×××××中学校の七不思議 甲斐田正秀 5
「お前、信じとらんな」
「確かに、にわかには信じがたい。証拠はないのかよ」
「証拠ォ?ウーン……」
甲斐田は首を傾げる。こう言われて何も言えないとなると、何だか胡散臭く思えてきた。
やっぱり嘘か。
白けて踵を返しかけたたとき、
「仕方ないのう」溜息を吐いて無言で手招きした。やっぱり俺はこの子供が霊か否か気になって仕方がなかった。どことなく怪しいと思ったが自分の好奇心に抗えるほど、俺は大人ではなかった。
空き教室に入ると、甲斐田の方もこちらに歩み寄り、目の前までやってきた。
甲斐田は今、友達と雑談するとき程度の距離にいたものの、身体が透けて向こうの壁が見えるだとか、地面から浮いているだとか、そんな様子は見受けられない。だからまだ半信半疑だ。
「ちと手ェ触ってみぃ」
甲斐田は右手を差し出した。俺は少し躊躇しつつ、不愉快そうに(まだ何もしていないし何も言っていないのに、だ!)じっと目を閉じる少年の顔をチラチラ覗きながらその手に触れようとした。
触れられなかった。
代わりに、甲斐田は「うう……」と唸り、俺の左手は空を切った。
信じられない。嘘だ。
俺はもう一度甲斐田の手に触れようと試みるが、何度やっても何も感じない。それを5回程度繰り返したところで、触れられぬ手の持ち主は身震いをしてそれを引っ込めた。
「もー分かったじゃろーが!」
「あーうん」
「……面白がりおって……」
甲斐田は恨みがましく呟いて俺を一瞥した。気を悪くしたらしい。そっぽを向いてしまった。少し申し訳ない。
「いや、それはごめん。あんた、触られんのやなんだ」
「まあな」
「なんで?潔癖症なの?」
「別にそんなこたぁないが……お前、調子乗りすぎって言われるじゃろ」
「なんで知ってんだよ」
「……素直な男じゃのう」
「別に良いじゃんかよ」
……何か感心された。気に食わないな、さっき申し訳ないといったのは撤回しよう。
しかし機嫌を戻したようなので安心する。奴も奴で、素直で単純だ。