シーツの皺と残り香の濃度は比例するくせに
キスの数でさよならが遠まることはなかった
瞳のランタンにあの日の背中を灯したまま
愛してるの剥製にすがることしか出来ない
あなたの心室で生きたかった
目の眩むような輝きはなくても
四方4mが照らせればいいと
そう思うのは甘いだろうか 妥協だろうか低いハードルを満足気に跨いでいると
人は笑うだろうか 貶すだろうか
そういう人たちは
手の届かない場所を照らして
或いは照らした気になって
全能感に酔っているとは
微塵も思わないのだろうか
いざ暗闇に光を当てて
目も当てられないような惨状に
迷わず手を伸ばせるのだろうか
簡単ではないがYESかNOの単純な質問だ
この返答ひとつで
僕の喜怒哀楽は左右される
強すぎる光も考えものだ
好きな女優さんは?
なんて自分で聞いておいて
嫉妬しちゃったじゃない
だって
君の好きな女優の髪型はロングなのに
私の髪はショートなのよ
もうどうにもならないじゃないの
遠い気持ち、そんな感じだった。他人事のような、そんな気持ち。
「すみ、ません……。」
何に謝っているのだろうか。
英人のことを忘れていたこと?英人だけ誓いを守ってくれていたこと?
どれも、違うような気はした。それでも、他に言葉が出てこない。
英人は苦笑する。
「瑛瑠も言ったように、これは言うはずじゃなかった言葉だ。忘れてくれていい。
ただ、瑛瑠は何らかの自己防衛が働いて、その時の記憶がないんじゃないのか。」
それは、考えたことがなかった。
当たり前だが、チャールズは何も言わなかった。その事が、無性に腹を立たせた。
「つまり、夢の出来事は過去実際にあったことで私の記憶ではあるけれど、何らかの理由で一時の記憶喪失になっているということですか。」
「僕の考えでは。」
それでは、これは自分の記憶と考えて良さそうである。それに、しっくりくる。
「それじゃあ次は、何が瑛瑠をそうさせているのかが気になるな。」
こんばんは、と云うことばがぼくの頭のなかだけでぐるぐると渦巻いている。今までぼくはいったいどんな「詩」を描いていたんだっけ。
たった数週間前(数日前…!)までの習慣をすっかり忘れてしまうだなんて、馬鹿な話だけれど、人間なんてそれぞれぐらい馬鹿な存在なのかも知れないだなんて、戯れ言と戯言ばかりだね。たった一文字のミスタイプで小学校からの同級生の名前が変換されて妙に動揺してみたりして、だから今日は指先が赴くままにばらばらとことばをおとしていこう。少しだけ慣れないノートブックPCの薄いキィボードが愛おしいと云う感情は何年ぶりに取り出してきたのだろうか。屋根裏部屋のようにごちゃごちゃと散らかったぼくの頭の片隅からWorldWideWebに繋がる電話線はいったい何マイル?
「そういうとこだぞ。八式」
その言葉に八式の頬がぷっくり膨れる。分かってますよぅ、と言いたげだ。
「美澄先輩、こんにちは。これから店番ですか」
「ん、八式が来るちょっと前から。八式の珈琲、私が出したし。まあこの様子じゃ……」
美澄は店内を見渡す。閑散とした店内には目の前の客二人と自分しかいない。
「……正直、さぼりホーダイだよな。あと、ボクの名前は律と呼んでくれと前々からいってるんだけど」
「すみません、八式先輩につられてしまうもので」
一人称がボクの店番の彼女は、その名前を律響院美澄といった。
「八式も、律と呼んでくれよ」
「昔は美澄でよかったじゃない。もうそっちに慣れちゃったわよ」
「八式先輩と美す……律先輩って昔馴染みですもんね」
「まあ、そう言うのは分かってたけどさ」
何故か名前で呼ばれるのが嫌いな美澄は、白鞘のオーダーを受けて珈琲を淹れ始めた。いい香りとともに黒い液体が落ちていくが、そこにはあとで大量のミルクと砂糖が入れられる予定である。
「それで?話って何」
美澄は出来上がった液体を白鞘の前に置きながら本題に入る。
美澄がここの店番とはいえここに自らを含めて3人を集めた張本人が、その言葉に待ってましたと言わんばかりに口を開く。口の端をわずかに上げながら。
