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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その⑨

「あれ、誰だっけ?」
自身の頭上から顔を覗かせるタマモに、ロキが尋ねる。
「誰だったかなー……あ、思い出した。ガノの野郎だ」
「あー。助けに行く?」
「別に良いだろ。ダイジョブダイジョブ、あの程度の数なら何とかなるなる」
不意に、ガノとタマモの目が合う。
「あ! そこにいる2人! 見てないで手伝え!」
「いやァ、遠慮しときますよ。ほら、邪魔はしないんで、ガンバ」
「なっ、ふざけんなこの野郎!」
ガノはエベルソルの1体の突進を楯で受け止め、ライフル銃でその頭部を撃ち抜く。その隙に残りの3体に一斉に飛びかかられ、瞬く間に組み伏せられた。
「ぐあー⁉ マジで助けて! 死ぬ!」
助けを求めるガノのことは無視して、タマモはロキに目を向けた。
「……ロキ、じゃんけんしようぜ」
「何賭ける?」
「俺が勝ったらあいつのことは諦めよう。お前が勝ったら仕方ない、拾える命ってことで」
「分かった。チョキ出すね」
「おっと心理戦。『最初はグー』無しでいきなり『じゃんけんほい』で行くぞ」
「分かった」
「「じゃーんけーんほい」」
自分の出した『グー』を見つめ、大きく溜め息を吐き、タマモはガノに目を向けた。
「自分で言ったことだからなァ……おいガノ、土下座して頼めば助けてやるよ」
「テメエ、よく仰向けに倒されてる奴に土下座要求できるな⁉」
「冗談だよ冗談」
タマモとロキの光弾によって、ガノに群がっていたエベルソルらは全滅した。

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その④

「仕方ないなァ。軟弱なお前のために、一度休憩するとしようか。畜生、まだ暴れ足りないってのに……」
もう1枚のパーカーを脱いで腰に巻きながらそうぼやく種枚に溜め息を吐き、鎌鼬は思い出したようにポケットから缶コーヒーを取り出し、栓を開けた。
(…………あ、師匠。また角生えてる……)
コーヒーを飲みながら、鎌鼬は苛立ちながらシャドウボクシングをする種枚の姿をぼんやりと眺めていた。彼女の額、両の眉の上には、頭蓋が内側から盛り上がったような短い角が生えており、また口の端は通常の倍ほども裂け、肉食獣のような牙が隙間から覗いていた。
(あの人、興奮が極まるとちょっと見た目が人間から外れるよなぁ……。俺なんかよりよっぽど生きてちゃマズいんでは?)
飲み切ったコーヒーの空き缶をどうしようか少し悩み、鎌鼬はそれを結局元のポケットに仕舞い直した。
「ンア。休憩は終わったかい?」
鎌鼬の動きを目敏く見とめ、種枚が振り返る。その全身からは濃い湯気が立ち上っていた。
「いや、もうちょいゆっくりさせてくださいよ……」
「チィ、つまらん」
「師匠、もう少し落ち着いてもらって……」
その時、重い衝撃音と振動が二人の下に届いた。
「ッ⁉ 師匠、今のって!」
音のした方向を反射的に見た後、鎌鼬はすぐに種枚の方に振り返る。彼女の表情は、鎌鼬の予想通り残虐に歪んでいた。
「今日会った奴、どいつもこいつも軽くて物足りなかったんだ」
そう言って瞬間移動並みの速度で音源に向けて駆けて行く種枚を、呆れたように溜め息を吐いて鎌鼬も追いかけた。

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少年少女色彩都市・某Edit. Agitation & Direction その⑧

