「……そんなことはありません。」
「ある。」
「ありません。」
「僕が何かしたか?」
「してません。」
「……送ってく。」
「結構です。」
英人が困ったように歌名を見るから、やれやれとでも言いたげに口を開くことになる。
「英人くん、OTかましている自覚は?」
英人は顔をしかめる。
「何が言いたい?」
「じゃあ、他に送るべき人はいない?」
さらに顔をしかめる英人。
見事に会話から外れた瑛瑠が、見物だななどと思っていることを知る由はない。
「そんな態度をとった覚えはないし、ふたりのことだから送ろうとも思う。」
瑛瑠はじとっとした目で英人を見つめる。
「そういうところですよ……」
すると歌名は何かを悟ったらしい。いきなり笑い出して。
「私たちは結構重症みたいだ。瑛瑠、送ってもらいなよ。コンビニスイーツはまたあとでね。」
そう言ったかと思えば、手を振り、瑛瑠を置いていってしまった。
さて、何かを知った風な潤滑油を失ったふたりに会話は成立するのでしょうか。
もし旅に出るとしたら、どんなものを持っていこうか。
財布、携帯、充電器、着替えの服、数日分の食べ物と飲み物、毛布。
それから、小さい頃からずっと一緒のぬいぐるみ。
全部リュックにつめて、持っていこう。
だけど、何も持っていかなくてもいいかもしれない。
ぬいぐるみには家で留守番をしててもらって、
行く先々でいろんなものを調達して。
荷物なんか持たないで、
自分の身ひとつだけで。
旅に出たい。
質問者:さあ、結論を出してもらおうか。
回答者:じゃ、じゃあさ、お前はどう思うのさ?
質問者:は?
回答者:お前は愛って何だと思う?
質問者:分からないから聞いてんじゃん。
回答者:うっ。
質問者:出しな…テメーの『答え』を…。
回答者:んー…。暫く考えさせて。
質問者:駄目。
回答者:むー…。そうだなー…。
質問者:さあ、どんな答えを出すんだ?
回答者:愛とは…つまり…感情の1つだ。
質問者:うん。それで?
回答者:人を大事に思ったり、特別に慕ったり、そういうのが『愛』だと国語辞典にはあったんだよな…。
質問者:そうだね。
回答者:つまりそういうことなんじゃねえの?
質問者:ちょっと何言ってるのか分からないですね。
回答者:奇遇だな。僕もだ。
質問者君と回答者君に色々と考えてもらいましたが、僕にもよく分かりませんでした。しかし、強いて言うなら、愛とはそれそのものじゃないんでしょうか。つまり、愛というのは、「愛」という概念そのものなんですよ。例えば、「神」を具体例を出さずに上手く説明できますか?僕には無理です。つまりそういうことですよ。
頭から離れないこの4桁
何かなって考えたら
あなたの車のナンバーでした
質問者:で、愛って何なんだよ。
回答者:話が戻ったか。
質問者:逃がさないよ?
回答者:チィッ。
質問者:さあ、答えな。
回答者:本当に…それに答えれば…僕の命は助けてくれるのか?
質問者:え、あ、はい。
回答者:だがことわr
質問者:言わせねえぞ?真面目に答えてくれよ。
回答者:知らないよ。国語辞典でも広辞苑でも百科事典でも引いてりゃ良いじゃあねえか。
質問者:あれ、この会話覚えがある。
回答者:ちょっと前にやってたな。
質問者:で、愛って何?
回答者:知らないよ。愛は愛だ。既に結論が出てるのにそこにわざわざ説明求めるとか野暮だろ。
質問者:何か上手いこと言って逃げようとしてるだろ。
回答者:けど、そんな気もするだろ?
質問者:いや、別に。
回答者:解せぬ。
忘れたくない
永遠に続け
時間なんか止まれ
今なら世界が終わってもいい
けど
世界は続くし
時間には置いていかれるし
君は僕以外を抱きしめるし
私はいつまでも忘れられない
貴方に褒めてもらうために
お高いシャンプー使ってみたのに
貴方ったらちっとも気づかない
それどころかお腹空いたーだなんて
しょうがないから作ってあげてたら
おもむろに貴方が後ろから
何かいい香りがすんねーって
抱きついてきたから
嬉しいのか恥ずかしいのか分かんないから
今作ってるフレンチトーストのだって
誤魔化したのよ
ズルい男ね貴方って。
「そう言えば、」
まるで他人行儀を通したような二人はいっこうに会話を交わさず、気づけばテ・エストの中腹に差し掛かっていた。いつしか黄昏も近づき、気温が下がりだした頃。出し抜けに、アーネストが切り出す。
「僕、シェキナのこと全然知らないんだけど」
「ん、そうなの?私はよく知っているわよ、アーネスト・アレフさん」
「イナイグム・アレフ」
「あら、ミドルネームじゃなかったのね」
「アレフは民族名だよ。てか、そんなことはどうだっていいんだ。一緒に旅する仲だ、もう少し君のことを知りたいんだけど」
「あら、大胆なのね」
「そういう意味じゃない」
辺りは次第に暗くなり、月明かりが目立ち始めた。登山道に積もる雪が白く光る。
「先にこの辺りで夜営できる場所を探さない?暗くなってくると夜行性の獣が活発になるわ」
「そうだな、今日中に頂上まで辿り着くのは厳しいかもしれないな。ほら、あそこに岩屋みたいなところがある。行ってみよう」
二人は確かな足取りで、道を外れて小さな洞窟に向かった。人が二人入る分には十分な大きさだ。
「ここならいいだろう、十分。どう、シェキナ」
