胸の痛みに伴って
目から溢れる青いはなびら
どうかこのまま、
しばらくこのままでいさせて。
いつの間にか彼女はわたしの近くまで来ていた。その赤紫色の目が、わたしの目を―むしろ、その奥にいる弱いわたしを、覗き込んでいる。
「ボクだって、アンタみたいに死を願った時がある。―でも、今は違う」
彼女の言葉を聞くうちに、彼女が人間じゃないような気がして、思わずこう聞いた。
「あなたは―人間じゃないの?」
フッと彼女は笑った。
「ボクは人間だよ。ただ、持っている”力(モノ)”が違う」
「もの…」
「そうさ、モノだよ。力だよ。だから、アンタとは同じで違う」
その目の赤紫が、濃くなったような気がした。
「ねぇ、じゃあ、その”力”って…」
そう言いかけたわたしを、彼女は面倒くさそうに遮る。
「聞くな。それ以上聞かないほうがいい…帰る」
そう言って、ネクロマンサーはわたしの横を通り過ぎ、わたしの後ろにある螺旋階段を下りて行った。
不思議なことにその手には、あの巨大な鎌はなかった。
「帰るって…」
わたしは彼女が去っていった螺旋階段を、ただ茫然と見ることしかできなかった。
〈1.ネクロマンサー おわり〉
あなたは私立の男子校に通う一六歳。ある日父親から、実は双子の兄がいるときかされる。会いたいかと言われ、もちろんだとこたえる。
しばらく経って、運命の再会。あなたとよく似たお兄さんが驚いた顔で言う。
「妹だと、きいていたんだけど」
男と女という二分論でものごとを考えている時点でたいした情報処理能力の持ち主ではないと考えたあなたはお兄さんに見切りをつけ、去る。何だこの話。
「いや〜、助かりました。 なかなか止まってもらえなくて」
「ヒッチハイクで旅行なんて無謀だ」
「日本人は親切だってきいてたもので」
「そう簡単に車に乗せたりはしないよ」
「はい。三日間立ちっぱなしでした」
「もう歩けよ」
「へへへ」
「へへへって」
「あ、紹介遅れました。わたしはチャンシャガチャンドリンアスパルクです」
「すごい名前だね」
「ワンチョリカンガジ語で天の上の出っ張った谷、輝ける暗闇の閃光です」
「支離滅裂だ……ワンチョリカンガジ語ってどこの言葉だよ」
「世界で三人しか話せる人いません」
「失われゆく言語か」
「ちなみにワンチョリカンガジ語が話せるのはわたしとお父さんとお母さんです」
「君の一族で伝承してるんだ」
「いえ、わたしとお父さんとお母さんで考えた言葉なんです」
「そんなの言語として認められるか」
「ところでお家はどのへんなんですか?」
「この近くだけど。もっとにぎやかな所まで送るよ」
「あの、なんかヒッチハイクするのも疲れちゃったんで、お宅に泊めてもらえませんか。よかったらワンチョリカンガジ語教えますんで」
「降りろ」
「まあまあ」
「なにがまあまあだ」
「あ、そこでいいです」
「そこで? 車なんてまず来ないぞあんな通り」
「もういいんです。国に帰ります」
「宇宙から円盤でも迎えに来るのかぁ?」
「ははは、まさか」
「じゃあな。気をつけて」
「どうも」
*
「ただいま」
「お帰りなさい。どうしたの? なんだか顔色が悪いけど」
「ああ、いや、何でもない。はるとは起きてるのか?」
「もう寝ちゃったわ。あなた遅いんだもの」
「そうか」
なぜ自宅を通り過ぎてしまったのだろう。会社を出てからの記憶がまったくない。脳梗塞かなんかの前兆だろうか。来年は人間ドック受けるか。また金がかかるな。
「ナルゴルンギュンギュワベイ?」
「何だって?」