「ロキ、今何時だ?」
「16時半。そろそろ演奏会も終わりかな?」
再び市民会館正面に戻り、新たに出現したエベルソルの群れに対応しながら、タマモとロキは軽い口調で話していた。
「そッかー。それじゃ、お客が出てくるまでにもうちょい片付けとくかァ」
「あいあい」
応戦を続ける2人の下に、ぬぼ子が現れた。
「二人とも、さっきはありがとう。こっちはもう落ち着いたから手伝いに来たけど……平気そう?」
「あっ、姐さん」
「ぬぼさん。そんな事無いです、助けてください」
「はいはい。じゃあちょっと退いてね?」
ぬぼ子が前に出て、巨大なブロックを生成する。それを更に数十個に複製し、一斉にエベルソルらに叩き込む。コンクリートで舗装された歩道が質量と速度によって粉砕された代わりに、正面から襲い来る大群も1体残らず押し潰された。
「……なァぬぼ姐さんどうすンだこれ。帰りとかエグい歩きにきィぞ」
「いやぁ……その……とりあえずは私が描いて応急処置、かなぁ……」
「んじゃ、頼みますよ姐さん。俺らは絵なんか描けないんで、ヨソの後片付けに行きますからね」
「それじゃ、お疲れ様です。ぬぼさん、頑張ってください」
2人はぬぼ子に頭を下げ、他のリプリゼントルの持ち場に向かった。
多くの場所で、戦闘は既に終了しており、僅かに残ったエベルソルにも、余力を残したリプリゼントルが対処している。
「俺らは暇だなー……」
「ねー……」
彫刻の個展が開かれているとある展示室の前を通過しようとしたとき、2人の間をレーザー光線が通り抜けた。
「……何今の」
「……多分、この辺で戦ってる奴がいるんだろうなァ……」
展示室の陰から顔を覗かせると、ガラスペンで生成したライフル銃と大楯を装備したリプリゼントルが、4体のエベルソルと交戦していた。

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少年少女色彩都市 Act 12

少女が立ち去った所で、典礼の姉は叶絵に向き直った。
「ごめんなさいねあなた…戦闘に巻き込んでしまって」
本当に、ごめんなさいと典礼の姉は深々と頭を下げる。叶絵はそ、そんなに頭を下げなくてもと慌てる。
「実際わたしだってリプリゼントルの戦いが気になって飛び出してきちゃっただけだし、こうなった原因はわたしに…」
叶絵は元の姿に戻って言うが、典礼の姉はいいえ、私が悪いのと頭を下げたままだ。
「私がさっさと引退しないから…」
典礼の姉はそう謝り続けるが、その様子に痺れを切らした、いつの間にか元の姿に戻っていた典礼が姉さん!と声を上げる。典礼の姉は顔を上げた。
「早く引退してたらって、もしそうしてたらこのピンチを切り抜けられなかっただろ!」
ぼくだけじゃなくて彼女もどうなってたか分からないんだぞ!と典礼は語気を強める。
「…だから、そんなこと言うな」
姉さんが謝っているのを見てたらぼくだって嫌な気持ちになると典礼が言うと、典礼の姉は典礼…と呟いた。
「…という訳でだ」
この窮地を救ってくれてありがとう、と典礼は叶絵に向き直る。
「しかしぼくらが無理矢理君を戦わせてしまったのも事実だ」
これ以上、君も戦いたくないだろう?と典礼は続ける。
「もし君がこれ以上戦いたくないのであれば、そのガラスペンをぼくらに返して…」
「いや、いいです」
典礼が言いかけた所で叶絵は遮るように断る。
「わたし、リプリゼントルとして戦います」
叶絵は毅然とした表情で言い切った。どうして…と典礼が尋ねると、叶絵はだってと返す。
「わたしにできて他人にはできないこと、絵を描くこと以外にも見つけられたから」
叶絵は手の中のガラスペンを見つめながら続ける。
「だから、リプリゼントルとして戦いたい」
皆さんと一緒に…!と叶絵は顔を上げる。心なしかその表情は明るく見えた。
「そうかい」
それが君の意志なら、ぼくは尊重するよと典礼は笑う。
「分かったわ」
それなら私も、全力でバックアップすると典礼の姉も頷く。
「ありがとう、ございます!」
叶絵は満面の笑みを浮かべた。

〈少年少女色彩都市 おわり〉

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