「そうね、こんなところがあるなんて知らなかった。...にしても寒いわね」
「そうだな。まず火を熾さなくっちゃ」
アイネ・マウアの夜は暗い。町の灯りが全く届かない高さまで来ると、月のない日はそれこそ目と鼻の先でさえ全く見えなくなる。幸運なことに今日は満月だが、暗いことに変わりはない。そんな闇に、パチパチと焚き火のはぜる音が響く。
アーネストは、燠になった部分を掻き出して、エナのミートパイを温め始めた。
地下鉄に揺られ
真っ黒な窓に映った
腑抜けた僕の顔
もしかしたら僕は
なにかの抜け殻なのかもしれない
ほんとうは人間じゃないのかもしれない
とっくの昔に死んでいたのかもしれない
もしかしたら
はじめから此処に存在していないのかもしれない
ここは鏡の内側かもしれない
本物なんて
なにもないさ
あれはもう忘れたな
もう思い出す事もない
昔の話
だから会っても分からない
いつかのおはようも、もう思い出せない
いつかのサヨナラも、もう思い出せない
考えても分からないから困るんだよ
どれだけ時間が経っても分からない
いつかは分かるのかな
でも勇気がないからな
できるかな
歌名は、僅かに頬を赤らめる。
「そこまで言ったことなかったよね。
はじめはって……今はどきどきしないの?」
歌名の問いに、少し考える望。
「しないわけじゃないけれど、独占したいと思っていたんだ。ぼくの横で笑っていてほしかった。
……今は、ただ笑ってくれればいいかな。真剣に想いを伝えれば伝えるほど、彼女は困る。困ったように笑ってはほしくない。」
止まっていた手を動かす。言葉にして初めて、自分の想いや考えを再認識する。
「それは、愛なの?」
「……どうだろう、たぶん愛になるにはまだ何かが足りないと思うよ。やっぱり、ぼくの横で笑っていてほしいと思うし、霧と仲良く話すのを見て妬くくらいにはまだまだ恋だろうし。
……ただ、それ以上に四人の時間や関係が好きなんだ。これを、壊したくない。」
望は歌名を見つめる。
「ぼくが壊してはいけないし、みんな壊さないと信頼してくれている。もちろん、ぼくもみんながそういうことをしないと信頼している。だとすれば、みんなとの時間や関係に対する想いは愛かもしれないね。」
歌名は一通り聞いて、長テーブルに突っ伏す。
「なんで私の周りはそういうことを恥ずかしげもなく……!」
私もみんなのこと大好きだよと、消え入りそうに紡がれた言葉は、穏やかな空間に吸い込まれた。
「望は瑛瑠のことが好き。」
目の前で書類整理をする同士の言葉に、思わず手が止まる。
「……うん、好きだよ。」
「それは、恋なの?」
そう言う歌名の目は、興味や好奇心というよりもずっと、純粋な質問の色をしていた。
ここで冗談を言おうものなら、しばらく口をきいてくれないだろうことは目に見えていた。
「たぶん、はじめは。」
だから、真面目に答える。これが、今出せる1番近い答え。
思った通り、歌名は怪訝そうにこちらを見る。
「今も好きなんだよね?」
「もちろん。」
わからないと顔で訴えている彼女に、微笑いかける。
「控えめに笑うところが可愛いし、何かしているときに手伝いを申し出てくれる優しさとか、周りをよく見ているところとか、意外と隙があって心配になるのも愛しいと思うよ。
――はじめは、それにどきどきしていたし、独占したいと思った。」
ちょうどいいところに収まりたい
密集したなかで 周りからの圧力のなかに自分の姿かたちを感じていたい
独りでは曖昧な 不確定なその輪郭を
ちょっと出ては叩かれて
もといた場所に戻される
居場所があるって安心感
出過ぎた真似をしている 杭は
抜け落ちてしまうのだと
18年も生きてればわかる
ちょっと出てしまったが
この程度なら問題はない
きれいさっぱり整った
味も素っ気もない人生
無味無臭の透明人間
だいすきなひとたちは
そばにいなくても
あえなくても
「このせかいにちゃんといる」
そうおもってしまっているけど
そんなほしょうは どこにもない
いなく ならないで
ここに いて
おねがい
【ふとした時に、あの人がいなくなっちゃったらどうしよう。と果てしない不安に襲われます。
この世界にいて欲しい、生きていてくれるだけでいい、そういうのを 愛 って言うのかななんて】
たった一回のクラクション
無我夢中で手を振った
多分あの1秒のために
私は懸命に生きてきたんだ
僕らはまた、夢を見れるのかな?
真夜中の街中を走り抜ける
夜空のキャンパスはとうに街の灯りに塗り潰された
どうしようもない現実に
僕は生きることを諦めかけた
けれど君は笑いながら言ったよね
「僕らの色で塗り潰し返せばいい」と
傷を厭わず、前に進む君が羨ましかった
だから、僕も前を向こう
何度だって立ち上がろう
君と夢を見るために
君とあの夜空で夢を掴むために
もしも、
この想いが消えないで
君のことを、
ずっとずっと好きでいることができたなら。
これが、
運命の恋ということなのだろう。
だから。
どうか消えないで。
吐き出した弱さが星屑になればいいのになあ
そうすればこの痛みも悪くないって思えるのに
冷たいきみにあげたいの
お飾りの言葉をだらだらと
定石もないよ
いつだってきみが一番だ
詰め込んだ理屈で笑顔を勝ち取れるなら
ぼくは溢れるほどの書物で埋もれて眠りたい