「二人とも。”魔法”って知ってる?」
カランコロン……、とドアベルが鳴る。
木製の扉を開けたのは一人の高校生。
入り口から差す夕日の逆光のせいでその顔は伺えないが、彼を待っていたカウンター席の客は、すぐにその人物が自分の待ち人であることを知れたようだ。にっこりとほほ笑んで彼を呼ぶ。
「白鞘、こっちこっち」
白鞘と呼ばれた高校生は彼を呼ぶ声の主を見つけると、彼女がいるカウンター席に向かって一直線に歩いていった。客はもともと彼女しかいなかったので迷いようはない。
白鞘はその客の隣のカウンターに腰掛けた。
「どれくらい前に着いてたんですか、八式先輩」
八式というらしい名前の客は一瞬時計を見て「10分くらい前かな」と答える。どうやら二人は待ち合わせをしていたらしい。八式の手元には湯気が立つ珈琲がある。
「白鞘はここまでのんびり歩いてきたの?レディを待たせて」
「本物のレディは自分のこと、レディなんて言いませんよ。それにたかが10分じゃないですか。誤差ですよ、誤差」
「まあ、白鞘は鈍足だから仕方がないか」
「……一概に否定できないのがまた悔しいですが」
体力テスト時の白鞘の50m自己ベストは9秒前半である。
「たかが10分程度を遅刻扱いにするのは流石に酷だと思うが」
店の奥からひとり、顔を覗かせるものがいる。
黒のエプロンを身に着けたその人物はこちらに歩み寄ってきた。
「そういうとこだぞ。八式」
―――――
設定書くの飽きたので本編書き始めます。世界線は作中で追々説明を追加する予定です。
人物紹介を一つ。
律響院美澄……ボクっ娘。髪の毛はショート。
答えを探していた...
なんでここに居るの?
なぜ生まれてしまったの?
回答者のいない問は宙に消えていった
けど生きる理由なら、すぐ側にあっただろう?
守りたい誰かがいて
追いかける背中があった
俺達は一人じゃない?分かるだろ?
何もかも諦めて生きていくつもりはない
立ち上がって前を向け
前を睨んで進んで行け
答えがあると信じて...
なんだかいつもとは違う気がして
いつもは飲まないフルーツジュースを買った
プルタブを引いて
ゆっくり歩いた
歩きなれた道は
どこか初めて来た場所のようで
引き付けられるように
ふと見上げると
ほら、
冬の星座だ
所詮は理想
見たくない現実から逃げたいだけ
言い訳を並べるだけでも
今日に背を向けてもここから逃げたかった
明日を葬ってでも
手に入れたい自由がある
常に自分が納得いく、美しいものが作れるわけではないけれど、誰になんと言われようとも、きっと自分は美しいものが作れると信じたいと思う。
コーヒーを口にした英人は元の表情。真剣ともいえるし、無表情ともいえる。
「君だから守らなければと思ったのに、当の本人には忘れられていたとはな。」
……拗ねている?
数々の、取りようによってはお節介にも当てはまる行動が、瑛瑠の脳内をフラッシュバックする。
望をワーウルフだと知り、瑛瑠を知っていたからこそ、はじめに忠告してくれた。あれは、瑛瑠が英人を知っていること前提での語りだったのだろうか。だから、自己紹介もなしのあんな物言いだったと。
よく知りもしない瑛瑠に、なぜ随身具なんていう大切なものを貸してくれたのだろうかと思ってはいたが、英人は知っていたのだ。瑛瑠がパプリエールで、10年来の守る存在だと。
「それをふまえての、“覚えてないのか”。」
そんな昔のことを。
そもそも自分たちは平行線だったのだ。持っている記憶が違う。分かり合えるはずがなかった。
生きるのが馬鹿みたいな世界だ
って思ってた
くだらない 面倒くさい 消えてなくなりたい
でも君はそんな世界を受け入れていた
今、に必死にしがみついて生きてた
だから今はそんな君が生きるこの世界が
好きで
好きで
好きで
好きで
好きで
仕方ない
笑っちゃう程単純だけれど
そんな単純なことが生きる意味になることも
あるんだ