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自分論

びしょ濡れの心を後ろ手に隠して
本心を悟られまいと口角を上げる
表面上だけ取り繕って睨み合う
心の底から助けてと言えるなら
とっくの昔にそうしてた
泣いてもいいよと言われたら
濁った涙を無理矢理流す
今やそれが本心だと
堕落した仲間を横目で見る
いっそあんな風に
全てを諦められたら
どんなに楽だろう
諦めなくていい世界を夢見ながら
今日も眠りにつく
結局何も出来ないままで
私の世界は終わっていく

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とある街にて 9

「それで、その彼女にもう一度会いたいの」
”彼女”とは、無論魔女のことだ。八式と謎の”魔女”の衝撃的すぎる対面の話で引き攣った顔を、白鞘と美澄はケーキの甘味と時間の経過によって収まらせた後の話である。理解しがたい情報で埋もれた脳が、白いクリームとイチゴの酸味で再び回転し始める。
「確かにその”魔女”の存在を信じざるを得なくなりましたが、もう一度会うといっても難しいと思いますし、ていうかなんでもう一度会いたいんですか。普通トラウマで顔も見たく無いみたいになってもおかしくないんじゃ……」
「まあ、少し恐怖心は残ってるけど」
「残ってるんかい」
「でもその人、なんか雰囲気が違ったのよ」
「そりゃ、RPGマジシャン装備で目の前に壁貫通で現れたら、雰囲気くらい不思議に思っても不思議じゃないというか」
「ううん、違うの。なんていうか……外人?みたいな。とにかくここの、カグラの人ではないと思うの」
「カグラだって人口多いんだ。そんな奴が一人や二人くらいはいるんじゃないか」
「うーん……」
釈然としない声を出したまま八式は宙を見上げた。外国が存在しない今、外国人なんているはずがない。しかし八式は確かにあのとき、この都市とは異なるにおいを嗅ぎとっていた。カグラの人ではない、と直感的に悟っていたのだ。
「もしその人が、本当に”外国”から来てるのだとしたら……」
呟くように言葉を発してその口にケーキを静かに突っ込んだ八式に、白鞘が答えた。
「まあもしそれが本当なら、大発見ですよね」

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LOST MEMORIES ⅡCⅩⅨ

「デ、デートと言いますか、お話と言
「デート?」
蛇に睨まれた蛙というか、鷹に見入られた蛇というか。
「……はい。」
英人はあくまで上品に、手元のブルーベリータルトを一口サイズにフォークを入れたかと思えば、それを瑛瑠の前に差し出す。
それが何を意味するのかわからない瑛瑠ではない。
無表情とはタチが悪いぞ、イケメンヴァンパイア。
顔に熱が集まるのがわかる。たぶん、英人は引かない。渋れば渋るほど恥ずかしさは増すばかりだろう。
瑛瑠は覚悟を決める。
「い、いただきます。」
ちょっとだけ身を乗り出して、そのブルーベリータルトを食べる。恥ずかしさは最高潮。顔から火が出そうだ。
しかしそれも一変。
「このブルーベリー、最高に美味しいですね!」
弾けるような酸味と、それを包み込むような甘味が口内をくすぐる。
味覚の勝利だった。
英人は尚も表情を崩さないでいたのだが、瑛瑠がブルーベリータルトの魅力をかれでもかと嬉しそうに話すので、降参と言って、呆れたように微笑った。
「もう少し意識してくれてもいいんじゃないのか。」
「……何にです?」

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とある街にて 8

「いや、それがさ。もう信じるしかないというか……? 」
「それはどういう? 」
「さっきの話にその”魔女”が壁に入り込んだって言ったじゃない。そのことで」
そう言って八式は、店の壁際のテーブルを指さした。
「ちょっと前にあそこに座った時があったんだけど」
「え、八式っていつもカウンターに座ってると思ってた」
「その時はカウンターにまあまあ人がいたから。勉強に集中できそうな壁際に席を取ったのよ」
「八式が勉強してる姿なんて見たことない……」
「美澄が店番じゃないときよ。それでその時に」
彼女の顔がふたりに見えなくなるように八式は両手を前にかざした。
「勉強がひと段落して、私が机から顔をふと上げると――」
かざしていた両手を開き、顔を前に突き出す。八式の整った顔があらわになる。
「――いたのよ。その”魔女”が」
その席の目の前には、壁しかない。
え、まさか。
「……それは窓から顔を覗かせていた、とかではなく……? 」
先ほど指を指されていた席の壁には窓なんて見当たらない。なにより、八式のジェスチャーが”魔女”がどうやって彼女の前に現れたのかを雄弁に物語っていた。
「……壁から……生えてきた、みたいな……? 」
美澄の言葉に、思わず苦笑いを漏らす八式。
「三角帽に地味なローブ、白い髪だったから、ほぼ間違いない」
ほぼ、というが、普通人間は壁から生えてこないので、そういうことだろう。

