今朝は雨降りで
昼過ぎに止んで
蒸し暑かった
今日も昨日も
梅雨が明けない
とか、夏がきた
とか
おやすみを云う
ためにおはよう
を云わなきゃ
資格がないだ
なんて、
もう
おやすみ
きみがいない世界で生きてゆけないなんて嘘だ
永遠になり損ねていただれかの見たかったゆめ
わたしの身体は酸素と水といくつかの栄養素で
なにひとつ欠陥なく地上で呼吸ができてしまう
言語を失ったにんげんに価値なんかあるのかな
いつか風のふく夜に話したことをおぼえている
言葉でさえ伝えることをためらってばかりいた
ちっぽけないきものをきっときみはあいしてた
ばかみたいだと鼻でわらっても皮肉はうまれず
死んでいないことの証明のためにきょうも泣く
そこで初めて自分が泣いていたことを自覚する。
「何でだろう……」
寝ていただけだ。
「夢でも見たのかもしれない。」
何も思い出せないが、そう口にするとそんな気がする。それに、チャールズの心配の色が深まるばかりだ。夢のせいにしてしまえば楽である。
「すみ、ません……」
そんな瑛瑠の気持ちとは裏腹に、チャールズは項垂れる。
今度驚くのは瑛瑠の番だ。
「……どうして謝るの。」
謝られるようなことをした覚えはない。泣いて起きたことが、チャールズのせいだとでもいうのだろうか。
伏せる碧い眼は雲って見える。
もちろん、背は断然瑛瑠の方が低いので、覗きこんでみた。
瑛瑠の顔に、チャールズの影がかかる。
視線がぶつかる。否、瑛瑠が視線をぶつけにかかる。
「私は、大丈夫だよ。」
雲って見えたその眼に、瑛瑠の顔が映り込む。
すると、ふっと表情を和らげたチャールズは、再びくしゃっと頭を撫でた。
「それなら、安心です。」
うん、戻った。
季節外れのくしゃみを一つ
君への想いも吹き出して
酸素が想いとなって足りなくなり
酸欠で死にそうになる
ノックの音で目が覚める。薄暗い。
「お嬢さま?いらっしゃいますか?」
体を起こす。眠っていたらしい。
「お嬢さま?」
怪訝そうな声の主はチャールズ。
瑛瑠は、まだ完全に働いていない頭で応える。
「……います。」
ほっとしたように扉越しにチャールズは言う。
「大丈夫ですか、もう夜になるというのに全く音がしないので心配しましたよ。」
瑛瑠は立ち上がって扉を開く。
「ごめんね、眠ってしまっていたみたい。」
乱れているであろう髪を手ぐしでとかしながら出ると、チャールズは明らかに驚いたようにした。
「チャールズ?」
顔に変なものでもついているのだろうか。そう、尋ねようとするよりも先に、チャールズが瑛瑠の頬に手を伸ばした。
「どうしたんですか。」
消え入りそうな、心配一色の声。
形のいい親指が、目元の雫を掬う。
「なぜ、泣いていたんですか。」
心海深く、底見えぬ
溺れているか、浮かんでいるか
空を見るか、海面下を見るか
まして、何にも知らない奴らには
私の言葉はわかるまい
私の言葉はわかるまい
君の声
聴こえてるのに何故
見えないんだろう
この思いも届かない
全て幻
全てが蜃気楼のように
君がいたあの日さえも
どうしてと嘆く事しか出来ないまま僕も
幻になって行く
何もかも儚く包まれ消えていく
深く深く
*
「はやくきて!はやくはやく!」
「待ってください、パプリ。そんなに焦らなくても、お花は逃げないよ。」
少女というには幼すぎる女の子が、後ろからついてくる少年に手招きをする。
咲き誇る花たちが眩しい。
ここは、先を行く女の子たっての願いで決まった行き先、お花畑。
花が 蝶々と二人を歓迎する。
「おそいっ!おいていっちゃうんだからね!」
ぷうっと桃色の頬を膨らませ、走り出す。肩についた蜂蜜色の髪が揺れる。
「ちょ、危ないから!」
女の子の足がもつれた。
少し焦って追いかける。
さすがに、5歳の少女には悠に追い付いた。
「ごめんなさい……」
肩に手を置かれ、止まる女の子は反省した様子で。
「怪我がなくてよかったです。」
にっこりと微笑まれることで、女の子もくすぐったそうに微笑う。
「行きましょう。」
腕を差し出すと、女の子はその腕に抱きついた。
「うん!大好き!」
少年は、その子の頭をくしゃっと撫でた。
*
朝、起きるのはとても億劫だ
けど、今朝は雨降りだから
なんて、誤魔化してみて
それでも、頭は重たい
なんだかな、 まだ
夜みたい だ、ね
夜と朝の僅かな隙間
山肌にまとわりつく靄を観察するのが好きだった
雲が光を孕んでいく速度で 滅びていく静寂
たち登る生命の気配
産声をあげたなら満たされるべきだ
美しいものだけで弔鐘まで
悲しみや痛みは火にくべてしまえ
その灯を掲げて闇を進め
明日が来ないとしても
変わらずに過ごせる今日を持つことを
幸福と呼ぼう
幸いへ向かえ 幸いへ向かえ
いつか 歓びの野に咲き誇るすべての花をまき散らして遊ぼう
同じ瞬間は二度とは来ないぜ
幸いへ向かえ
小さな小さな船
方角は正しいのか
強い波に
何度も何度も
飲み込まれそうになった。
嵐の夜
きみは言った
僕達らしく
進んでいこうと。
考えもしなかっただろう
あんな
小さな小さな船
いま
大海原で戦っていること。
僕達は何を掴んだだろう
結果論なら
僕達は敗者だ
それでも僕らは『何か』を手にした
ひとつの熱い想いだ。
彼らと同じ船に乗り
襲いかかる波にも
迫りくる嵐にも
僕達みんなで戦った
僕達はまた『どこか』を目指して
進む。
僕は忘れないだろう
進め
いけ
前へと
叫んだ日々を。
からかわないで
わたしの言葉を
ちらばってる言葉を
あたまのなかでちらばっていく
言の葉のたちをつかまえる
たのしいようなくるしいような
そんなじかんがわたしはすきです
物語なんだけど、すごくすぐそばで起きてそうな、物語。だから「日常という名の、劇場」。これは誰かの日常の、断片。
(こっからが本編です↓ これから、気が向いた時に書き込むつもり)
「天気雨」
ぽつ、ぽつと、雨が降り始めた。空には青空が見えているのに。
音光(ねみ)は、そう思いつつ、折りたたみ傘を差した。
家路についた中学生たちが、わーわー言いながら他人の傘に入ったり、傘を差したり、走って帰っていったりしている。
徐々に強くなる雨が降る空を、音光は見上げていた。
「…音光ちゃん」
名前を呼ばれて振り向くと、同じ部活の葎(りつ)が立っていた。
傘を持っていないらしく、頭にハンカチを乗せている。
「ごめん、傘にいれて」
突然のお願いに音光はちょっと驚いた。そして、ちょっと考えてから、
「…いいよ」
と答えた。
2人は同じ中学の、同じ部活だが、友達と言うには微妙な関係だった。
だから、音光は気まずくて、葎を傘に入れるのを迷ったのだ。
でも、いつの間にか気まずさは失せていた。
誰しも一緒に居れば、時間が立つうちに慣れるものなのかもしれない。
そう音光は思った。
「…あ、虹!」
葎が向こうを指さした。
音光は微笑みながら傘をたたんだ。
いつの間にか雨は止んでいた。