンになるんだ」と得意げに言った。すると元カノはこうこたえた。
「あらちょうどよかった。いま新人のコメディアンをさがしてるとこなんだ」
 元カノはそう言うと、バッグから名刺を取り出し、僕にくれた。何とか劇場支配人とあった。
「劇場の支配人なんて凄いね」
「あの人がオーナーなの」
 振り返り、運転席の男を指差して元カノは言った。男はぼんやり、煙草をくゆらせていた。元カノが、いつだったか好きだと言っていた俳優に似ていた。
「あさってオーディションがあるの。直接劇場に来て。その名刺の住所のとこ。絶対来てね」
「もちろんだよ」
「じゃあ指切りしましょ」
「なぜ指切り」
「だってあなた平気で約束破るじゃない。はいっ、ゆーびきりげんま……んっ? あなた小指短くなーい? つき合ってたころ全然気づかなかった。小指がこういうふうに第一関節より短い人って人見知りか空気が読めないタイプなんだよね。平気で約束破るわけだわ。小指が短いってことは胎児期に細胞分裂が盛んでなかった証拠なの。しかも左右で長さが違うじゃない。細胞分裂が正常に進まなかったできそこないなのね」
 買いものをすませた元カノはセダンに乗り込むと、男から煙草をもらい、吸い始めた。元カノが煙草を吸うのを見るのは初めてだった。
 セダンが駐車場を出て行くのを見送り、帰路についた。オーディションには多分、行かないだろう。元カノの言葉に傷ついたからではない。僕は喫煙者が嫌いなのだ。

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教典 後編

 鴨盛りからの連想ではないが、詐欺のカモにされているのかな、などと思いながら本を開く。まず目に飛び込んできたのは、幸福になるための三か条という文言。

・他者に親切にしても見返りはないか、あったとしても忘れたころにささやかなお返しが来るだけです。短期的に確実な見返りが欲しい場合はクレームをつけましょう。

・この国は女性原理で動いている女性的な社会です。女性は守り、守られるという助け合いに喜びを感じ、助け合いのコミュニティを侵害しそうな存在を排除しようとする生きものです。男らしさにとらわれ、一匹狼でいたら出世はできません。自分に合った派閥を選び、自分をおびやかす存在は、つげ口、いじめなどで撃退しましょう。

・理想を語る人間を相手にしてはいけません。理想を語る人間は理想が実現しても満足できない異常者なのです。目の前の現実を処理することに長けた人間を応援しましょう。

 しばらくぱらぱらやって顔を上げると、ギャルふうが感想をききたそうな表情でわたしを見ていた。
「信者はどれくらいいるの?」
「日本人の半数以上が信者です」
「そうか」
 冷やを飲み干し、明日にでも教会に行ってみるよ、とわたしはギャルふうに言った。老後もこの国で暮らすつもりだからだ。

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教典 前編

 昼近く、ラジオをききながら散歩をしていると、熱燗の恋しい季節になった、なんてアナウンサーが言うもんだから、行きつけの蕎麦屋に入ってしまった。テーブル席が埋まっていたので座敷に上がる。わたしは座敷だとつい正座をしてしまいあまりリラックスできないのだが、老舗の美味い店なのでよしとする。座敷の残りのテーブル席も熱燗とつまみを待つ間にすぐに埋まる。
 従業員に、相席を頼まれる。焼き海苔をつまみながらちらり。ギャルふうの、はたち前後の女性。鴨盛りを注文すると、バッグからファイルを取り出し、読み始めた。
 冷やに切り替え、そろそろ盛りを注文しようかと考えていると、鴨盛りを食べ終えたギャルふうが声をかけてきた。
「あの、このへんのかたですか?」
「ええ、そうです」
 わたしはこたえた。気軽に声をかけられるのは老人の特権である。
「わたし、アキバ教秋葉原本部のシスターです。教会の教えを広めるために今日はこの地域をまわってまして」
「カトリックではないので」
 わたしがそう言うとギャルふうは、「キリスト教とは無関係です。こちら教典なのですが、どうぞご覧になってみてください」と、革装の本をわたしによこした。