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音が繋ぐ

「おはよう」
振り返ると君がいる。
おはよ、と返しつつスマホの画面を君に向ける。
「俺の好きなバンドじゃん!知ってるの?」
当たり前でしょ、すすめてきたのは君なんだから。
知ってるよ、と何もなかったように話すけど
つまりは、あの日の会話は忘れられている訳で。
少しだけ、ほんの少しだけ、寂しくなる。
「あぁ!ツアー情報出たんだよね!!!」
分かりやすく高揚する君を愛しく思う。
愛しい、なんて言うと好きな人みたいだけど
いやいや、彼のことは好きだけど、
なんか、そういうのじゃないんだよなあ。
「え、え、いつがいい?」
唐突な君の言葉にえっ、と言葉に詰まる。
一緒に行くの?と可愛げのない返しをする。
「え、行こうよ!」
君のそのありすぎる行動力が苦手という人もいると思うし、正直始めは僕もドン引きだったんだけど。
その行動力に、あの時の僕は救われたから。
溢れるワクワクを抑えるように
チケット、当たるといいけど
って口を尖らせてみた。
「神社通うわ!毎日!!!」
わけのわからない返しをしてきた君と
大好きなバンドのライブへ行って
それがきっかけで音楽にのめり込んで
僕ら2人がギターを持って、ステージに立つのは
もう少し先のお話。

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理外の理に触れる者:魑魅魍魎の総大将 その③

人型から剥ぎ取った霊体組織を齧りながら、月は人型から示された道を進んでいた。
「うん……食感は良い……けど味は薄すぎるし、何より量が足りない……」
自分の目方の半分程度はある霊体をみるみるうちに腹に収め、最後の一かけらを飲み込む頃、漸く目的地に到着した。
「おー……おっきい家」
固く閉ざされた門を蹴り、施錠を確認してからその上を軽々と跳び越え、前庭に蔓延る雑草を枯れ朽ちさせながら進み、ほぼ何の障害も無く母屋に到着した。
「ノックしてもしもーし。ヤバいのがいるってんでご相伴に与りにきましたー」
引き戸の入り口もまた当然のように施錠されており、月はそれを蹴破って屋内に侵入した。
屋内には幼い少女のすすり泣く声が響き渡っており、月はその音源を探して屋内をしばらく歩き回る。
「ん、ここか。トツゲキー」
やがて音源たる一室を発見した月が、現在彼女が居る廊下と室内を隔てる襖戸を蹴破ると、30畳ほどの広間の中央付近で幼子らしき人影が入り口に背を向けて蹲っていた。先ほどから聞こえてきている泣き声は、その人影から発されているようである。
「……擬餌よ、一つ教えておくと」
月は一足に人影の背後まで跳び、それが振り向く前に頭部らしき部位を捕え、床面に叩きつけ取り押さえた。
「今どき、廃墟で泣き声が聞こえて心配して近付くような奴などいないぞ」

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親友3

いつも何かを拒むような顔してる君が
「遊びに行こうよ」って言ってきた。
学校は?なんてつまらない返しをしてしまったけど
別にいいじゃんって何にもなかったみたいに
君は学校とは真逆の方向へ歩いていく。
小走りで追いかけて、どこに行くの?って聞いた。
「どこがいい?」
少し考えて、どこでもいいよと笑う。
「じゃあ映画にしよう」
みんなが授業を受けてる時間に
僕らはアクション映画を見た。
ホラー映画を見た。
恋愛映画を見た。
映画日和だねって2人で笑った。
きっと君が、今日映画に誘ったのは
学校をすっぽかして連れ出してくれたのは
僕の何かに気づいていたからで。
そういうやつなんだよなあって
胸がギュッとして少しだけ、泣きそうになる。
夕日が沈み始めて、学校が終わる時間帯。
今日はありがとう、なんて呟いてみたけど
なんのこと?って笑われた。
きっと最近の、僕の、口癖の真似だと思う。
学校サボっちゃったね、なんて僕はまだ優等生。
「学校なんて、別にいいよ」
思い出に、なった?って君が笑いかけてくれるから
思い出に、なったって笑い返してみる。
明日も僕らは歩道橋の真ん中で待ち合わせをして
明日はきっと学校へ行く。
「また、遊ぼうね」
そんな日々が、なぜか泣きたくなるほどに
嬉しくて、大好きなのは僕だけかなあ

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理外の理に触れる者:魑魅魍魎の総大将 その①

「や、いかろ姐さん」
とある夕暮れ時、薄暗い路地裏にて声を掛けられ、その女性は振り返った。
「あらルナちゃん。学校の帰り?」
『いかろ姐さん』と呼びかけられたその女性は、よく見知った少女の姿を見とめ、視線を合わせるように腰を曲げながら答えた。
「そそ。ところで私、お腹空いちゃってまして……いつもの、お願いできます?」
鋭い牙を口から覗かせてニタリと笑う月に対し、いかろもとい伽はしばし考え込んでから答えた。
「……指揮者さま直々のお願いですし、まあ良いでしょう。不肖ながらこの”霊能者”伽、特別割引でお受けいたしましょう」
「わーい。今おサイフに300円しか持ってないんだけど、それで良い?」
「いえ、お金を戴くなんてとんでもない。ただ、こちらのお仕事を少しばかり手伝っていただければ……」
「あー……まあ軽いオヤツをはさむのもアリかな。おっけおっけ」
月の返答に頷き、それから伽は数秒黙り込んだ。瞑目し、集中力を高めるように深呼吸を繰り返し、不意にかっと目を見開く。それと同時に彼女の目の前に、どこから現れたのか黒く禍々しい靄のようなものが集まり、やがて人間を模した形状に安定していった。
『ヤァ、ドウシタイオ姉サン。手デモ借リタイノカイ?』
その人型は楽しそうに、ガサガサとした気味の悪い声で問いかけた。