「ワンチョリカンガジ語でビール飲みますかって言ったの」
「何だそれは」
「はるとと二人で、家族だけに通じる言葉を考えようって、さっきまで遊んでたの。面白いでしょ」
「家族だけに通じる言葉か。そりゃいいや」
俺は缶ビールを開け、一口飲んでから、明日は久しぶりにドライブでも行くか、と、妻に言った。ワンチョリカンガジ語で。
紅潮した頬、湿った瞳でチャールズを見つめる瑛瑠は、はぁ,とため息をつきうっすらと微笑む。
「チャールズ、好き……。」
言われたチャールズは満足げに微笑み、囁く。
「もっと……?」
「!!」
尋ねられ、ぱっと顔を輝かせる瑛瑠。
「もっと……!」
小さく笑って、チャールズは小さなカップケーキを差し出す。
瑛瑠は嬉しそうに甘くうっとりとさせ、ありがとうと口を開く。
「ふわふわで、爽やかなオレンジの甘みが鼻から抜けてきて、とりあえずとってもおいしいの。」
「丁寧にレポートありがとうございます。」
ご希望のキャラメルマキアートにカップケーキを添えて微笑むチャールズに、見事満足させられた瑛瑠は、またひとつカップケーキを手に取る。
スポンジ生地の下半分をちぎり、フロスティングの上に被せる。
そして、チャールズの顔の前に持っていく。
少し目を丸くしたチャールズは、瑛瑠が思っていたよりも大きく食べるから、
「おいしいでしょう?」
「はい。」
苦笑した彼ににっこりする。
「だって、チャールズが作ったからね。」
きみはふわふわしてて、柔らかい。
甘い匂いがする。
みんな大好き。人気者。
仲間がいるほど輝いて、きらきらする。
そのやさしさで、包み込んでくれるんだ。
きみは屋根みたいだ。
普段はあまり気づかないけど、守ってくれてる。
まぁ、これはある人の受け売りなんだけどね。
きみがいてこそ、輝けるものがある。
その力は、みんなを笑顔にするんだ。
目には見えなくても、伝わるものはきっとある。
消えてしまいそうな優しい笑顔
バカにしてくるのに一番心配してくれる
私が泣いたら一緒に泣いてくれる
寂しくなったらすぐ拗ねて
結局拗ねてごめんって謝ってくる
そんな貴方が大好きよ
少女「私のことどれくらい好きですか?」
少年「突然だな。…そうだな…。地方自治体の一つや二つ程度お前が敵に回したとしても溜息吐いてお前の味方になれるくらいには」
少女「え、何かすごい微妙……。そこは『たとえ世界がお前の敵になっても、俺だけはお前の味方だぜ☆』くらいは言わないと。それだから甲斐性なしって言われるんです」
少年「僕だって勝てないもの敵に回すほど馬鹿じゃない」
少女「地方自治体なら勝てるんだ……」
少年「そのくらいならいけそうな気がするんだ」
少女「ところでさっきそこで傷害沙汰起こして今警察に追われてるんですが、味方してくれますか?」
少年「諦めて自首しなさい」
少女「そんなぁ……」
少年「警察沙汰な時点でもう国家規模だろうが」
少女「国家ならギリギリ」
少年「アウトだ」
少女「ところで自首ってまだバレてない時に使う言葉だと聞いたことがあるんですが。もしかしてさっき知らないで言いましたか?」
少年「お前もう捕まれよ!」
少女「逆ギレ?」
少年「あ、お巡りさんこいつです」
少女「え、あ、ちょ、いや待っ、ごめんなさい調子に乗りました謝るのでそれだけは」
少年「駄目」
少女「そんなぁぁ………」
今日は卒業式練習があった。
本番は日曜日だから精一杯頑張って
三年生を送り出さなきゃなと思う。
明日は会場設営だ…。三年生を喜ばせるぞ!!!
今日のおやつはいきなり団子だった。熊本っぽい笑