八式はすでに、衝撃的すぎる対面を果たしてしまっていたらしい。

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デカダンス

変な仮面をつけた奴らが
窓を割って押し入ってきた
1人は錆かけの針が頭を貫通し
1人は犬を齧っていた

僕はとうにハイになっていたから
錆の針にキスして唇を切った。
1人はズボンを下ろして
そこらじゅうに撒き始めた
撒き始めたのさ。

きっとあなたがたはお気付きにならないだろうが、世界は滅亡を望んでいる。
きっと神の御加護を待つのでしょうが、神はもう殺した。あなたがたが。

退廃的な真っ白な顔で1人は
痙攣する犬を優しくも焼いた。

きっとこの詞があなたがたに読まれる頃には
犬も神も風も死んでいる。

アハ
アハ
アハ アハ アハ アハ

堕落
堕落
堕落 堕落 堕落 堕落

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NAME.

少しずつでいいから
ゆっくりでいいから

移りゆく季節の中で言葉を運ぶ
ぷかぷか浮かぶ方舟

夕凪、時が止まるように
こころが動けば

きみにとどけと言葉を編むよ

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沖へ

羅針盤などなくても

地図などなくても

船は沖へ沖へと進んでいく

けれど

乗る人がいなければ

荷物を積んでいるのでなければ

それはただの大きな木の塊だ


生きることに理由などない

向かうべき場所もない

けれど

生きることに意味はあるのだ

それを探して

それを見つけて

そのために生きて

それでこその人生なのだ

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No music No life #1 Adventure

美月視点


結月姉の家は、保護施設だった。
「ただいま〜」そう言う結月姉。「お邪魔します。」と言って施設の中に入った。
「おかえり〜」という声が聞こえた。すると結月姉の同居人と思われる女の子達がきた。そしてこう言い放った。「どうしたの?その子」と。
そして結月姉は私を紹介した。「公園に居て、帰るところないっていうから、連れてきた。」そう言うと、「自己紹介して」と小さな声で私に言った。そして今日から同居人となる人達に自己紹介をした。

【続く】

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いつも

なんかおかしいなー
いつもならうまくいくのに
すぐに答えが出るのに
好きな人なんてもう作らないし
もうアニメのなかのキャラを
かこっいいなんて言わないし
変なくせもやめるし
早く答えを出るようにしてーーーー

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LOST MEMORIES ⅡCⅩⅧ

「君、自分の言ったことの意味わかっているのか?」
追加注文したブルーベリータルトを目の前に、英人はそんなことを聞いてくる。キラキラと宝石のような紫は、彼の黒によく映えていた。
デート、といってもこの喫茶店を離れるつもりはなく、堅い話抜きで談笑しようということなのだが。
「ええ、わかっていますよ。
付き人の反応が面白いことになりそうなので、名義上、デートです。」
そんな瑛瑠が注文したのは、ラズベリータルト。英人のがアメジストなら、こちらはルビーである。
英人は苦笑して、付き人も苦労するだろうななんて言うからたまったものじゃない。
「チャールズは、私よりもタチが悪いです。全てにおいて彼の方が上手です。」
自分もタチが悪いと文法上認めてしまったことになるのだが、多少の自覚はあるのでここは素直になってみる。
そんな彼女は、タルトを口に入れ、目を輝かせた。
「甘酸っぱくて、とても美味しいです!」
英人も自分のタルトを食べ頷く。
そして、あ。と言葉を溢した。
「どうしました?」
瑛瑠は反射的に身構える――うちにいる付き人と同じ顔をしている。
「瑛瑠、さっきデートって言ったか?」
嫌な予感がする。