「10年前にもいたということ?」
声に出すつもりはなかったのだろう。少し驚いた表情を見せた。しかし、イエスノー問題はさすがにはぐらかすことはできない。
「ええ。」
「ヴァンパイア?」
少し突っ込んで聞いてみる。すると、チャールズは答えてくれた。
「ヴァンピール、ですね。」
女性ということだ。
「それでは、お嬢さまの気配を察知したのはヴァンパイアの方なのですね。」
瑛瑠は頷く。
「ウィッチの魔力をキャッチしたアンテナと、八重歯が証拠。
ただ、いまいち信用に欠けるの。」
「……何故?」
「第一に礼儀がなっていません。そして、私の前の席を気を付けろって言うの。でも、前の席の方は彼よりよっぽど人柄はいい。言いがかりだと思ってしまう。」
チャールズは少し考え込む風だ。
開け放った窓から、一陣の風。
熱気と湿気を帯びた、その風は、
机の上の散逸した、プリント一枚、
吹き上げて走り去る。
君の面影を見た、6月も下旬。
また君を思い出す。
忘れたはずなのに、思い出す。
忘れなきゃならないのに、
プロペラみたいにぐるぐる回って、
心に吹いた一陣の風。
また君を思い出す。
朝、君の「おはよう!」がなくて寂しくなる
授業中、眠いのに一生懸命ノートをとってた
君の姿を思い出してしまった
教室にはなじんできて、仲のよい友達もできた
でも、どうしても君の姿を思い出してしまう
あの頃は気づいてなかった この気持ち。
離れてから時間がたった今、気づいてしまった。
もう、どうしようもできないのに…
あぁ、君に会いたいな…
会っても何もできないけれど。
左見て右見て
もう一度
あれ?上は確認したの
上に何もあるわけないでしょ
ちゃんと見なきゃ駄目よ
君の頭上に鉄骨が落ち乱れた
だから、微弱なその気配を掴むことは至難の技であるということ。
それと同時に、魔界内で1番の優れたアンテナを持つ,空気を読む種もまた思い当たる節があって。
「まだいたのですね、そんな優秀な方が。」
まだ、ということは
どこまでも
長く
広く
未来まで
誰よりも
強く
伸びる
そんな虹でいたい
輝く未来
いつまでも
光溢れる
そんな未来を
生きる虹でいたい
どこまでも
伸びて行く虹
夢を
愛を
憧れを
悲しみを
喜びを
忘れない
虹で
いたい
僕は一人になることを選んだ
人からの誘いも断った
僕は孤独になった
誰も話しかけてくれなくなった
僕は寂しかった
でも僕の気持ちをわかってくれる人が居なかった
僕はあのときに戻りたくなった
でももう手遅れだった
結局は、ないものねだりだね
君の笑顔が眩しくて
僕には届きそうもなくて
君に伝えたい
この想い
一人で帰った
あの小さい路地は
今の僕には宝物だよ
君と初めて話した
あの路地は
いつもとなんだか
ちがくて
キラキラしていた
あの日から僕らの
冒険が始まった
大きな森の
大きな樹木に
手を伸ばし
てっぺんまで
登ったりしたね
でもそんな時間も
一瞬で
僕らに壁が
立ちはだかって
登り切ることができず
君と話す事もなくなってしまった
でも僕は君の笑顔に今までずっと
助けてもらった
君の笑顔が眩しくて
僕には届きそうもなくて
守りたい君の笑顔を
ありがとう
ふと思い出したんだ
あの思い出の青い空を
どこに行ったのか
あの思い出のノート
君と見上げた青い空
君と書いたあのノート
どこに行ったのだろう
扇風機に向かって、口を開く。
「ワレワレハウチュウジンダ」
ノイズのかかった声が教室に消える。
友達からガキかよって言われるけど、
童心は忘れたくないからね
切なく悲しく夜を舞う
あなたは何よりも美しい華だった
誰よりも
強く
真っ直ぐな
枯れることを知らぬ華
いつまでも夜に舞う美しい華のままで
枯れないように
いつまでも
守りたい
君は新しい風を感じさせてくれる
あの、天上の近くにいるやつとは違うんだ
決して縦に首を振らない
そんな意地っ張りな君も
大好きだ
チャールズは瑛瑠の前にハーブティーを置く。
「上出来ですよ。それでもひとり見つけたのですね。」
微笑むチャールズの様子を見るに、予想していたのだろう。魔力持ちを見つけることが困難だということに。
褒めるチャールズに、瑛瑠は首を振る。
「教えてもらったようなものだもの。私は何もしていない。私がウィッチだと相手は気づいて、話しかけてきたの。」
チャールズは驚く。
「すごいですね。この状態の、しかもウィッチの魔力をキャッチするだなんて。」
ウィッチ,ウィザードは人間に1番近い種。そもそも人間という存在があまり知られていないため、魔界でこのように表すことはないのだが、一部の上級貴族の常識ではある。
自制がききやすく勝手が良い、保守的であり、兼ね備えている。その分、力自体が弱い傾向にあるウィッチ,ウィザード。
だから、争いになる前に避ける方法を考える知力に長けたということができ、一方で力では押し負けてしまう。
このような特徴のため、相性の悪い種族からは、小賢しいなどと煙たがられることもあると耳にしたことがあった瑛瑠。そこらへん、チャールズは人一倍だと思ったことには口をつぐんでおこう。
全ての食器をさげ終え、もう一度いすに座ると瑛瑠は聞く。チャールズは慣れた手つきでお茶の準備をしている。ティーポッドにお湯を入れると、優しい香りが漂ってきた。
「改めて来た、高等部についての説明ですね。」
たとえ嘘だとしても、ここまで自然に振る舞うようなことは教えてくれない。そろそろ瑛瑠も学んだ。
だから、今は目の前のことだけ見つめることにする。
「じゃあ、私から報告するね。
今日の指令は2つ。魔力持ちを見つけることと、人間に馴染むこと。
後者は思っていたよりも平気みたい。私も人間も、ほとんど変わらないということを知った。いいえ、まったくといっていいほど変わりない。だからこそ、前者は相当難しいのだとわかった。ほぼ除外していい人たちを見つけるのは楽だったのだけれど、確信をもって魔力持ちだと言えるのはひとりだけ。……正直、侮っていた。」
なにもかも投げ捨てるように
勉強もせずのんびり寝ていたい
でもそれだと夢が叶わない
そんな葛藤に悶えつつ
扇風機の緩やかな風が愛しくて
頬を滑る緩やかな風に全てを委ねて
私はゆらゆらと揺れるカーテンを見ながら
深夜0時 月明かりに照らされた夜に
少し窓を開け 今宵も微睡む
薄青いひかりのなかで、只ずぶずぶと意識をどこかに残したまま、目を閉じて息をしていたい。
キミは太陽
ボクは月
キミは全てを照らす
ボクは全ては照らせない
キミは綺麗だ
ボクは赤黒く染まってしまった
キミは本当は弱い
ボクは強くない
キミは強がりだ
ボクはキミを支える
キミは歩く
ボクは後ろから背中を押すよ
キミは行く
ボクはここにいる
キミの、とまり木になるために